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第106話 閑話10 The Reboot of 『Boho-ken Yarho‐u』 Thomas Cruise Story's 2

ふぅ……気が付いたらMrトーマスの設定がガッチガチに決まっている……

「……そう言えばトーマス。五年程前に突然ジャパンに行く、とか言ってチケット取らせて急に訪日した事があったな。あの時は臨時バカンスだと嘯いていたがもしかして……」

「ああ……葬式というセレモニーには間に合わなかったけれども、墓参りというのはさせてもらいたくてね。遺族に連絡を取って無理を言って行かせてもらったよ」


「そうだったのか……なら何で動画撮らなかったんだい? 君の様な有名人が極東の子供の墓参りに行くなんて、他のファンがいかにも喜びそうな……」

「よしてくれ。ボクはそんな事をしてまで再生数が欲しい訳じゃない。ボク個人が納得したいから行っただけだ。感動ポルノはマスメディアだけで十分だよ」


「ソーリー、無粋な事を言ったようだね。忘れてくれ」


 心底嫌そうな顔をしてるトーマスに、スタッフの男は慌てて謝罪する。彼はそれを受け入れつつ、


「それにね。有名人がどうのなんて日本では関係無かった。それどころか、彼の方が余程向こうでは有名人だったよ。サプライズのつもりはなかったが、こちらが盛大なサプライズ(置き土産)を貰ったよ」

「どういう意味だい、それは?」


「彼は日本で環境刺激制限型医療器(REST Medicine Pod)の——所謂フルダイブ型VRマシーンのテストモデルをしていたよ。それもあの世界のミゾグチが開発中の、ね」

「ワッツ!? ミゾグチって、君も愛用しているあの工具メーカーのかい!?」


「そうだよ。彼の病気は体が徐々に動かなくなる物だったらしくてね。現実でそれらを失ってもVRでならそれらを再現できるから、そのテストモデルにうってつけだったらしい。それに参加していたので、ボクらの動画を見ている時間が減ったらしいよ。まぁ最後の方では『何で体が動かなくなる病気でサバイバル知識集めてんだボク!?』と我に返って見るのをやめたとも聞いているけどね」

「そ、そうだったのか……そんな体でもオレ達の作る動画を見てくれていたのか……でもそれ医療器具だろ? 何で工具メーカーが開発しているんだ?」


「さぁ? それはボクにも分からない。まぁミゾグチだからね。知っているかい? 彼らは工具用のバッテリーで動く電動スクーターや冷蔵庫を作る様な会社なんだぜ。理屈で考えるだけ時間の無駄さ。何で工具用バッテリーで冷蔵庫を動かすのか不思議でしかないよ」

「そうか? そうだよな? そうしておこう……所で置き土産って?」


「ああ。ミゾグチは医療用VR機で今や最大大手だけど、もう一つ、ゲーム用VR機でも最大手なのは知っているよね。勿論これも何故か工具用バッテリーで動くんだけど」

「あ? ああ、勿論さ。オレも買ったし、ト……マスもサブチャンネル作って配信する位にハマっているじゃないか。そしてミゾグチ製品は工具バッテリーが無いと動かないのかい?」


「今、トムって言いかけたね? まぁ堪えたからいいけれど。そのミゾグチ製ゲーム機専用のVRMMORPGのHTW、それのテストプレーヤーと開発アドバイザーもしていたよ、彼。後、工具用バッテリーを使わなくても一応オプションでプラグ(コンセント)は付けられる。何でこっちがオプションなのか実に謎だね」

「ハハハ! ナイスジョーク!!」


「いや、本当だから」

「……マジで?  所で本当なのはドッチだい? 彼の経歴? プラグ?」


「両方さ。プラグは最初に付いているタイプを買わないと別売りで買わされるんだ。十五ドルもするんだぜ!……それは兎も角、ジャパンで彼の墓参りに行ったら、ミゾグチの社長を筆頭に役員、MZSの社長、HTWのPDのナオヤ・ナカボリに広報のミゲル・ヒロセ、その他にもボクでも名前を知ってるビックネームの関係者がズラリと並んで彼の墓に参りに来ていたよ。あの並びの中じゃ多分ガイジンのボクが一番無名だったんじゃないかな、ハハハハハハハ!」

「ああ、噂でジャパンではハリウッドスターでも変装無しでラーメン屋台で飯食ってもパパラッチされないしサインも強請られないクレイジーな国だと聞いていたが……まさか君でもそんな扱いだったのかい?」


「そうさ! ジャパンでは墓に参った後にショージンオトシ? とか言うベジタリアンフードを参じた者で集まって食べる習慣があるらしいんだ。それでミゾグチの社長に誘われて参加したんだけど、彼は親父の会社がステイツの建築会社だと言う事は知っていたがボクの事もボクが動画配信者だった事も知らなかったよ。Mr.ナカボリだけはrip₋offの……本名はモリフミというんだが、彼と仕事上の関係があって名前だけは聞いていたらしいけれど。いやぁ、配信者になってから全くの無名に近い扱いを受けたのは久しぶりでね。お陰であまりにもの居心地の良さに結局そのあと二ヶ月も滞在してしまったよ!」


「あ、ああっ!? 思い出したっ! 日本に行くって言っていきなり音信不通になった時だっ! あの時は本当に焦ったんだよイーサン! スタッフ皆で何か事件に巻き込まれたかと大騒ぎさっ! あと一日連絡が遅ければ君の父さんと相談して、現地の警察に捜索願いを出す所だったんだからなっ!? 今でも思うが本当に勘弁してくれよっ!!」


「本名呼んでいるよ、ガウェイン君。まぁ、悪かったよ。もうしないよ……多分」

「多分!? 思わず本名呼んだのは悪かったけれども、少しは懲りてくれないかなトーマスっ! 君の父さんなんか軽くパニくって議員に突っ込んでスペシャルフォース(救出部隊)を日本に派遣させるように要請しかけていたんだぞっ!? 事件か何かわからないのにも関わらずっ! 君も金持っているけれども君の父さんはそれ以上の金とコネがあるんだから、ホント勘弁してほしいんだからなっ!?」


「分かった、反省しているって。もうしないから許してくれないかい? でも、そのお陰でミゾグチコーポレーションともMZSともコネクションが出来たんだよ。あの時日本に長期滞在したお陰さ。モリフミボーイが導いてくれた縁ってやつだよ」


「本当に分かっているのかい? ……だが、言われてみればジャパンから帰国してからだよな、トーマスが急にゲーム配信だの工具レビューだのをサブチャンネルで配信しだしたのは」


 スタッフの男の記憶によれば、トーマスは日本に行くまでゲームを殆どやらなかった。『他人が作ったシナリオに乗っかって何が楽しいんだい?』と言うのが当時の彼の口癖で、だからこそシナリオも何もない、体一つでのサバイバルなんてものを始めた訳でもある。


 そして実家が大手の建築業であるため国内の工具メーカーとの関係が強く、アメリカの企業ではない工具類を極端に嫌っていて、特に日本製品など安いだけの某国製のコピー品と区別が付いていない程度だった筈だ。


「そうか……確か君が日本から帰って来てからだったな、急にHTWとか言う、ジャパン製VRMMOにハマり出したのは……まさかそれも?」

「その通り! 生前のボーイがテストプレイヤーを務めて、リリース後も一プレイヤーとして亡くなる直前までやり込んでいたゲームだと聞いたら興味もでるだろう?そして都合よく開発陣が目の前に居る訳だよ。しかも自分達が墓参りした少年がファンだった動画配信者が、直接来たって事でいたく気に入ってくれてね。ゲーム機の販売元とゲームソフトの開発元が揃ってそれぞれプレゼントしてくれたんだ。やらない訳にはいかないだろう?」


 バックミラー越しにこちらの様子を伺っている男にウインクして「対向車は居なさそうだけど前を見てくれたまえよ」と一応注意を促しながら続ける。


「で、やって見たらコレが中々面白くてさ。日本のプロフェッショナル……『タクミ』っていうんだっけ? それぞれの仕事の超一流の人間の仕事が、なんとVRで体験できるんだぜ! それだけじゃない! トレースして再現できたり、戦闘の方では日本武術の『メイジン』とか『タツジン』と言うスーパークラスのマスターの動きを体験できるんだっ! しかもオリジナル技まで作れちゃうんだぜ? そりゃあハマるし配信するだろうさ!」


「……あのゲームが絡むとテンションが何時も高いよな、トーマス。それに、あれ以来ジャパンから定期的に工具類が届く様になったけれど……もしかしてアレもかい?」


「勿論さ! ミゾグチの社長から『悔しいが電動工具の本場はアメリカだ。特に建築現場で使われる物は別格と言われている。その建築業界の家庭で育った君が、わが社の工具を使ったら、どういう感想を持つのか是非知りたい』と言われてね。忖度無しのレビュー動画を上げる事を条件に、定期的に送ってもらえる事になっているのさ! しかも料金も送料も向こう持ちさ! そんな事をされたらコレもレビューするしかないさ!」


 ミゾグチ社長は口ではアメリカが本場と言いつつ、内心では絶対に負けていないと思っていたんだろうね、と笑顔で付け加え、ケラケラと音を立てて笑う。

 実際、これまで動画で取り上げてきた物は使い勝手こそ自国のメーカーの方が良いと思うが、こと耐久性と持久性とデザイン性においては段違いに良いと思っている。


「本当に奇跡みたいな出会いさ。それもこれもモリフミボーイが導いてくれたとしか思えないね、彼の墓に行こうと思わなければこんな幸運は無かっただろうよ!」


 そうやって、目的地である撮影場所に着くまでトーマスは運転をしているスタッフの男相手に衛文とのコメントでのやり取りや、彼がもたらした出会いに付いて思うさま語り続けるのだった。




 やがて車はトーマス所有の私有地に入り、ここ最近動画撮影をしているベースキャンプに到着する。ベース自体は動画内で撮りたい内容に合わせて何度か場所を変えていて、ここは最近建設している手作り高炉がある区画だ。


 最初は石積みの平炉で製鉄していたのが、十年たった現在はこんな大がかりな施設を一人で作り続けるまでに来ていた。某転生幼児では無いが、いったい彼は何を目指しているのだろうか。この炉が完成したらいずれは反射炉にまで手を出すつもりでいるのだから末恐ろしいと言う物だ。


 トーマスの乗った車以外にも三台ほどの車が止まっている。全てトーマスのサバイバル動画を取る為のスタッフや機材が乗った車だ。撮影スタッフは四名だが道具持ちや動画編集担当も撮影には加わっているので、それなりの大所帯だ。


 スタッフ達は皆集まり今回の撮影についての確認をしている。その間にトーマスは動画内で作った何時もの自作服に着替える。コレを作るために機織り機を何度も作り直して改良しているため、中々着心地が良く完成度も非常に高い。染色をしていないために生地の色が素材にした木の繊維そのままである事を除けば市販品よりも質が良い位だ。


 綿花は栽培するのが《《色々と》》面倒なので今の所は手を出していない。何れは作りたくはあるが、アレを栽培する位ならカイコを飼って絹を作る方が早いのではないかと思えてしまい、今は計画を練り直しているのだった。


Mr.とクリン君には直接の面識は有りませんでしたが、動画を通しての交流をしていた為に、トーマスも一報が来た時に他人事とは思えず、思わず日本に直近で空いていた飛行機がファーストクラスしか開いていないのに即時購入してやってきています。流石御曹司!

でも実は全部自分で稼いだ金で賄っているから御曹司関係ないんだけどなっ!

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