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第120話 相手が知らないからと適当にアニメの話を語って聞かせると大体後悔する事になる。

空賊ぅ~? なんのことやらぁ~


「何が先生だい白々しい! アンタに教える事なんざもう一年半前からなくなってるよっ! そしてアンタにドーラなんて馴れ馴れしく呼ばれる筋合いはないよっ!」

「えーっ、人間学ぶ気がある内は一生生徒と言うじゃないですか。それに僕だけじゃなく他の子とか近所の人とかもドーラさんとかドーラばーさんとか呼んでいますよ?」


 心外だ、と言う風にクリンが肩を竦めながら言うが、ドーラことテオドラは、


「言わないよっ! 普通は学んだら教える側に回るんだよっ! そしてアンタがっ! 言い出したから皆真似し始めたんだろぉ!? 確かにドーラなんて呼ばれた事もあったさ、でもそれは十代とかの小娘の時代さね! 旦那にだって呼ばれた事無いよっ!!」


「そうなんです? いい愛称だと思うんですけれどねぇ。テオドラさんにとてもお似合いだと思うのですが……プククククッ」

「笑ったろう!? 今最後にアンタ笑ったよな!? 大体その呼び方はアタシじゃなくてアンタが作ったヨタ話に出てくるババァの名前だろうがっ!!」


「いえ、ヨタ話ではなくボッター村では有名なアニメ……もとい、お伽話ですよ。それを元にアレンジしてみたのですが子供にも大人気でしてね」


 元々はクリンがこの手習い所で学んでいる際に、他の子供達に彼が無駄に物を知っている事に気が付かれ、何か面白い話は無いかと強請られ、自慢気に前世の物語を聞かせだしたのが始まりだ。


 最初は桃太郎とか鶴の恩返しとかの、定番な物を聞かせていたのだが、頑固なテオドラ婆さんが開いている習い所なので、前世でも有名な頑固ババァが出て来る話が受けるだろ、と前世では世界的に有名な某アニメ会社の「空飛ぶお城」のアニメをこちらの世界の物語風にアレンジして披露した。

冒険活劇だったのが良かったのかコレが子供達の間で爆発的に受けてしまった。


 子供達に何度もせがまれるまま披露している内に子供だけでは無く近隣住人にも広く浸透し、今ではテオドラの事をドーラ婆さんと呼ぶ連中が出て来てしまっている。


「そう言うのをヨタ話って言うんだよ! お話と現実の区別が付かない様なバカを生むんじゃないよっ! 何だい『四十秒で支度しな』って! アタシゃそんなセリフ吐いた覚えないよっ!? この辺り通る若造共に『ぜひ一度言って見てください』とか言われて辛いんだよっ! 『家の地下に海賊船在るんでしょ』とか言い出すアホもいるんだよっ!?」


「それは申し訳ありません。まぁ、皆さんもお話だと言う事は理解されているでしょうし……しかし、地下に海賊船かぁ……流石にこの街で地下に船作っても意味が無いですねぇ……いや、飛空船みたいな物があるって話だからワンチャン作れそうな……」

「オイッ!? いいかい、作るんじゃないよ!? 作れる訳が無いとは思うけれどもアンタならやりそうだとどうしても思っちまうからね! 絶対に作るんじゃないよっ!?」


「いやぁ、流石に僕でも物理法則を無視は出来ませんから。唐突に街中で船が入る様な地下施設なんて作って、その掘った土はどうするんだって話ですし。それに土の問題が解決した所でどうやって地下から船を外に出すかって話になりますし……ふむ、地盤が固い層まで掘って地下トンネルを郊外まで伸ばして、魔道リニア構造でも考えれば或いは……」


「言っている側から余計な事考えるんじゃないよ、このクソガキがっ! ただでさえアンタのせいでアタシの家が良く解らんものが増えて近所からカラクリ屋敷とか呼ばれているんだからねっ!? これ以上心労を重ねさせるんじゃないよっ!!」


 額に青筋を立てながら大声で怒鳴って来るが、その体はしっかりとクリン謹製の揺り椅子に収まり、ユラユラと優雅に揺れているのでイマイチ迫力に欠ける。


「ドーラばぁちゃん、もういい歳なのですから余り血圧上げたらだめですよ? 折角その手に麦湯を持っているのですから、飲んで落ち着きましょうね」

「誰のせいだい、誰のっ!? ったく、相変わらず調子の狂う小僧だねぇ!!」


 忌々しそうに言いつつも、そこは素直に言葉に従って麦湯を一口含む。香ばしい大麦の香りにささくれた心も落ち着くと言う物である。


「……それで? こんな朝早くから今日はどうしたんだい? まさか今更他の子供達に混ざってお勉強する訳じゃないだろう?」


 麦湯の苦さよりも苦々しい顔でテオドラが言う。先に彼女が言った通りクリンは彼女に読み書きを習い始めてから僅か半年でマスターしてしまった。計算に至っては一日で覚えてしまっている。


 こちらはどうやら元々計算は出来ていた様で、単純に数を表す文字を知らなかっただけの様で、それを覚えたら後は勝手に計算のやり方を学んでしまった。


 その後に初級魔法、所謂生活魔法も学んだが、コレも半月程度教えただけで初歩は済んでしまっている。


 つまり、この少年は二年間足繫くテオドラの手習い所に通っているが、実際に学んだのはたったの半年だけで、既にこの少年に教える事など残っていない。


 では何で未だに来ているかと言えば、それはこの少年が『勝手に学びに来ている』だけである。その意味は——


「こちらの本は写し終えたので、また別の本をお借りしようかと。あ、それと何時も通りに月謝代わりの納品です」


 コレである。この少年は亡くなった旦那が残した蔵書と、彼が書き残した論文が目当てで勝手に押しかけては本を読み漁り、今では『こんな素晴らしい蔵書は後に残さなければいけません』と言い出し写本をし始めている。


 その礼として、少年はテオドラが教えた薬学の初歩知識を元に、薬草から作れる簡単な薬や、彼が作った品物を置いて行くのがこの一年半繰り返された行動だった。


「だから月謝は物納受け付けて無い、つってんだろう! 現金で持って来な現金で!!」

「またまた。一度現金持って来たら『直接教えた訳で無く勝手に憶えて行ったんだから貰う筋合いないよ!』とか言って受け取らなかったじゃないですか」


 それなら物で納めるしか無いですよね、と肩を竦めるクリンに、テオドラは忌々しそうに鼻を鳴らす。


「それは『もう教える事が無いんだからもう来るな』って意味なんだけどね!? 大体アンタ、本当はもうあの本全部読み終わって頭の中に全部入っているだろう!? なのにしつこく押しかけやがって、挙句にいろんなもの置いて行ってさ! いい迷惑さね!」

「……買い被りですよ。僕はそんなに頭は良く無いです。それに、ドーラばぁちゃんにはお世話になりましたからね。老い先短いのですから気を使わないといけませんし」


「誰の老い先が短いって!? アタシゃ後五十年は生きるつもりだよっ!」

「……この元気なら本当に生きそうなのが怖い所ですけどねぇ……」


 額に青筋を立てながらも優雅に麦湯を飲み、揺り椅子に尊大に揺られている老婆の姿を見ながら、クリンはこっそりと溜息を吐くのだった。


 その後、何やかんやと言い合いながらも、楽しそうに会話(?)は弾み、テオドラが麦湯を飲み終えるのを待ち、場所を室内に移してクリンは持ってきた瓶を老婆に差し出した。


「取り敢えず、今回は前見た時に大分数が減っていた腹下しの薬と解熱の薬を持って来ました。後は子供達用の石鹸ですね。コレもそろそろ無くなるのじゃないですか」

「ふん……まぁ学びに来る子供達の為にこう言う薬は持っておいて損は無いからね。貰っておくよ。……しかし、お前さんは毎回この薬の原料をどこで見つけて来るんだろうねぇ。教えたのはアタシだけどこの街ではそう簡単に手に入らないだろうに」


「そりゃ僕はこの街には住んでいませんから。僕が住んでいる所には良く生えていますよ。それに、一応ドーラばぁちゃんから教えられたレシピに少し改良かけさせてもらっていますからね。手に入りやすい材料に変えているので値段も安いですし」


 クリンがそう言いながら渡して来る。「そう言えばそうだったね」と返しながら、薬の入った小壷の一つの蓋を開け、テオドラは面白くなさそうに鼻を鳴らす。


「フンッ……確かにこの腹下し治しの薬はアタシが教えた物じゃないね。相変わらず酷い匂いだねぇ、これ。セイロン・ガーンだっけ? アタシのレシピの何処をどう弄ったらこんな怪しい匂いになるんだか。それなのに不思議と下った腹がピタリと止まるんだからタチが悪いよ、全く」


 テオドラがクリンに教えた腹下し治しの薬はこんな匂いはしなかったし、効果は高かったがこの薬程に高くは無い。魔法薬でないただの生薬の効きにしてはこのセイロン・ガーンは破格の効き目を持つ部類だ。


 ただ効果は良いのだが匂いが酷い為に子供達から蛇蝎の如く嫌われており、少年には内緒であるが時々言う事を聞かない悪ガキへの罰として口に突っ込んだりしている。


 腹の下りもピタリと治るが悪ガキの悪戯もピタリと止まるのでテオドラは密かに重宝しているのだった。


 だが、そのせいで悪ガキ連中から『悪臭のドーラ婆』などと呼ばれているのだが、本人は知らない事であった。

以前、仕事先で急に腹下した時、偶々事務のお姉ちゃんが先方に挨拶に寄るとかで、メールで「何か追加で必要なものあれば持っていきます」と来たので、

「正露丸買って来て」

とメールした所、

「船の買い付けは一事務員には無理です」

と返ってきたでゴザル。

ショウロウマルじゃねえよっ! てか今の子は正露丸知らないのねっ!

とカルチャーショックを受けた事があります。

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