第129話 お家へ帰りましょうっ!
この情報を小出しにしていくのは物書きの楽しみでもあります(´_ゝ`)
「へぇ、まだ猫に悪さする馬鹿が居るんだねぇ」
「そうみたいですね。猫んピードが起きた、って結構あちこちで噂になっているらしいですよ。あ、コレはお土産です。明日にでも子供達のお昼にしてください」
「……ウチは別に孤児院じゃないんだけどねぇ。と言うか小僧を真似て金じゃなくて物や労働で返そうとするガキが増えて困ってんだけどねぇ? 何だか知らない間に金じゃなくても労働すれば勉強教えてくれるってんで孤児とか食い詰めた家のガキが増えて、家ン中好き勝手掃除したり修理したりしていくんだけどねぇ! 挙句にどこぞの小僧が持ち込むから仕方なく飯食わせてたら周りの住人どもが聖人扱いして来るんだけれどねぇっ! 何で何だろうねぇっ!? そして頼んでも無いのに手伝いしていく奴が居るのは何でだろうねぇ、小僧!?」
「まぁいいでは無いですか。どうせドーラばぁちゃん暇なんですから、一人寂しくしているよりも子供達と一緒に料理でもするのも一興と言う物です」
「アタシゃ別に暇してないし寂しくもしていないよっ! それに小僧がアタシの興を決めるんじゃないよっ!」
テオドラの家に戻り、手土産を渡しながらついでに土産話もしているクリン。露店を開くたびに隣近所になった露天商から何かしら売れ残りを買い、テオドラに渡すのも定番になっている。
そして夕食は持ち込んだ野菜を使ったスープとパンで夕食を取る。街では庶民でもパンを食べる事が多いのだが、庶民の間で食べられているパンは大体が大麦に雑穀(小麦と大麦以外のオーツ麦やオート麦、ライ麦、豆類の粉など)を混ぜたパンなのが一般的だ。
大麦だけのパンはある程度の金持ち、小麦に混ぜ物したパンが食べれれば大金持ち、と言うのがこの世界では一般的な認識だ。小麦だけのパンは貴族以上の身分が食べる物だ。
なので、正直クリンにとってはこんなパサパサボソボソのパンを食うならライ麦粥でいいじゃん、と思ってしまうのはテオドラには内緒にしている。
そんな夕食を摂りながら、クリンはその日市場で起きた事をテオドラに話し、聞かされている老婆は「黙って食いな!」と言いつつもやや楽しそうに話を聞く、ここ二年で何度も繰り返された夕食を終えると、夜の鐘(午後九時)が鳴る前には就寝した。
翌日も昨日と同じく市場の外れに場所を取り露店を開く。前日にひと悶着あったが今日は何事も無く商品が売れて行く。結構な数の商品を持ち込んだつもりなのだが昨日の時点で大分売れていたお陰が、午後の鐘(午後三時)が鳴る前にはほぼ売り切れになっていた。
「有難い事だなぁ。何時もならもう一泊してから朝に買い出しして帰る所だけど……今ならまだ仕入れをしても日が高い内に門を出る事が出来そうだねぇ」
そうと決めれば、とばかりに早速店仕舞いをする。今日も隣で露店を開いていたオヤジに声を掛け、ライ麦は昨日買ったので今回は日持ちする根菜類や豆類を買う。その後近隣の露店を覗き、生活必需品——塩や油など——を購入し、ガラクタを売ってそうな店を探しては安い鉄製品を買っていく。
コレは勿論家に持ち帰って鋳潰すつもりだ。本当は鉄鉱石を仕入れられればいいのだが、あの手の物はほぼ街の鍛冶屋に買い占められており、クリンの様な流れでしかも子供では金が有っても簡単に手に入らない。
なので錆びだらけの廃鉄を中心に、捨て値で売られている鉄製品を適当に買いあさる。錆びていて捨て値でも鉄製品は高いのでそこまでの量は流石に買えない。
しかし、折を見ては鉄材を買いあさっているので、今回は少し微妙な量だが自宅で鍛冶作業が出来る程度の量は集まったと言える。
「よし、それじゃぁ帰りますかっ!」
一通り必要そうな物を買い集めたクリンは、早々に街を出る事にする。その前にテオドラの所に寄って帰りの挨拶と写本をする為の本を借りて行った。
その際に手習いに来ていた子供達に捕まり「何か面白い物は無いか」といつもの無茶振りを受けたので、売れ残っていた小型木像フィギュア(モンスターシリーズ。ゴブリンとかオークとかは良く売れ残る)を置いて行く羽目になった。
まぁ、売れ残った物なので元から人気が無いフィギュアである為、子供達からブーイングは来たのだが。
尚、昨日の差し入れはめでたく野菜スープになり子供達に振舞われた模様である。
そんなこんながありつつ子供達とテオドラに別れを告げ、クリンは来る時よりも大分軽くなった大八車を引く二頭の犬と、荷台で寝ている猫を連れて、ブロランスの街の横門を潜り外へと出て行くのであった。
そのまま道を進むこと暫く——
『ここまで来れば後は迎えの者が来ましょう。お館様、我々はコレで戻ります』
『何もないとは思いますがどうぞお気をつけて。ナッ太郎、街に戻りますぞっ!』
と、クリンにしか聞こえない声が言って来る。それにクリンは頷き、二匹の犬に合図して大八車を止める。
「何時も有り難うございます。皆さんもお気をつけてお帰り下さい」
と声に向かっていう。が、黒ブチ猫であるナッ太郎は荷台から動こうとはせず、
「ナッ」
とやる気が無さそうに鳴いただけだった。それを受けて、何やら声とやり取りをしていたのだが、やがて声が諦めた様に、
『ピザを食べさせてもらう約束なので、このままついて行くそうです……』
『またか。と言うかナッ太郎はココの所殆どずっとお館様の所に入り浸りではないか……』
声が呆れた様に言うが、クリンは「まぁまぁ」と窘める。
「別に構わないですよ。ナッ太郎にはお世話になっていますしね。それに猫……じゃないけれども猫は嫌いでは無いですし」
クリンの言葉に、ナッ太郎は得意気に尻尾をフリフリさせ、それを見たのか二つの声は、『『ハァ』』と溜息を吐き、
『致し方無し。ではお館様、これにてご免っ!』
『ナッ太郎をよろしくお頼み申します。それではこれにて。ドロンッ!』
との言葉と共に、クリンの頭の上と背中の辺りから「ポポンッ」と軽い音と共に薄く煙が上がり、二つの気配が遠ざかって行く。
「ちょっ! どこで何してくれてんのっ!? ってもういないか……ハァ……まさかあんなに気に入るとは思いもしなかったよ……」
チリチリと頭の上で毛が数本燃える感触に慌てて手で払いつつ、既に遠くへ行ってしまった気配に向けて溜息を吐く。
「全くもう……では行きましょう赤……じゃなくてレッド・アイにミスト・ウィンド。もう少しだけそのままでお願いします。……ナッ太郎もね」
「「バフンッ」」
「ナッ」
二匹と一匹はそれぞれ答える様に鳴くと、大分日が傾いてきた道を再び歩き出した。そのまま歩き続ける事一五分。街道を横道に逸れドンドン道は細くなっていき、周囲に人影は全くない。念のために周囲を見渡し、この二年で大分鍛えられた気配察知まで駆使して周囲を伺った後。
「大丈夫そうですね。それじゃぁ、一旦固定具を外しますよ」
と、二匹の犬に声を掛け、大八車を引く為の固定具を外す。二匹はやはり窮屈だったのか、清々した様にそれそれブルリと身震いをし——
大型犬サイズのレッド・アイとミスト・ウィンドの身体がムクムクと膨れ上がり、見る間に二歳位の牛のサイズにまで、それぞれ体が大きくなる。
ナッ太郎も短く「ナッ」と鳴き、見る見る内に巨大に——なる事は無く、此方は普通の猫サイズから一回り程の大きさの中型犬位のサイズになっただけだったが、それでも大きくなっていた。
中型犬サイズになったナッ太郎は二本足で立ちあがると、荷台の上をテッテッテッと歩いて行き、丁度いい段差の荷物を見つけて人間のオッサンの様な姿勢で足を開いて座る。
その何時もの何時もらしい様子に思わず苦笑しながら、クリンは先程外した固定具を調節し、レッド・アイの身体に改めて固定した。
牛サイズになってしまうと、流石に二頭で引くにはこの大八車は小さい。なので、このサイズの時は一頭引きに変更するのが何時ものパターンとなっている。
レッド・アイの固定が終わると、クリンは荷台に隠す様に置いていた革製のハーネスを手に取り、ミスト・ウィンドに近づいて行き、
「それじゃぁ、今日も悪いですがお願いしますね」
と言ってハーネスを装着させる。ミスト・ウィンドも慣れた物で着け易いように姿勢を低くして大人しくしている。装着が終わるとクリンはハーネスを手にヒョイとミスト・ウィンドの背に飛び乗る。鞍は付けていないので少々安定性が悪いが構わず、
「それじゃ今日もお願いしますね」
と声を掛ける。「「バフンッ!」」と、そこだけは体が小さい時と同じ声で二匹が答え、ゆっくりと歩きだした。
本当は走り出せば恰好がいいのだろうが、それをやるとこの二匹は足が速すぎるので、大八車の方が加速に耐え切れずに自壊してしまうので、何時も歩いてもらっている。
しかし牛サイズであるせいか、普通に歩くだけで中々の速度が出ている。徒歩で歩くよりも大分早く細い道の先にある森の入り口に辿り着く。
と——
「お帰りなさいませ主殿ぉぉぉぉぉぉっ!」
そんな声と共に森の立ち木から小さな影が踊り出し、宙を滑空したかと思うと見事にクリンの左肩に着地した。
まぁ、小出しにしても読まれる人には読まれまくっている様なんですけどねっ!