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第114話 閑話18 ラン麵制作、リベンジ編。下

 ラーメン編も今回で終わりです。



「よし……じゃぁ、満を持してっ! 麺を茹でましょう!!」

「おおっ! いよいよっすね!!」


「先ずは隣の竈で麺を茹でるお湯を……」

「おう、沸かしておいたんだわ。前も確かこれ位の量のお湯だったのよな」


「マクエルさん!? 何時の間にっ! あのまま寝ていればその間に食べてしまうつもりだったのに……ええぃ、今はオッサンにかまっている暇はないっ! 麺を、麺切りをしますよっ! ふっふっふ今回はこんな事もあろうかと、麺切り包丁を用意してありますっ!」


 そう言って取り出したのは、依然トマソンに声を掛けられ壊してしまったノコギリ予定だった鉄板を原料にして打ち直した幅広の包丁。元々西洋ノコギリの厚さにしかできなかった為に、麺切り包丁に転用するには丁度良かったのだった。


 早速その包丁を使い、既に打ち粉をして伸ばして畳んであった麺生地に包丁を入れていく。今回は前回よりも粉が良く、またより力のあるマルハーゲンが捏ねたので、生地の纏まりがよく、前回よりも細く切る事が出来た。とは言えやはり大麦主体である為前世の中細面の太さに切るのは難しく、稲庭うどんを少し細くしたようなサイズが限界であった。


 その麺をマクエルが沸かした湯で茹でる。八割ぐらい火が通っただろうか。その段階でクリンは麺を引き上げてしまう。ザルに移し軽く湯を切るとそのまま井戸から汲んで来た水の中にドボンと放り入れザバザバと洗ってしまった。


「ちょ、なにしているっすか!?」

「お、おいパスタでも洗うなんて暴挙だぞ!? 前そんなのやってなかったのよな!?」


 慌てふためく二人をどこ吹く風とばかり、クリンは洗った麺をざるに空け水を切る。


「必ずやる必要が有る訳では無いですが、今回は大麦主体で打ち粉も使っていて表面に結構滑りがあります。また麺は結構水分吸うので、水が悪いと外側に不純物が付着している場合も無くは無いです。なので、茹でた後に一度洗って余分な滑りや臭みの原因になりそうな物を落としてしまうと言うやり方もあるんです。後コレやると麺が締まります。洗った後にもう一度温める程度に茹でればいいので、味を追求したい時はやると良いです」


 湯の中に麺を戻しながらクリンが説明する。これは古い技法で商売とかだと手間なので省かれる事が多いが、ラーメン以外の麺類でも拘る所では現在でも取られる方法である。


 こんな小技まで披露する辺り、今回のクリンはかなり本気である。『前回のアレがラーメンの基準だと思われたらシャクでしかない』と言うのがこの時の少年の偽らざる本心である。どうせならこの世界の人間にも目にもの見せてやりたい。

 と考えているのだが——一体何を目指しているのだろうか。何やら本格派料理物の様になり出しているが、少年は気にしない。


 手製の器に今回も出汁的に物足りなさがありそうなので醤油モドキの具材事入れ、上から金色に輝くスープを掛ける。


途端に広がる醤油に甘さを含んだ様な独特の香り。


「お……おお!? 何か前よりも香がつよくねえ!?」

「本当っス……明らかに前よりも香の輪郭が鮮明っす!」


 騒ぐ二人を他所に、温め直した麺の湯を切り器に沈めていく。料理用箸モドキで麺を整える小技も忘れない。その上に先程作っておいた老鶏の揚げ焼き肉団子を一人二個乗せ、その横にリーキの青い部分を刻んだ物をパラりと載せる。


 今回はラードは入れない。鶏油も取ろうと思ったが老鶏だと油が匂うし、何より骨を煮たスープには十分な脂が浮いている。


「……ぉぉぉぉぉおおおおおおっ! 前よりも遥かにそれっぽい! 異世界ラーメンVerツーの完成だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 クリンが宣言するや否や。


「よっしゃ、じゃあ頂くぜっ!」

「ヒャッホウ! 坊ちゃんお先に頂きますぜっ!」


 横から腕が二本伸びてそれぞれ器を掴むと、勝手知ったるとばかりに三又串を匙を調理台から持って行って、それぞれ座りの良い場所を見つけて座り込みラーメンを食べ始めてしまう。


「ちょ、アンタら、作った人間差し置いて食うとか、どう言う了見ですかっ!?」

「はっはっはっ! ラン麺は戦争だと言ったのはお前さんなのよなぁっ!」

「その通りっす! こんな事で麺を伸ばしてなるものかっす!!」


「ええぃ、余計な事ばかり学習しおって……もういいっ! 僕もこんなの我慢出来ないもんねっ! もう知らん、もう食う! いっただきます!!」


 行儀が悪いと知りつつ、竈の前で手を合わせるとラーメンの入った容器と、自作の箸をそれぞれ手に取る。


 鼻孔をくすぐる醤油に良く似た香りはやや甘い。みたらしに近いだろうか。だが前回よりも材料を厳選したためか香りの輪郭がはっきりしている。


 そしてラー麺と言うからにはやはり先ずは麺。そこは譲る気が無いクリンは、箸で麺を持ち上げ、一気に啜り込む。


 「ズゾゾゾゾゾゾ」と言う豪快な音に一瞬マクエルと丸刈りが眉を顰める。どうやらこの世界でもやはり音を立てて啜ると言うのは下品な行為らしい。だが気にしない。


 口に躍り込んで来る麺を噛みしめる。前回よりもやや柔らかいが代わりに「ブツン」と歯で切れた後に跳ね上がる力は今回の方が強い。


まるで口の中で暴れる様な上々のコシ。飲み込むと喉をワシャワシャと洗う様に流れながら食道を通り抜けていく。


 そして息を吐いた時に香って来る強い麦の香り。コレは大麦主体の粉で作った作用だろうか。何とも自己主張の強いヤンチャな麺だ。


 クリンはそんな事を思いつつ匙でスープを掬い流し込む。最初の一口は、はやり少し甘い。赤ワインビネガーによるものか、麦芽汁によるものか。だが次いで来る香りは香ばしく舌に残る塩味は慣れ親しんだ醤油にかなり近い。


「……ああ、コレだよコレ……」


 スープを飲み込んだクリンは感無量と言った様子で天を仰ぐ。前回よりもハッキリとラーメンしている、と少年は感動に震えていた。


 勿論欠点はある。モドキ醤油が甘めなのでうどんツユ感が出ているし、今回は香味野菜がかなり少ないので野菜の旨味は足りていない。干し貝柱の代わりに入れたカタツムリは僅かに生臭さの様な風味を感じる。


 麺も粉が粗いせいか少し舌に触るしモチモチ感よりもプニブニ感と呼ぶ方が近い気がする。香りもやはり強いので少しスープが負けている。


 だが、それらを補って有り余るほどにガラのパンチが効いている。醤油の香りで多少の臭みもさほど気にならない。何より刻みリーキがいい仕事をしている。


 これの量を増やせば臭みも大分気にならなくなるだろうし、乾燥カタツムリも意外に貝類特有の旨味を強く出している。


 全体的にはやはり出汁が弱い。だがその分鶏の出汁が前面に出ていて醤油の香りがそれを後押ししている。

 クリンの感覚的には「かなりアッサリ目の醤油湯麺」と言う感じであり、これなら十分、


「……うん、ラーメンだ。これなら間違いなくラーメンって呼んでもいい。かなりアッサリ寄りだけど、多分昭和のラーメンとか言われたらこんな感じでも納得できる……」


 流石に昭和のラーメンなど食べた事は無いが、話に聞くと初期の物はかなり出汁が弱かったと聞いている。それならコレも十分ラーメンと呼んで差支え無い筈だ。


 チラリと現地人代表の二人の様子を伺うと、前回以上に勢いよく麺をかき込んでいた。


「そうか……コレが本当のラン麺なのか……前にクリンが『全然別物』と言っていたのがコレを喰ったら良く解るのよな……あんな丁寧に作る必要が有るのかと思ったが、この麺のスッキリとした歯ごたえと喉越し、確かに前のラン麺にはコレは無かったのよ……麺を洗うのにこんな意味があるとは……」

「全くっス……それにこの鶏の旨味の濃さ。味自体は薄いのに、寧ろそのお陰で鶏の旨味が前面に来ているっす。コレはもしかしたら材料に使う物の質で大きく左右されるのかもしれないっす……何て奥深い……」


 それぞれがそれぞれの言葉で恐れ戦いている。それ程までに前回との違いが鮮明に理解出来ていたのだ。


 しかし、そこに爆弾を投下するのがクリン君クオリティ。


「確かに良い出来です。が、これでもまだ未完成ですからね、このラー……ラン麺は」

「な、なにぃ!? コレで!? 冗談だよなぁクリンよぅ!?」

「そ、そんなっ!? これでも完成では無いとか……いくら何でも冗談きついっす……」


 驚愕する二人に、クリンは丁寧に説明する。代用醤油は代用でしかないのでどうしても醤油が無ければ完成度は低い事。出汁も今回はあくまでも基礎に過ぎず、ガラでは無く丸鶏を使ったり老鶏では無く若鳥を使ったり、それだけでも味が変わる事。そして出汁に使う野菜や乾物を増やせばもっと出汁が出る事、等々。


「今回のは、あくまでも『現状手に入る物での妥協点』ですね。麺もやはり小麦粉がもっと多く、せめて八割は使いたい所です」

「ははぁ……成程なぁ。言われてみれば納得なのよ。現状でもコレだけ旨いのに、材料をもっと厳選したらもっと旨くなるのは道理なのよな。だから未完成なのか……」

「……自分はもしかしたら恐ろしい物に手を出したかもしれないっす……ですが、面白いっす! 坊ちゃん、見ててくだせぇ、自分は必ず自分なりのラン麺を完成させて見せるっすよっ!!」


 と、気合を入れる青頭マルハーゲンに、クリンは「ばんばってくらはい」とラーメンを頬張りつつ軽い調子で答えるのだった。





 が、少年は少し甘かった。


 翌日、この事を二人が自慢して回り、村の連中から「じゃあ祭りの目玉に作って出せ」と言う無茶振りをされ——当然の様にクリンに泣きついた。


 当然クリンは「知らんがな」とにっこり笑って拒否したのだが、大量に作る為には沢山の炭が要ると言う事で鍛冶場のレンガ炉をせめて貸してくれと言われ、使用料を徴収する事でOKしたのだが、結局監修と言う形で手伝う羽目になり、気が付いたら三日続く収穫祭の最終日の、目玉料理として住人に振舞われた際、青頭が主体となってラン麺制作は行われたが配膳の手伝いに駆り出されてしまい、結局は手伝う羽目になっていた。


 最も、この時に図らずも収穫祭に参加する事となり、多少村人との距離感が縮まる事となり、その後の食堂での演奏や子供達の玩具作りと繋がって行くのだが——この時のクリンはまだ知る由も無かった。



今思えばコレは今回の閑話でなくてもよかったと思っています。


 何れ本編が進んだ時に、このラーメン回はそちらの章の閑話に入れようと考えています。早く進ませろと言う皆さんの意見も良く解りますし(笑)


 ただ後数話だけ閑話が入ります。コレを入れなければ入れないで都合が悪いので。ですので申し訳ないですが後数話だけお付き合いくださいませ。


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