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第122話 転生少年は行商人にジョブチェンジしていた件。

……ドーラ婆さんがヒロイン枠とか言ったら後ろから刺されそうだな(´_ゝ`)

勿論ジョークですぜ!


「はぁ……なんだかこのまま座り続けていたらダメになりそうだねぇ……」


 新品の揺り椅子に揺られながらテオドラが言い、クリンはその言葉を聞いてフムと頷く。


「この程度の物でそうはならないと思いますが……なんならちきゅ……ボッター村には『人をダメにする椅子』と言うのがあるので、それを再現してみましょうか?」

「冗談じゃないよやめとくれっ!! アンタがそう言って作った物は大体本当にダメになりそうな物ばかりだからねっ!? あの『ホーリーゴタツ』とか言うのだって、真冬の間ガキ共が外に出ようとしないダメ人間を増殖したじゃないかっ!?」


 思わず椅子から跳ね起きたテオドラが怒鳴る。春になって温かくなったからいい物の、寒いままであったのならきっと今でも手習いの子供達が朝から押しかけホーリーゴタツの中に潜ったまま出てこようとしていなかっただろう。それ位あれは危険な物だった。


「あー……寒い時期の炬燵は確かに人をダメにしますからねぇ……ただアレは依存し過ぎると風邪をひくので、そこまでダメになる程では……」


 そこまで言いかけた時、外の方から「バフッ」と言う何かの吠え声が聞こえて来る。


「おっと。そろそろ市場が開く時間ですね。行って準備しないと。じゃぁドーラばぁちゃん、その椅子はご自由にお使いください。夕方市場を引き上げた頃に伺いますので、その時に使用感を教えていただければ助かります。あ、あと本もその時借りますね」

「忙しないガキだねぇ……今回も何時も通りに泊まりで市場で露店開く気かい?」


「ええ、そのつもりです。入場料もバカになりませんから売れるだけ売りませんと。まぁ宿は相変わらず泊まれそうに無いので市場の荷物置き場を借りてそこで何時も通り、寝泊まりですかね」


 クリンは未だ八歳であり、八歳の子供が宿屋に一人で止まる事は中々出来ない。ましてや彼は最初の五年間の環境が悪かったせいか発育がやや悪く、見た目的には六歳位にしか見えなかったりするので余計に泊めて貰えない。


 なので市場の近くの空き地にある荷物置き場に金を払って荷物ごとそこで寝るのがこの街に来た時のルーティーンだ。だが——


「相変わらずだね。それなら今日は泊っていきな。夕方の忙しい時期に一々相手して追い返すのも面倒だからね。あんたの稼ぎ次第じゃ晩飯も付けてやるよ」


 とテオドラが言う。クリンが前もって顔を出した時は文句を言いつつもこうやって泊めてくれるのもルーティーンであったりもする。


「そうですか……ではお言葉に甘えて今日はお世話になります。やはり借りてすぐ出て行くのではなくその場で少しは読みたいですからねぇ」


 と、クリンの方も特に遠慮することなく有難く受け入れる。この二年で割と繰り返されている定番のやり取りだ。


「それじゃあ、また夕方に顔を出しますね」

「ああ、行っといで。あんたの事だから心配ないと思うがタップリ稼いできな」


 新しい揺り椅子に座ったまま言って来るテオドラに、クリンは軽く頭を下げると外に出る。





 家の扉を出た先には小ぶりの荷車が止まっており、荷車の引手の部分には二匹の大型犬が繋がれて地面に伏せており、荷台にはビッチりと積まれた荷物と、一匹のふてぶてしい感じの猫が荷物の間に挟まって寝ている。


 この荷車はクリンが住処から運んで来た物で積荷は彼が作り溜めた商品だ。クリンが出て来た事に気が付いた二匹の大型犬はそれぞれ「「バフン」」と小さく吠え、荷台の猫はやる気が無さそうにアクビをした。


 この犬と猫……と呼んでいいかは微妙だが、兎に角この三匹はクリンが飼っている訳では無いのだが、二匹の犬はこうやって商売の時は荷車を引いて運んでくれ、一匹の猫は荷台で優雅に寝ている……のだが本人、いや本猫的には荷物の見張りをしている。らしい。


 二匹の犬はシベリアンハスキーに似た種類で赤い毛並みと銀色の毛並みをそれぞれしており、猫の方は全体が黒毛だが足先と腹部が白い柄猫だ。その三匹に向かい、


「すみません、少し遅くなりましたね。お待たせしました」


 と声を掛けると、犬二匹は再び「「バフン」」と小さく吠え——


『なんの、大して待っておりませぬ。どうぞお気になさらずお館様』


 と言う声がクリンの耳にだけ届く。続けて猫の方も小さく「ナッ」とやはりやる気が無さそうに鳴き、此方も——


『その通りですお館様。ささ、そろそろ行きませぬと露店の場所が無くなりますぞ』


 と、コレもクリンだけに聞こえる声で言って来る。その声に少年は、


「……やっぱり続けるんだそれ……」


 とだけ小さく呟き、溜息を吐きつつ「ではいきましょうか」と二匹の犬に声を掛ける。


『解りました。レッド・アイ! ミスト・ウィンド! いざ出陣ですぞっ!!』


 クリンだけにしか聞こえない筈の声がそう言うと、それまで地面で伏せていた二匹の犬が起き上がり、一声「「バフン」」と吠えてゆっくりと歩きだす。


「……それも続けるんだ、やっぱ……」


 溜息交じりに呟くと、やや疲れた様な足取りでクリンが歩き出す。その歩みに合わせて荷車も動き、荷物が多い為やや歩みが遅いがそれでもクリンが引いて歩くよりは断然早い。


 助かっている事に違いは無いので、思う所は色々あるクリンではあるが、有難く運んでもらう事にするのだった。


 二頭の犬が引く荷車が向かった先は市場が立つ広場の手前にある空き地であり、そこには市場で露店をする為の登録場がある。と言ってもそんなに面倒な物では無い。受付で定められた登録料と言う名の税金を払い、許可証と言う名の領収書を貰うだけだ。


 本来ならここで追加で料金を支払い、この空き地の片隅に荷物置き場を借りるのだが、今回は……と言うか割と頻繁にテオドラの家に招かれるのでそのままスルーである。


「おう、今回は結構間空いたな。また何時もの区画でいいのか?」


 すっかり顔見知りになった受付をしている男にそう声を掛けられる。ほぼこの受付場に住んでいる様な男だが、これでもれっきとしたこの街の役人である。


「おはようございます。ちょっと商品の作成に夢中になりまして……区画は何時もの一番外れで。中央は高くて手が出ませんし」


 クリンも慣れた様子で料金を差し出しつつ応じる。この街は結構な規模があり、幾つか市が開く地区がありそれぞれ管轄が異なる。


 少年が何時も利用している市場は街が管理している露店専門の市場で、規制が少し厳しい上に登録料が少し割高なのだが、その分衛兵などが頻繁に見回っているので治安がいい。


 彼の様に街に定住せずにフラリと訪れる行商スタイルの露店には向いた市場だ。何よりも払う物さえ払えば彼の様な子供でもちゃんと露店を開けるのがありがたい。


「はいよ、許可札と鑑札。鑑札はちゃんとワンコ達に着けておけよ。それから何時も通り朝の鐘が鳴ったら表通りは荷車は通れなくなるからな。行くなら早くしろ」


 料金を受け取った受付のオヤジがクリンに札を三つ渡す。一つはこの市で露店を開ける証明書であとの二つは犬二匹がクリンの所有である事を示す札だ。犬の鑑札は必ず必要になる訳では無いが、大型の動物を市に入れる際の通行証代わりになり、また揉め事が起きたり知らない間に連れていかれたりした際に在ると違うので毎回払っている。尚、猫は小型であるのと割と気ままにアッチコチに行く事があるので鑑札は取らない事にしている。


「解っています。それでは今の内に移動しちゃいますね。ではまた返却の時に」


 札を受け取ったクリンは鑑札の方を二匹の犬、レッド・アイとミスト・ウィンドの首にかけ、受付のオヤジに礼を行って市の開く通りに入る。


 通りはクリンよりも先に受付を済ませた、或いは長期契約をしている同業者で結構な喧騒に満ちている。その騒ぎの中を犬の引く荷車と共に通りの一番奥を目指す。


 大体どこの市場もそうなのだが、中心地に近い程に税金が高くなる。しかしその分人通りも多い為に売れ筋商品を持って居たり大量に売りさばく自信のある店が挙って登録証を求める為に熾烈な場所取り合戦が毎度繰り広げられている。


 八歳の身でそこに入り込むのは億劫だし、何よりも登録料が高いのでそんなに大量に売るつもりの無い少年は、毎回通りの端っこの一番登録料の安い区画で露店を開いている。


 十分ほど通りを歩いて目当ての区画に着く。この区画内であれば何処に露店を出してもいいのだが、クリンは大体いつも外れの区画の更に外れに近い場所に建っているボロアパートの前に陣取って露店を開いており、今回もその場所が空いていたのでそこに荷車を運び入れて露店の準備を始めた。


新章は一気に登場キャラが増えています。そして説明文も鬼の様に増えます(笑)


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