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第130話 擦られまくって煙の立たなくなった名言でも、やはり言いたくなる時がある。

謎の声&犬猫のネタバラシ回。

……まぁもう結構読まれまくっている感はしているんだけどなっ!

「主殿のお帰りをこの椿、一日千秋の思いでお待ちしておりましたっ!」

 クリンの肩の上で、ガっと片膝立ちになり畏まった様子でそう言って来るのは、赤い髪をオカッパにし、口元を布で隠して赤く染められた上衣に袴、手甲に脚絆まで着け足元は草鞋……ではなく何故かそこだけブーツの、要するに西洋人に多い勘違い忍者の様な恰好をした少女だった。


 ここまでやっておきながら、何故頭巾も被らずブーツなのか。


 しかもよりにもよって服が赤なのか。色々と言いたい事は有るが、取り敢えず飲み込んでクリンは少女に礼を言う。


「あ、ああうん。ありがとうロティ……」

「椿です」


「いや、確かロティムトティム何とかってやたらと長い名前が……」

「それは生まれの名前。今は魂の名、椿でお願いします」


「いや、それならせめてカメリアにしない?」

「致しませぬ。椿です」


「……元の名前の何処にも椿要素はなかったと思うんだけれども」

「それでも椿です」


 頑として譲る気の無さそうな少女の様子に、クリンは溜息を吐く。


「……………………………有り難う椿」


 思いっきり躊躇した後にそう言うと、肩の上の椿は嬉しそうに、


「はいッ!」


 と答え、スッと立ち上がるとそのままペシペシとクリンの耳の辺りを叩き、


「さぁ、里の皆が主殿のお戻りを首を長くして待っておりまする! 早く主殿の館に戻り皆を安心させましょうぞ!」


 元気な声でそう促され——クリンは己の悪行をまざまざと見せつけられている気分になり、思わず眼元を手で隠す。


「……コレが『己の若さゆえの過ち』って奴か……」

「如何なされましたか主殿?」


「……いえ、何でもありません。ちょっと過去に戻って自分をぶん殴って見たくなっただけです。では行きましょうかロッ……椿」


 《《左肩》》に自称椿を乗せたまま、ミスト・ウィンドを促して先に進む。道らしい道は無くなり、クリン達が街の行き来に通った後がそのまま道になっている所を進む。


 森の道らしからぬ道を進むこと暫し。やがて開けた場所に辿り着く。森の中のちょっとした広場になっていて、真ん中あたりに如何にも建て増しを重ねました、と言うようなやや不格好な家が見える。


 街から少年の脚で一時間半から二時間のこの場所に建つこの家こそこの周囲の木々を切り倒してこさえた、クリン・ボッター少年の現在の住処である。レッド・アイとミスト・ウィンドが手伝ってくれる様になってからは三十分強で街まで行けるようになっている。


 クリンの肩の上に居る椿はその不格好な家に向け何かを叫ぶ。が、声はクリンの耳には聞こえない。これは彼女の、いや「彼女たちの種族」の特性であり、得意とする魔法の一つ。特定の場所、或いは人物だけに声を届ける事が出来る魔法、ボイスブリング。なのだが……最近は「伝心術」と呼び始めている。クリンだけに聞こえていた声もこれによるものである。


 椿の声が届いたのか、家の方から何かがワラワラと飛び出して来る。意外と機敏な動きである。そして飛び出して来た何かは小屋に向って近づいて行く犬達に気が付くと、その場でビシッと整列し、一斉に膝を付きクリン達が到着するのを待つ。


 その光景に——再びクリンは手で目元を隠して思わず天を仰いだ。


「違うんだ、コレは僕のせいじゃない……若気の至り、そう気の迷いと言う奴で……」


 思わず現実逃避してうわ言の様に呟いてしまう。


「……主殿? 如何為されました?」


 耳元で不思議そうな声で言われ、クリンは観念し、


「何でも……ええ、何でも無いですよ」


 絞り出すように言うと《《彼等の前》》まで進んで、すでに立ち止まり居り易いように伏せてくれている、賢い犬から降りた。それに合わせてクリンの肩から椿が飛び降り、先程と同じように宙を滑空して仲間が列を作って居る中に着地し、同じように片膝立ちになる。


「……何でこんなに無駄に統制取れているんだ……」


 正直近寄りたくないのだが、彼等の前を通らないと家に入れない。諦めて歩いて行く。


「主殿。委細変わり無くご健勝のご様子、我ら心より安堵いたしておりまする。改めて我ら一同、主殿のご帰還を心よりお喜び申し上げます」


 彼らの代表である村長——今は何故か「頭目」を名乗っている、初老の男が言うと、周囲の者達が一斉に頭を下げ、異口同音に、


「「「「「「「「「「お帰りなさいませ、よくぞ戻られました主殿」」」」」」」」」」


 と大音声で言う。のだが、クリンの耳に届くその声は小さい。それもその筈。


 眼前で片膝立ちで平伏しているのは軒並み背が低い者達だった。


 否、背が低いと言うよりもハッキリと小さい。一番背が高いと思われる者ですら身長は三十センチ有るか無いか。先程の自称椿など二十二センチ程の、所謂リ〇ちゃん人形サイズしか身長が無い。


 そう。彼らはこの世界では半妖精に分類されている小人族だ。普段人前に姿を現さず、人間の生活圏の隙間に紛れ込んだり、人の寄り付かぬ山林などに隠れ住むと言う、半分以上お伽話の中の住人とされている種族だ。


 その伝説上の種族とされている小人族が、クリンの眼前にズラリと並び膝間づいて首を垂れている。しかも身に纏っているのはこの世界の一般的な服装では無く、どことなく前世の和服を思わせる造りの、それでいて現実では「それは無いだろう」と思うような色とりどりに染め上げられた、カラフルな衣装に身を包んでいる。


 クリンに臣下の礼……らしき物を取っているその姿は、『集団で勘違い忍者のコスプレをし、家臣団ゴッコに興じる小人集団』以外の何物でも無かった。


 しかも衣装のクオリティは無駄に高く、何なら片膝立ちで口上を述べるその姿はクリンが教えた通りで様になり過ぎている位である。


「おかしい……一体何がどうしてこうなった……」


 本来、如何にもファンタジー生物である小人の登場に、テンション爆上がりするのが何時ものクリン君だ。いや、確かに出会った頃はテンション爆上がりした。しかし今は駄々下がりである。


 前世で小人と言うのはファンタジーの王道であり、色々な媒体で出て来る。こちらの小人族も当初は同じような存在だと思っていたのだが——結果はコレである。


 いや、小人達を責めるのはお門違いだ。間違いなく、彼等小人族は前世の伝承に合致する、由緒正しい小人族その物である。


 ついでを言えば、クリンの後ろでキリッとした顔でお座りしている二匹の犬モドキも、荷台の上で我関せずと腕組み脚組みで寝そべっている猫モドキも、ただの犬猫ではなく前世の伝承にも出て来るクィン・シーとカット・シーと言う、それぞれ犬と猫に近い姿の精霊獣である。


 前世日本だとクー・シーにケット・シーと呼ばれる事の方が多いか。それぞれ、共に小人族に所縁のある精霊獣である。


 そんな由緒正しい霊獣と共にある小人族も当然由緒正しい小人であるのだが……


「ホント……なんでこんな事になったんだか……」


 クリンは天を仰ぎながらついぼやく。他人事の様な事を言っているが、ハッキリ言って大体コイツのせい(クリンの仕業)である。


 何故こんな事になっているのか。事の起こりはクリンがブロランスの街に移ってから半年、おおよそ一年半前。


 ——だが、正確な経緯を語るのなら二年前にまで話は遡る必要が在る——



実は古典に忠実であったのがバレた回でもあります(笑)

童話とかお伽話とかですと、職人さんとか生産職の話になると、結構な率で小人が絡んで来るんですよね。なので私の中ではクラフターと小人はセットに近かったのですが……


何故かなろう系異世界クラフト物だと出て来る事が無い!古典な筈なのにっ!明らかにオイシイ存在なのに何故だっ!

よし、誰も書かないならオレがやっちゃおうじゃないか!!

と、実は本当の初期からコイツ等が出て来る事が確定していました(笑)

小人さん達出て来ちゃうといきなりクリン君の生活イージになっちゃうから出番おそくなったんだけど……まぁ気が付いたらパワーアップしていたからいいかっ!


猫と犬か怪しい生物を使役していたり仲間になっていたりするのも小人物の童話やお伽話では定番なので、その辺りで勘の良い人は気が付いたりしていたのかな?

とか思っています(笑)


そして次回から、空白の二年の間に実は起きていた、クリン君最大のやらかしについての回想回に突入です!

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