母の思いと帝都です
なんだかんだで盗賊退治も終わって、帝都に行く日になった。
今度こそこの地ともお別れだ。
帝都で過ごすと言ってもしばらくはやることないだろうし、次期宮廷筆頭魔導士つってもやることはないし暇だろうな。でも、仕方ないよなー。皇帝に帝都で暮らすことを義務付けられてるし。テキトーにおじいちゃんとミレーヌと都会生活を満喫しとけばいいか。
「そういえばミレーヌはどこに住んでるの?帝都に行ったらしょっちゅう会うことになるだろうし、教えてよ」
「ん?もう君の祖父の家に引っ越したぞ」
???
「は?」
「なんだよ、は?って。言ってなかったか?私は君と一緒に暮らすんだ。表面上は次期宮廷筆頭魔導士の君に色々教えないといけないからってのと、君が危険な目にあったり、他国に情報を流したりしないように監視ってのが仕事ととして皇帝から与えられている。つまり君は私と一緒に暮らすしかないってことだ」
「マジかよ…おじいちゃん的にはそれって大丈夫なの?」
「もちろん了承してくれたさ。君の祖父は君と違って皇帝の従兄弟で忠実な臣下だぞ?皇帝の命令なら喜んで従うさ」
「ねぇ、もしかしてだけど皇帝に命令されたんじゃなくて自分から申し出たんじゃないの?」
「さあ?どうだろうねぇ」
「…まぁいいよ。別にミレーヌのことは嫌いじゃないしね」
「もしや、それは俗に言うツンデレってやつかい?いやぁ、照れちゃうね」
「違いまーす。もう報酬が2回分溜まってるけどそういうこと言うならしてあげないぞ」
「そうやってすぐ脅すのをやめなさい。可愛くないぞ」
「そろそろ馬車の準備ができたんじゃないかな?先行ってるね」
「待て待て、勝手に話を終わらすな」
「はいはい、早く行こうねー」
帝都に行ったら何しようかな。そんなことを考えながら帝都へと向かった。
◇◆◇ ◆◇◆
あ、お母さんだ。そっか、ここで別れたらしばらくお母さんに会えないのか。お別れの挨拶しとかないとな。なんて言えばいいんだろう。
「お母さん、しばらく会えなくなるけど元気でね」
「レオナルドも元気でね。おじいちゃんに迷惑をかけてはダメよ」
「うん、わかってるよ。じゃあね!」
そう言って別れ歩いているとミレーヌが小声で。
「君は少し、お母さんに対して冷たくないかい?」
「え?そうかな?」
「もしかしたら何年も会えなくなる可能性もあるんだ。それなのに別れの挨拶が短いすぎる気がしてな」
そうなのかな?前世の記憶があるせいか、お母さんのことは家族とは思っているけど、前世ほど家族の愛情?みたいなものは感じれてないんだよね。でも、お母さんから何か言われたこともないし、大丈夫なんじゃないかな?意外とこんなもんでしょ。
◇◆◇ ◆◇◆
初めてレオナルドを抱いた時、私はこの子の母として命を賭けて守ろうと思った。
私の母は私を産んですぐに亡くなってしまった。だから、レオナルドを産むときはすごく怖かった。私は家族誰一人にも会うことなくこのまま死ぬんじゃないかとも思った。だからこそ、レオナルドを抱いた時に数少ない血が繋がったこの子を守ろうと思った。だけど、レオナルドが成長していくたびに、私は必要とされていないように感じた。私は母親と思われていないのか?私のことを嫌いなのか?私には母親がいなかったから分からなかった。だからルドルフに聞いた。そしたら、
「レオナルドは特別な子なんだよ。乳飲み子を卒業した時点で親からも卒業していたんだ。カレン嬢に会った時どう思った?カレン嬢は子供らしく親に甘えていた。だけどレオナルドは全くそんなことはなかった。俺が思うに、子供は親を愛し、愛されて育つものだ。それはどの動物でも同じだろう。そうして子供は親に守られて成長するものだ。だけど、レオナルドにとっては親の愛情というものは必要なものじゃないのかもしれない。そもそも親に守られないでも生きていけそうだしな。でも、だからと言ってレオナルドを愛さないのは間違いだ。少なくともレオナルドは俺たちのことを嫌ってはいないさ。だから俺たちはレオナルドに何も求めず、ただ助けが必要な時に助けて、見守るだけでいいんだよ。生まれた時から心は大人だったと思えば納得だろ?」
生まれた時から心は大人だった?確かにそう言われれば納得かもしれない。レオナルドが必要としてるものはなんなのか。要らないと思っているものはなんなのか。それを見極めて育てるべきなんだと思う。だから、今の私がすべきことはただ見守ること。それだけだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「ミレーヌさん、少しいいかしら?」
お母さんにミレーヌが呼ばれている。珍しいな。
「は、はい。なんでしょうか」
ミレーヌはお母さんのところへ行ってしまった。
「俺は大丈夫なの?」
「先に馬車に乗ってなさい。すぐ済むから」
「わかった。じゃあね」
なんだろう。2人だけで話してるところなんて見たことないし。まぁどうでもいっか。後で何話したかだけ聞いておこう。
◇◆◇ ◆◇◆
「ミレーヌさん。あの子をよろしくお願いします。あの子はたぶん私たちよりもあなたのことを信頼してるから。いざとなった時にはあなたのことを頼ると思うの。だから…ごめんなさい。泣かないようにしようと思ってたんだけど」
「え、えと、泣かないでください。あの、なんというか確かにレオナルド君は家族に対して冷たいけどそれはなんというか、えーっとー、」
「あなたは理由を知ってるの?」
「え、あ、あー、えーっとー」
「いえ、言わないでいいわ。その理由は私のことが嫌いだからとかではないのよね?」
「はい。それはもちろん。御両親のことを嫌いってわけでは全然ないです。ほんとに」
「そう…ほんとは私たち親がしなければいけないはずなんだけど、レオナルドはそれを望んでいないと思うんです。だからあなたに任させてください。レオナルドを守って育ててください」
「はい。私がレオナルドを守ります。育てるのは…たぶん私も必要とされていません。彼はほっといても育つタイプだと思います」
「ふふ、そうね。夫も似たようなことを言っていたわ」
私にできることはここまでだろう。
レオナルドの母、セルフはそう思った。
◇◆◇ ◆◇◆
「おかえり。お母さんと何を話してたの?」
「君が親不孝者だということが分かったよ」
「え?どゆこと?」
「まあいいさ、君のことを頼むと言われたよ」
「ふーん、そっか」
俺が親不孝者?うーん、そうなのかな?向こうに着いたら月一くらいで手紙でも送っておこうかな。
そして15日後、無事に帝都に着いた。
都会生活満喫するぞー!
これにて第一章は終わりです。次回は登場人物紹介で、その次に第二章帝都編に入ります。二週間ほど更新頻度が落ちると思います。乞うご期待!




