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第128話 スタンピー…………ド?

現実のスタンピードは中々恐ろしい物です。大昔に馬のスタンピードの映像を見た事がありますが、アレは中々の迫力でした。

 ——とある路地裏。ブロランスの街は大都市と言ってもいい規模である為、中にはこういう人通りの少ない路地と言うのが幾つも存在する。


 その路地の一つで、壁に手を付き粗い息を吐いている男が二人。先程市場から追い立てられたチンピラ崩れである。


「クソッ……何なんだアイツらはっ!」

「チクショウ、何であんなのがウヨウヨ露天商なんてしてんだよっ!」


 口々に悪態を吐き息を整えている。男達は別の町からやって来たばかりの冒険者崩れだった。いや、正確には冒険者ですらない。他所の町で揺すり集りをして小銭を巻き上げていた小悪党で、町に居難くなったので冒険者を気取って街に出て来た所だ。


 この街で小銭を稼いで装備を買い、ダンジョンで一山当てようなどと考えていたのだが、田舎の町で通用しても大きな街では通じない事を知らず、露天商を甘く見た結果痛い目を見て這う這うの体で逃げ出してきた所だった。


「くそぅ、あのガキ舐めやがって……仕返ししないと気が済まねえ」

「ああ……舐められたらこの世界で生きて行けねえ。それに、あのガキ結構稼いでいやがったからな。こうなったらあのガキが店を畳んで帰る所を襲うぞ」


 どの世界に生きているのか分からないが、彼らにとっては虚仮にされたままでは済まされない様子だった。そのまま二人でどうやって襲うかを話し合っていると——


「……ん?」

「何だ、どうかしたか?」

「いや……何か視線を感じた気が……」


 チンピラの一人が周囲をキョロキョロと見渡すが、特に人影は見当たらない。気のせいかと思い、顔を戻すがやはり視線を感じる。


「何だぁ……誰か見ていやがるのか?」


 もう一人の男が釣られて周囲を見渡すがやはり誰も見当たらない。が、ふと視線を上に向けると、路地裏の塀の上でエジプト座りと呼ばれる座り方をして此方をジッと見つめている黒猫と目が合った。正確には腹と足先が白いブチ猫だ。


 そのブチ猫がピシッとした姿勢で高い所から二人を見下ろしている。


「何だ猫か……でもなんか変な猫だな」

「ああ……何かジッと見てきやがって薄気味悪いな」


 チンピラ二人は放っておけばよい物を、此方をじっと見る猫が気味悪かったのか、足元から小石を拾い猫に向けて、


「コッチ見てんじゃねえよ薄気味悪いっ!!」


 と、市場から追い出された苛立ちも込めて投げつけた。だがその石は猫から大きくそれて明後日の方へ飛んで行ってしまう。


「フンス」

「あ、このクソ猫鼻で笑いやがった!?」

「ホントだっ! 何だこの無駄に生意気な猫はっ!?」


 黒ぶちが鼻を鳴らしたのを嘲りと取ったのか、チンピラは先程よりも一回り大きい石を見つけて猫向けて投げつける。


「これでも食らえクソ猫っ!!」


 今度は狙いたがわずブチ猫目掛けて一直線に飛ぶ。が、


「フンッ」


 再び鼻息を漏らすと尻尾を一振りし、当たる直前の石を叩き落としてしまった。


「なっ!?」

「何だと生意気なっ!?」


 避けもしなかった事に驚愕しつつも、猫の動きが癇に障ったのか更に石を拾い投げつけようとして——


 ヒョコッと言う感じで黒白のブチ猫が座る塀の隣に、別の猫が姿を現す。


「あ? 増えやがった……」

「チッ、鬱陶しい……」


 二匹に増えても構わず石を投げようとするが、更にヒョッコリと別の猫が現れブチ猫の隣に立つ。三匹に増えた。だがそれで終わらない。ヒョコヒョコと、次から次へと猫が塀の上に現れ並んで座り、塀の上からチンピラ達を見下ろす。


「な、なんで……猫がこんなに!?」

「い、一体どこからこんな……」


 チンピラ二人はようやく異常を感じ狼狽する。だがその間にも猫はヒョコヒョコと現れ、塀の上だけではなく隣の家のサッシや屋根、近隣の家の塀に屋根、路地の小道や物陰からどんどんと姿を現し増えて行く。似た種類の猫も居れば別種の猫も居る。大きいのも居れば小さいのも居り、毛並みも長いのから短いの、毛色も様々だ。


 既に何匹居るのか分からない。恐らく百以上は居るだろう。その猫の視線が全てチンピラ二人に向けられている。


「な、なんかヤバく無いか!?」

「あ、ああ……何だコイツ等っ!?」


 余りにもの異常な光景にチンピラ二人が狼狽していると、最初に居た黒ブチ猫がスッと立ち上がる。()()()で。そして前足でどのようにしているのか、器用に腕組みして二人を見下ろしている。


 そしてニィと口角を上げて見せる。コレは明らかに——


「わ、笑ってやがる!?」

「んな馬鹿なっ!? 何で猫にそんな事が……」


 腕組みしていた黒ぶちは組んだ前足を片方だけ器用に外し、遠目からも何故かプニプニしていそうだと思えるピンクの肉球を見せつつ、親指の爪だけをピンと立てる。


 黒ぶち猫は爪を立てた前足を首の横に持って来ると、


「ナァ~~~~~~」


 とふてぶてしい声で鳴き、スッと指を横に動かし何かを掻き切る様な仕草をした。


「なっ!?」

「ひっ!?」


 チンピラ二人が驚く間もなく。彼等を取り囲んでいる、既に数百に増えていた猫たちが一斉に唸り声をあげて一斉に飛びかかって行った。


「「「「「「「「「シャァァァァァァァァァァァッ!!!」」」」」」」」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」






「おい、どうやら向こうの通りで久々に()()が起きたらしいぞ?」

()()……? って、もしかして()()かぁ!? ブロランス名物の!?」


「そう、アレだ、()()()()()だ!!」


 そんな声がクリンの耳に飛び込んで来たのは、日が傾き客足も遠のいたので露店の片付けをしていた頃合だった。


「へぇ。最近聞かなかったけれども起きたんだ」


 などと片付けをしながら思っている間にも男たちは噂話を続ける。


「久しぶりだな猫んピード。一カ月ぶりか?」

「ああ、それ位かも知れん。しかし、まだ猫に手を出すバカがいるんだなぁ」

「全くだ。ウチの街で猫をイジメたりしたら猫んピードが起こる事は有名な筈なんだけどなぁ。まだ知らないで手を出す馬鹿がいるんだなぁ」


 と嘲りを含めて、猫んピードを起こした馬鹿の話をしている。このブロランスの街には昔から野良猫が多く住み着いている。人懐っこく、またネズミなどの害獣を捕らえて街の衛生を守る役割もある為、街の人達からも愛されている。


 だが、中には猫をイジメる性格の悪い馬鹿も存在する。そのいじめが頻発したり度が過ぎたりすると、この街の猫達は群れてイジメた相手を追いまわし、街から出て行くまで執拗に襲う様になる。街から出て行かないと日に日に襲撃してくる猫の数が増え、最後には町中の猫が一斉に襲ってくる。


 あまりにもの数の多さに、その行動をこの街では「猫んピード」と呼び、酷い騒ぎになる為に絶対に猫をイジメてはいけないとされていた。


 しかし、猫んピードになる前に大体の者は街から逃げ出し、大騒ぎになる事は十年に一度有るか無いかの頻度だった。


 だが一年半ほど前から少し様相が変わり、猫をイジメたら即猫んピードが起こる様になっていた。だが以前とは違いこの一年半の猫んピードは、確実に猫達がイジメた相手を街から叩き出す様に変わっており、叩き出された相手が街に戻ろうとしても暫くの間猫達が門から離れず、姿を見せたら即襲い掛かっていた為、街中の猫が集まる程の被害はなくなっていた。


「で、今回やらかしたのは何処のどいつよ?」

「それが、近くの町から来たばかりのチンピラ崩れ二人組らしい」


「ああ、余所者だったのか。ったく、誰かに教えられなかったのかねぇ、この街で猫に手を出すなってさ」

「まぁでも、早めにそう言う奴らだと分かって良かったって事よ。猫んピードが起きるお陰で街の治安も少し良くなってきているしよ」


「ははははは、違いねえや!」


 などと言い合う男たちの話を聞き流しながら、クリンは手早く荷物を片付け荷台に積むと、簡易屋台に変形させていた大八車を元の形に戻した。


「ん? あれ、いつの間に戻って来ていたんですナッ太郎?」


 積んだ荷物を固定する為に紐を通していたら、荷物の隙間に挟まって寝ていた黒ブチ猫に気が付きクリンが声を掛ける。ナッ太郎は片方の目を薄く開けると「ナッ」と小さく鳴いて直ぐに目を瞑ってしまう。


『さっきから居たと言っております』


 クリンに聞こえる声がそう言って来る。実の所そんなに興味が無かったクリンは「フーン」と言っただけで直ぐに荷物の固定に戻って行く。


 だがその様子を寝ながら見守っていたブチ猫は、再び「ナァ~ン」と今度は少し長めに鳴くと、


『今日は一仕事して疲れたからピザが食べたい、だそうです』


 再び声がそう翻訳してくる。


「何の仕事だよ……今日はドーラばぁちゃんの所に泊まるんで、家に帰るまで我慢してください。下手にアソコで作ったら近所のガキ共が押しかけてきて面倒ですし」


 クリンがそう言うと、ナッ太郎は「仕方ないなぁ」とでも言う様に尻尾をフリフリさせた後、もう関心を失ったのかそのまま丸くなってしまった。


「全く……猫の癖に何でピザを気に入ったんだか……まぁ猫じゃないですけれども……よし、撤収準備完了!! おじさ~ん、僕はそろそろお暇しますよ~」


 荷造りが済んだクリンは隣のオヤジに声を掛ける。露店の場所が隣り合った時には習慣となっている行動だ。


「おう、お疲れ様。オレももう店じまいする所だよ」

「そうですか。あ、じゃあ何時も通りに売れ残った野菜を適当に包んでください。買っていきますんで。後ライ麦あります?」


「はいよ、いつもありがとうさん。ライ麦も勿論あるよ。ていうかボウズも好きだよなぁコレ。ボウズが買うから持って来ているようなもんで、買わなければ態々持ってこないぞこんな飼料」


 と、露店に残っていた野菜を幾つかを包み紙代わりの大き目の何かの葉で包み、麻袋みたいな物に詰めたライ麦と一緒に渡して来る。ここでもライ麦は家畜の餌扱いだ。


 しかしクリンにとっては食べ慣れた物であり、かつこの街に移って来てからは必要不可欠な穀物になっている。


 受け取って代金を支払い、礼を言いながら露天商のオヤジと別れ一路テオドラの手習い所へ戻って行く。


 買った野菜の残り物はテオドラへのちょっとした手土産である。



猫んピード。別名肉球祭りじゃぁっ!


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