第131話 やってきました大都会、ブロランスの街。
空白の二年辺の始まりです(*‘∀‘)
クリン君が何故唐突にブロランスの街に現れたのか、の辺りから。
元々クリンがこの地に来たのは二年前の春先に、村を出た後当初の予定通りに一番近い町に移住目的で移ったのだが、その町が思っていたよりも住み難かった為だ。
ここの町でも先年に起きた広域野盗騒ぎのアオリを受けていた。襲撃から辛うじて逃れた者や、野盗を退けた物の村としては機能しなくなり見捨てて出て来たりした者達がその町に既に大量に流入していた。
また、近隣の村への農作業の出稼ぎを見越していた人間も、野盗騒ぎでそれらが無くなりクリンが出て来た村だけでは当然それらの者達の仕事が賄いきれず、それらの難民や仕事にあぶれた連中で町はちょっとした混乱になっていた。既に襲撃から一年近く経とうとしているのだが、こういう未発達な世界では中々尾を引くようである。
町がこの様子なので、クリンの様な孤児が紛れて生活するのが難しいと感じ、また町で暮らそうにも六歳の孤児が宿など泊まれる訳もなく、お金が有っても路地裏や空き地で難民に交じって生活するしかない状況だったので、この時のクリンは早々にこの町で生活をする事を諦め、村を出る時に貰った紹介状を頼りに早々に隣の領に移る事にした。
この国では、領を跨いでの移動が割と容易だ。何なら隣国への移動もちょっとした手続きをすれば前世よりも簡単に移れる。
その代わり町や街、都市などに住む、所謂「市民権」を得るのが無茶苦茶大変だ。町などへの出入りは入場料を払えば割と簡単だ。しかし住むとなると話は変わる。
一番楽なのが宿への長期滞在だがそれだって証明書を貰う必要があるし、次に楽な借家や賃貸物件もあるが身元保証か職業保障が無ければ部屋を借りる事も出来ない。
これらが無ければ町の中で寝泊まりする事が出来ない。市民権がある者なら——命や財産が残っているかは別として——路地で寝ても問題は無いが、市民権を持たない者がコレをしたら衛兵に捕まる。
そして市民権を得るには纏まった金とコネが必要であり、別の町で市民権を獲得しているのでも無ければそう簡単に市民として移住は出来ない仕組みになっている。
クリンの場合はトマソンからの紹介状と、ファステスト村(クリンは未だに村の名前は憶えていないのだが)から発行された住人届けの二つがあった為、領間の移動もブロランスの街への入場も比較的楽であった。
初の長距離移動と言う事で、大人の脚で五日の所をかなり用心深く移動し、半月近くかけてブロランスの街にたどり着いた。
乗合馬車や移動する商隊に便乗すると言う手も無くは無いのだが、やはり当時の少年の年齢では難しく、単身で旅するしかなかった。
村での生活がアレだったのでスキルが生えている現在は野宿野営はお手の物であり、時間はかかったが問題なく移動出来ている。
ブロランスの街はクリンがこの世界で初めて見る大都市と言って良い規模の町だった。最初の町も大きかったが、前世の現代日本で育ったクリンには町ではあるが田舎の鄙びた町程度の感覚で特に感動も無かったが、この街は「如何にも異世界の街!」と言う感じで大いにテンションが上がった。
後で知った事だが、この街は近くにダンジョンがあり、そこからの産出物が集まる集積場として町が生まれ現在の領、レステンド子爵領になってから領主街とダンジョンをつなぐ中継町になり、やがて領内の主要な町へ物流を流すハブ都市の性質を持つようになり現在の周囲数キロに渡って石壁で囲われた大規模な街へと発展している。
その為人口の流入出も多く、また物流で栄えている事もあり規模にしては入場料が比較的安く、人の流れも多いので詳しく詮索される事も無く通行出来ており、クリンには有難い町でもあった。
街に入り早速テオドラの元を訪ねようとしたのだが、大きな街なので直ぐに見つけ出す事は出来なかった。
市民権を得るのが大変で街で暮らすのは大変だと書いたが、この街はある意味特殊で、ダンジョンへのいわば門前町の意味合いもある為に他の街に比べれば住民になること自体は結構楽だった。
それと言うのもこの国ではダンジョンがある場所に直接住居を作る、つまり町を作る事を禁止していた。
この世界のダンジョンも、前世でよくあるような不思議な空間であり、迷宮型のダンジョンもあれば現実の環境を模したダンジョンもある、何故そんな物が存在するのか分かっていない。
解っているのはダンジョン外の環境や生態系を無視して、まるで世界のごった煮の様に、外界に居る魔物や生物が好き勝手に野放しにされている構造をしていて、無尽蔵に魔物や採集物が生み出されていく謎空間であると言うだけだ。
ダンジョン内で手に入る物も地域や環境を選ばない。砂漠の国に極寒の環境を持つダンジョンがあったり、それどころか階層毎に季節が変わったり、本来生息していない地域の生物や魔物が居たりと、かなり節操がない。
そのお陰で、本来その国では手の入らない魔物や鉱物や植物なども手に入れる事が出来る可能性があり、一種の資源庫として扱われている。
基本的にダンジョンは人が訪れる限り枯れる事は無いとされているのだが、稀に枯れる事もある。その際にダンジョンに頼り切った町は滅亡するしかない。
それを避ける為にダンジョンの周囲に町を作ってはいけない、と言う事になっている。
「表向きは」だが。ほぼ公然の事実であるが、ダンジョンには核となる物があるとされており、それが壊れたり力を失うとダンジョンも消滅する。その際、ダンジョンがあった空間が壊れるのか、周辺地域を巻き込んで崩壊する事がある。
過去には他国への嫌がらせとしてダンジョンを故意に潰して町を潰すと言う行為が多発した事がある。この崩壊は規模の大きいダンジョン程に被害が大きくなる傾向がある。
また、これ以外にもダンジョンの中には無尽蔵に魔物を生み続け出し、大氾濫を起こす、所謂スタンピードを起こすダンジョンもあり、困った事にこの大氾濫はどのダンジョンでも起きる可能性があるとされていた。
これ等の理由で、もし何か起きた場合に甚大な被害が起きない様に直接ダンジョンの周辺に町を作る事を禁止する国が増え、この国もその例にもれず禁止になってる。
同時にダンジョンの核を見つけた場合も手出し無用と言うのがこの世界の半ば常識であり、故意にダンジョンを枯らしたり核を破壊してダンジョン崩壊を引き起こした場合、大体どの国でも極刑が待っている。
ダンジョンのある周辺に建てて良いのはダンジョンを管理というか監視する衛兵達の施設と、ダンジョンに潜る者達が宿泊する為の施設と、それらの施設に付随する施設のみであり、規模的には千人を超える規模の居住地は作れない事になっている。千人規模は最大であり余程の大規模ダンジョンでしか作られる事は無く、大体は大きくても数百人規模が良い所である。
その様な取り決めがある為、ダンジョンに最も近い位置にあるこのブロランスの街はダンジョン街と言って良い性質を持っている。
その為ダンジョン探索をする者達やダンジョン探索をする冒険者の卵や卵にすらなれない者達などが多く集まり、都市の数か所にそれらの者達が集まった移民地区の様な場所がある。その地区だと比較的住人になるのは楽だ。
しかしその代わりに本来の区画とは区別されて一種の貧民街の様に扱われていて、正規の市民権を持つ住人の様に行政に関わる事は出来ないし要求も出来ない。
テオドラが住んでいる地域もこの移民地域に有ったた為、街に来たばかりでそのような事情を知らなかったクリンが探し出すのにはどうしても時間が掛かった。
ようやくテオドラの手習い所を探し出して尋ねるのに、ブロランスの街に到着してから実に半週間(五日)もかかり、その間ほぼ街中での野宿(移民街は取り締まりが緩い為、長期間でなければ割とできる)をするしか無かった為、紹介状を握りしめ老婆の前に姿を現した際、
「何だい、この小汚い小僧は! ウチはお救い所でも孤児院でもないよっ! 物乞いなら他所でやっておくれっ!!」
と、長旅と水が自由に使えない街中野宿により、すっかり第二の村を見つけた時以上に薄汚れていたクリンに対しての、老婆の心温まる第一声であった。
身も蓋も無い事を書けば、この世界の設定の説明回(笑)
……うん、100話以上かけてからやる事じゃねえよな、マジで。
仕方ない、クリン君の生活が閉鎖的過ぎて説明する機会なかったんよ……
そして、初対面で「きちゃない」言われるのはクリン君のマストとなっているようです(´_ゝ`)