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第七話 明日へと歩む

 遂にロザラムを撃破したイアンス。彼女の口から語られるのは天獄の悪魔、そして彼女の運命。それを変えるべくイアンスは動き、世界の未来はまた違ったものになる。彼等の最期は絶望か、それとも…

「いや〜二人とも凄いわね。常人ならとっくに死んでる傷よ?」

 先ほどの戦いの後、イアンスも直ぐに気を失ってしまった。全身の火傷に腹部損傷。こう言えばそこまでに思えなくも無いが実際はどちらか片方でも彼女の言う通り確実に死んでいる程の傷なのだ。深すぎる。

 一方この女…"ロザラム"も全身に軽度の火傷を負い左肘に切創、頭蓋骨骨折と致死圏内に他ならない。

(そっくりだね。ちょっと茶色の混じった黒髪といい、赤い目といい、タフさといい。二人とも極端に出血が少ない。痛覚こそあるみたいだけど、肉体の回復が早すぎる…常識が通じない兄妹だね)

 本来なら病床に数週間程度置く必要がある怪我ではあるのだが、彼等の治癒能力とまだ一般化されていない特務部隊専用の薬剤を使えば一日あれば完治できる。それほどの回復速度だ。

 ロインは手際良くロザラムの傷の手当てをしている。「女の子は女の子が診ないとね」らしい。

「えーっと…なんだっけ。傷口を出来るだけ広げて…損傷部分に塗る…か。麻酔勿体無いから直だけどいいよね?」

 局所麻酔の道具はもっぱらロザラムに使用しなければならないらしい、我慢して貰おう。

「ぎぃゃぁぁぁぁあああーーーーーーっ!!!」

「あー起きちゃった。ま、後で"ごほうび"をしてあげるから我慢してね。"真意証明"っと」

 法で彼を地面に固定し、暴れまわるイアンスの傷跡に無理矢理薬を塗り込む。痛々しい悲鳴が灰燼の森に響き渡る。

「ぐぎゃぁぁあああーーーーーーっ!!!!!」


「…………………」

「…………………………………………"バルカン"、運動反応が暫くありません。恐らく、敵に鹵獲されたかと」 

 そこは相変わらず静かだった。耳が痛くなる程の静寂の中、変わらぬ少年の冷酷な声が響く。

「…………戻る、後は任せる」

 老人はそう言って部屋を出て行った。歴戦の証か、歩調はゆっくり、そして力強いものだった。

 少年は頭を下げ、瞬きをする。

("バルカン"、撃破サレタシ。シタガイ、之ヨリ

『ライズハート・オーディーン』ノ回収作戦ヲ決行ス。総員、任務ヲ速ヤカニ終ワラセ帰省セヨ)


『民衆愛国』クルエルドにて

「あらあら、そんなに帰って来て欲しいなんて。嬉しくなっちゃわない?」

「うん、なるなる」

「でも妬けるわぁ、一昨日は彼、ご飯行ってくれなかったのよ?」

「うん、なるなる」

「待っててねー、『スタップ』!今帰るからねぇ〜!」

「うん、なるなる」

「…適当に返してない?」

「うん、なるなる」

 恋は盲目、だが『スキュワート』の恋の道に立つものは全て滅ぼされる。彼女の髪の紅色はその歪んだ純粋な愛の色、参謀『スタップ』への。

 そして『リバティス』は全てがどうでもいい。彼女にとってはただ生きれればいいのだ。


『戦闘民国』ジュラクにて

「もうここまでにしましょう。こちらの仕事が終われば戦う必要はございません」

 軍服を来た中年の男はあろう事か傷だらけの敵に頭を下げている。

「な…ナメてるのかぁーっ!」

 兵隊は無論攻撃を仕掛ける、だがその武器が男の額に当たった時、意識を失ったのは兵隊だった。

「死んでいません、眠っていて下さい。…なるほど、了解致しました。『フレンタ』さん、大丈夫ですか?」

 突如空間を割って出てきた二つの人間。片方は倒れ伏し、もう片方は拳で風を切る真似をしている。

「ケッ!何が"上級戦闘員"だよ!クソよええじゃねえかよぉ!オラッ!オラッ!」

 死体を蹴る、軍服を着崩す青年。

「おやめください、新たな仕事ですよ」

「ケッ!めんどくせえなぁ…」

 色物達の中に似合わぬ"聖人"、『アウファーゲン』と呼ばれる男。何の為、己の信念に逆らい戦うのか。その理由は彼のみ知る話である。

 その内容は少なくとも戦争屋の『フレンタ』には一生理解出来ない話だろう。


『皇王国家』カラザリムにて

「クッ…こいつ…何も――」

 言葉の途中でその騎士の顔が吹き飛ぶ。

「…ふぅん、お仕事強制終了ってコトね。バルちゃんがやられるかぁ〜。やっぱ、トルトル強いわね〜」

 その名は『ケヴィア』と言う。仮面の下の顔は笑っているのか泣いているのか、女なのか男なのか。それは誰も知ることはない。

「ライズハァァァァァト…オーディーーーンンンンンンーーーッ!やってくれたぞ!よくも!よくも!やってくれた!ハーーーハッハッハッハッ!!!」

 だが『クリーグ』はそれにも並々ならぬ興味を示している。そして、自らの手にしたいとも。

 全身をかつての強者の継ぎ接ぎで構成させた生物とすら呼び難い存在。

 アインシュタイン博士ですら作らぬ化け物。


「それが神装部隊(モデルナンバー)達...全員、とんでもなく強い」

「なるほどね、ありがとう」

 二日目のキャンプではロザラムへの取り調べが主だった。傷は夜には殆ど消えていたが目覚めてもこちらと戦う意思は見せなかった。木に縛り付けていたとは言え軍人なら簡単に抜けられる筈。最悪第二ラウンドになるとも想定していたが、驚くほど協力的だった。

「…でも、そこまで話してもいいの?」

 敵と言えども流石に心配が勝る。それは彼女が幼気な少女だからか…

(それとも、イアンスの妹だから…かしら?)

 恐らく、どっちもあるのだと思う。彼女が死ねばイアンスはとても悲しむだろう。

 その上、もしかしたら私を嫌うかもしれない。そういう自己保身がある事は否定できない。

 それ以前、子供を殺すのは流石に心が痛む。

「私達もその一人だった…でももう、国に帰ることは出来ない。ならばせめて、お兄ちゃんの旅に少しでも助けになりたい…」

「帰ることが出来ない?」

「…私は負けた。それは既に彼等にバレている。早く逃げた方が良い、これからは本格的に奴らが貴方達に迫ってくる…当然、私も消される…」

「消される…そこまでして彼を手にしたいの…?」

 肉親として一番戦い方を分かっているであろう彼女をイアンスに差し向け、懐柔されれば危険な敵となる為敗北時には早々に始末する。その思惑自体は理解出来る。

(それでも『ライズハート』とやらの為に国のトップ戦力を切り捨てるなんて常識的に考え愚策も良い所…どういう事?)

「そう。『ライズハート』の事は私にも良く分からない。だけどお兄ちゃんはそれを嫌ってたの。だから碌な力じゃ無さそうなのは確か…」

「ま、今はんなこと考えても仕方がねえ」

 声に振り向くとイアンスがレジーナに肩を担がれ歩いてきていた。先程までは奥にいたらしい。

「問題は、ラムをどうするかだな」

 珍しく真剣な顔で話す。肉親の命ともなればあのイアンスですら真面目になるようだ。

「ま、現実的に言えば始末すべきだろうけどね」

 イアンスが無言でレジーナを睨みつける。

「冗談だよ。で、どうするの?これは君が決める話だよ」

 答えは予想出来たものだった。それも即答。

「連れて行く。ロイン、説明してやってくれ。」

「面倒な事だけ押し付けてくれちゃって…まあ良いわ。私達の旅の目的は…」


「無茶苦茶…いくらなんでも範囲が広すぎる。砂漠に落ちた砂金を見つけるような物…」

 確かに、正攻法で行くならそうだ。だからこそ正攻法でない危険な橋を渡るしか手段は無い。

「その説明の前に聞いていい?この世界は大まかに分けて何個の国がある?」

「五つ…クルエルド、ジュラク、カラザリム、アグニ、そしてパトリウム」

「良かった。そこは先の時代から変わって無いのね」

 かつての大戦からアグニはその地理的背景を利用して長い間鎖国を行っている。アグニは五大国の中でも一番の強国、それ故自給自足で存在する事が出来る。

 しかしそのせいで外のニュースには少し疎い。

「なら、その国の為政者に直談判をし調査を願う。こうすれば簡単でしょ?近い内に見つけられなくても、世界中に協力させればいつかは鍵くらいは発見できるはず。私達はそれに賭けてる」

「為政者への直談判なんて出来っこない。話を通すにしても無茶苦茶過ぎる!そんな事にお兄ちゃんを巻き込むというの!?」

「そう、確かに無茶苦茶だ」

 声を荒げるロザラムにイアンスが諭すように言う。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず…という言葉を聞いた事がある。意味は…っと…」

 すかさずレジーナが補足する。

「『リスクを取らなければリターンは無い』だよ」

「そうかもしれないけど…!そんな事をしてまでそれを成し遂げたとしてお兄ちゃんはどうなるの?それで幸せになれるというの!?」

「さあ?知らん」

 回答は素っ気ない物だったが彼らしい物だった。

「俺がアグニで目覚めた時、何もかもを忘れていた。目的も未来も分からず、なんというか、一歩先の道も見えない位の暗闇だったんだ」

「…」

「それでも、歩く道を示してくれた奴がいた。俺はただ、その恩を仇で返したくは無い…それに」

 笑って私達を見る。

「こいつらが気に入ったからな。気に入った奴の選択だと言うなら、俺は地獄だろうと喜んでついていくつもりだ。お前はどうだ?」

 と笑顔でそう言ってみせた。その言葉に、ロザラムも悩み抜いた挙句僅かながら笑顔を見せた。

「…それがお兄ちゃんの"幸せ"なら、私も行かして貰おうかな…」

「決まりだね。さ、もう陽が出てくる。夜明けまでに新天地に行こうとしようか」 

「クルエルドの国境は上手く通り抜けるわよ。方角はここから北北西…二手に別れて行きましょう」

 四人で行けば邪推されるのは目に見えているが、二人なら旅人でも充分通る筈だ。

「合流地点はどうするんだい?」

「目的地はクルエルドの首都『レオンブルク』になるんだろ?だったら観光名所でもあるだろ。ラム、何か無いか?」

「…確か王政の名残りである古代城があったと思う。今では有名な観光地だし、遠くからでも見えるほど巨大だから目印にもなるよ」

「じゃあ、その古代城で合流ね」

「俺等が先に行く。お二人は休んでる事だな」

「面倒事を起こさないで頂戴ね、イアンス」

「へいへい、んじゃまた後で。さ、行くか、ラム」

 軽口を叩きながらイアンスとロザラムは木々の中に消えていった。

「さて…お言葉に甘えて少し休みましょうか」

 怪我の手当てはどうしてもする側の負担も多い。今日はそこまで歩いている訳じゃないが既にヘトヘトだった。

「気を遣ってくれたのかもしれないね、彼は」

「…自分もまだ怪我が完治して無い癖に…ホント、変なの…」

 彼は本当に掴めない。下らない事で駄々をこねる癖に、変な所で意地を張る…それすら全部気遣いなのだろうか。だとしたら、私はそれに何を返せる?

「返そうとしなくてもいいんだよ」

 私の心を見透かしたかの様なレジーナの言葉にぎくっとなる。やはり私なんかよりも賢い子なのだ。

「彼にとっては、お姉ちゃんがいるだけで恩返しなんだから」

 顔を赤らめ全力で否定する。そんな事あるわけない、もしそうだとしても私は困る、と。それでもレジーナは何も言わずニヤニヤしてるだけだった。

「な…何よ!全く生意気になって!」


「…そういえば、お兄ちゃんって知らない人の事大分嫌いだったよね。そこも変わった?」

「まあ正直今もそうだけどな」

「じゃあ、あのロインって子とよく仲良くなれたね。レジーナは良いとして、お兄ちゃん女の子苦手でしょ。それなのにわざわざケガを我慢してまで休ませてあげるなんて、らしくないよ?」

 否定はしないが、そこまで直球で言われると来るものかある。

(こいつ…二人だけの時だけクソ生意気になるな…)

 言葉のナイフで滅多刺しにされつつも、その理由を考えてみる。

「まあなんというか…」

 あまり認めたくはないが、多分こうなのだろう

「…惚れたからな、アイツに」

 意を決して放った言葉にふふっ、とラムが笑った。

「何だよ」

「いや…お兄ちゃんが、そんな事言えるんだって」

「そんなに意外か?」

 無言で首を振る姿に思わずどういうことか聞くと

「よかったねって」

 とラムは穏やかに言った。優しい聲だった。



 続く…

 第七話です。今度こそ次回から新天地に突入します。前回からまた投稿が大幅に空きましたが、これからもたまに覗いてくれれば新作が来てるかもしれないので時々思い出して下さい。

 今回内容自体は薄いのですが文字数が何故かいつもより多いです。なんで?

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