初恋というものを知ったのです
森猿というのはエルフの蔑称です。
「なんなんだあいつは!」
謁見が終わり、貴族達が自身の邸宅へと帰った後、
ガリシア・ヴァルマーレ大公は怒っていた。
「五属性魔法使い⁈なんなんだそれは!あんなの闇魔法で見せられた幻影に決まっておる!それをあの皇帝は信じおって!」
「えぇ!全くです!あんな愚鈍な皇帝なんかより、ヴァルマーレ様こそ皇帝になるべきです!」と、取り巻き達が囃し立てる。
「あの、森猿混じりのガキめ!それにあのミレーヌとかいう宮廷筆頭魔導士もだ!あいつは皇帝派じゃないんじゃなかったのか⁈いつから皇帝派になったんだ!いつかこの俺に仕えさせてやろうと思っておったのに、落ち目の皇帝なぞに擦り寄りおって!おい!例の計画は大丈夫なんだろうな?もしものことがあったら俺だけじゃない、お前達の家族の首も飛ぶぞ!」
「そ、そこは御安心を!また誰にもバレていないはずです」
「はず?はずってなんだ?」
「も、申し訳ありません、確認してきます!」
「ああ!そうしろ!まったく、俺の邪魔ばかりするゴミどもめ!ここはあいつの国じゃない!俺の国だ!邪魔は絶対にさせんぞ!エルフだろうが皇帝だろうが邪魔する奴は殺すだけだ!俺は皇帝になる男だぞ!」そう言ってガリシアは酒盃を傾けた。
◇◆◇ ◆◇◆
はー、疲れた。父さんとおじいちゃんに説明するのに1時間もかかったよ。五属性魔法使いだってことがわかって忠誠心のあるミレーヌが、皇帝陛下に俺を宮廷筆頭魔導士にしようと推薦した。父さんとおじいちゃんに言わなかったのは驚かせたかったから!って言って納得してくれたよ。おじいちゃんは怪しんでなかったけど、父さんにはなんか色々バレてそうな気がする。ま、別に良いけどさ。
◇◆◇ ◆◇◆
「お、おかえりなさい!」
「あ、カレン!ただいま!」
カレンだ!いろんなことがありすぎて来てたの普通に忘れてた。ごめんね。
「今までどこ行ってたの?」
「あー、なんて説明すれば良いのやら、ちょっと複雑でね」
「レオナルド様、ほ、本日はお日柄もよく」
「え?セルジオさん?なんでそんなかしこまった感じに?さっきまで普通だったじゃん」
「い、いえ、次期宮廷筆頭魔導士様にたいそうなお言葉使いは出来ませぬ」
「いやいやいやいや、ちょっと!ふざけてますよね?平民ならまだしまセルジオさんは辺境伯でしょ!辺境伯が準子爵に敬語を使うのはおかしいですよ!」
「はははははー、いやぁ、びっくりだよレオナルド君、まさか五属性魔法使いだったなんてね、ただ賢いだけの5歳児かと思っていたら、歴史に名を残す将来の偉人じゃないか!」
「え?レオ君五属性魔法使いだったの⁈それもじききゅうていひっとうまどうし?様なの?え?え、え?」
「ちょ、カレン落ち着いて?セルジオさんも!それ言っちゃダメでしょ!」
「はははははー、ごめんごめん、ついついからかいたくなってしまってな。カレン?レオナルド君はもうすでにすごいのに、ここからさらに成長してしまうぞ?もしかしたらカレンなんて振られちゃうんじゃないのか?」
「え、うそ…」
「ちょ、セルジオさん!実の娘になんて事言ってるんですか!あ、カレン?もし俺と結婚するのがヤダって思ったら全然断っていいからね?俺は当人の意思を尊重するよ!」
「……ちょっとママのところにいってきます」
「ん?わかったよ!またあとでね!
セルジオさん、別に俺は結婚相手なんて正直どうでもいいんで、カレンに強要?とかしないでくださいよ!俺は恋愛結婚が好きなんです」
「え、あ、うん、わかりました」
「?、わかったならいいんです」
この時セルジオは、マジかよ、レオナルド君って意外と鈍感?と思ったらしい。
◇◆◇ ◆◇◆
時は戻って、レオナルドがミレーヌと一緒に皇城へと向かった後、レオナルドの母セルフと、カレンの母フィオナ、そしてカレンの3人でお茶会を続けていた。
「あの…お聞きしたいことがあるんですけど」
「どうしたの?なんでも聞いて良いのよ」
「さっきレオ君と遊んでた時に、すごいドキドキして、恥ずかしい感じで、でも嬉しくて、よく分かんない気持ちになったんです!これってなんですか?病気とかだったら嫌だなって思って…」
2人の母は顔を見合わせて笑った。
「カレン?それはね恋よ、カレンはレオナルド君のことが好きになったのよ」
「こ、恋?」
恋?恋ってあの恋?私がレオ君のことを好きってこと?わかんない、たしかにこの好きはパパとかママとは違う好きだけどこれが恋なのかな?
「カレンちゃん、良かったらレオナルドの好きなところを教えてくれない?レオナルドは自分のことをあまり話したがらないのよ、だからカレンちゃんから聞きたいなって思ってね。ダメかしら?」
「ダメ…じゃないです」
「レオ君は、私に花をくれて、キレイな魔法を見せてくれて、私のことを可愛いって言ってくれて…」
そう語るカレンの顔は真っ赤に茹で上がっていた。
「ふふふ、カレンったらすっかりレオナルド君にゾッコンなのね」
「2人は将来結婚しても大丈夫そうですね」
「け、結婚…」
「「うふふふふふ」」
初恋っていいなぁ、と、2人の母は思ったのであった。
◇◆◇ ◆◇◆
「ママ……」
「どうしたの?レオナルド君が帰ってきたんでしょ?話さなくて良いの?」
「レオ君ね、五属性魔法使いできゅうていひっとうまどうし?になっちゃったらしくて、パパが私じゃ振られるって」
「ええええええ?そんなすごい子なの?え、てかほんとに?あー、だからミレーヌ様と一緒に皇城にね…なるほどねー」
「ママ、私どうしたらいいのかな?」
「そうねぇ、レオナルド君はこっからさらにすごい人になっちゃうと思うわ、だからカレンもレオナルド君に負けないくらいすごい人になれば良いのよ!」
「それってどうやって?」
「え?そうねぇ…ねぇ、カレン?貴族の女子がどうやって良い結婚相手を捕まえるのか知ってる?」
「え?どうやって捕まえるの?」
「それはね、学生時代に既成事実を作るのよ」
「既成事実?ってなに?」
「あ、やべ、ま、まぁそれはまたいつか教えるわよ、そうじゃなくて、貴族の子供はだいたいディラント学園に通うのよ、その時に学園で恋に落ちた2人が家の家格とか、派閥関係とかそうゆうのが大丈夫なら2人は結婚して家族になるのよ、だから学生になるまで自分磨きを頑張るのよ!」
「わかった!私レオ君に見合う?女になるまで自分磨きする!自分磨き?ってどうやったらいいの?」
「そうねぇ、やっぱり勉強かしら?後は女の魅力ってやつかしらねぇ」
「ありがとう、ママ!レオ君と話してくる!」
「え?、あ、がんばってらっしゃい」
…大丈夫かしら?
◇◆◇ ◆◇◆
「レオ君、わたしレオ君と結婚できるように頑張るね」
「え?カレン?カレンは好きになった人と結婚したほうがいいよ?親に決められた結婚相手とか嫌じゃないの?」
「嫌じゃないよ、私レオ君のことが好きだから」
「はは、そっか、ありがとね、じゃあ大人になった時にまだ俺のことを好きだったら結婚しようね」
「うん!約束だよ!」
「うん、約束するよ」
「いま、俺って言わなかった?」
「あ、ほんとだ、みんなには言わないでね?言葉使いが悪いって怒られちゃうからさ」
「うん、言わないであげる!その代わりに約束忘れないでよ?」
「うん、忘れないよ」
やれやれ、罪な男だぜ俺は。
まぁ、将来のことなんてぶっちゃけ分からないし、カレンはなんだかんだで他の人を好きになったりするんじゃないのかな?初恋なんてそんなものでしょ。
残り10日?くらいかな。次にカレンに会うのは学園とやらかもしれないし。お互いに思い出に残る楽しい10日を過ごそう。魔法の実験を兼ねて魔法をいっぱい見せてあげよう。
セルジオが謁見の間での出来事を知っていたのは、謁見の間にいたからです。レオナルドがミレーヌと一緒に皇城に向かった後に、皇城に呼ばれました。え、なんでと思っていたらレオナルドが宮廷筆頭魔導士になってしまったのです。これはレオナルドをいじるチャンス!と思い、レオナルド達よりも早く帰ったのです。セルジオがレオナルドをからかったりするのはガルドリックにからかわれた憂さ晴らし?仕返し?をレオナルドにしているためです。




