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第三話 野望と希望の始まり

王宮に襲撃をかけた謎の少年を倒したイアンス。その後国王に告げられた運命は『世界を旅し、国に訪れる災厄の原因を調べる事』だった。

"魔法"とも呼称している法を使う不思議な少女ロインとまだ幼さを残す少年レジーナを引き連れる旅。

その裏では、彼の故郷の陰謀が動き出していた…

 レジーナ・ミューズ。男性。身長156cm、体重43kg。産まれはどこか遠くの国であり若くして親を失う。その後奴隷としてこの国まで連れてこられた過去を持つ。表向きには売春で生計を立てている浮浪少年だが、その裏では怪物による大規模災害の度に火事場泥棒によって生き残ってきた。

「おいおいおい、マジかよお前。軽い気持ちで聞いたら大分ヤバイ地雷踏んでビビってるんだけど。なんかごめんな」

 出発前最後の風呂に少年と入りながらしてた会話はそんな感じの物だった。裸の付き合いとは良く言うが、実際心理的にもいいのかもしれない。初めて会った時よりは口を開いてくれるようになった。

「気にしないで、僕は気にしていない。さて、背中を流してくれないかい?どうも僕は昔から身体が硬くてね」

「へいへい。ストレッチとかしたらどうだ?俺は最近欠かさずやっているぜ。全部忘れる前は多分やってなかったけどよ、こんな暇だと身体が鈍ってしょうがねえ」

「僕はいい。それをする暇があったら法の方を訓練するしね。おっと、ありがとう。次は僕がやろう」

 他愛の無い会話をしながら体を流し合う。それによって汚れが取れたレジーナを見ると少し破廉恥な考えが浮かんできてしまう。

(ふぅん、あの時は全身汚れてたし第一戦ってたから気づかなかったが...案外いいな)

 美しい肌に細すぎず太すぎずの肉付き。肩辺りまで伸ばされた...というより切ってないだけだろう赤黒い髪。それは小児性愛が少し入っているイアンスにとって刺激的な物だった。

「...?おーい、入らないのかい?もう流し終わったよ」

「...ああ!悪い悪い、少し考え事しててね」


 それと同じ時、ある国では陰謀が動き始めていた。国の名を『パトリウム』と呼ぶ。

「…ついに掴めたか。しかし、中々に厳しい状況だ」そう語る壮年の男の既に髪は白く、腰は曲がっていた。しかし眼光だけは衰えていない。今でも蛇の様な目をしていた

「"ライズハート・オーディーン"の唯一の使い手…必ず連れ戻せ」

 彼の目線の先には数々の手練。

 旅を終わらせるべく送り出される天獄の悪魔達。


「では旅の成功と皆の無事を祈り、乾杯」

「「「乾杯」」」

 出発式はとても質素で簡易的な物だった。国王と三人だけで行われ、食事も大した量は無い。どちらかと言えば最後の晩餐かの様な静寂の中、各々さまざまな思いを抱え臨んでいた。

「必ず帰って来ます。それまで国をお願い致します。殿下…いや、お父様」

 ロインは眼に涙を浮かべ国王と話していた。やはり慣れ親しんだ国との別れは辛いものなのだろうか…

(お父様?)

 ふと疑問に思った。それを見越してかレジーナが教えてくれる。

「確か君は知らされてなかったな。そう、彼女は国王の養子さ。四つの頃の災害で孤児になった所を拾われたんだと」

 なるほど、いくら才能があろうともあの年代の少女があそこまで強いのは超一流の訓練を受けていたから。という訳か。

「はぁ〜…マジで知らなかったわ。だって全然似てえんだもん、ビックリだぜ…あれ?お前よくそんな知ってるな」

「僕も同じタイプだからね、当然だよ」

 単純な疑問に返された衝撃の事実"二度打ち"にいくらなんでも吹き出せずにはいられなかった。しかし笑えないのは仮にも王子を危険な旅に連れて行く事に了承を得たことだが。

「禁書を盗んで王宮を襲ったのも単なる力試しだったってのも言ってなかったかな?悪いね」

(あ〜それでね…どうりで身分調査も無しに連れて行ってくれた訳だ)

 血が繋がってないとはいえ親が親なら子も子か。真逆に見えた性格もクレバーさは一緒のようだ…

 その後は国王のサイン付きの通行証に金貨数百枚。大量の食料と水を収納した。

「虚無空間の中では時間が過ぎず、貴方の思った物を的確に取り出せる…ね。いや〜貴方がいて助かったわ〜ホントに」

「楽じゃねえんだからな〜全く。感謝しろよ?」

「はいは〜い」

「じゃ、父さん。行ってくるよ」

 世界というものは、あまりにも綱渡りな状態で成り立っている。この世界もまた滅びの一途を辿っている。

 過去を忘れ、目的を忘れ、信念だけを持つ少年。

 過去を背負い、目的の為、信念の為に生きる少女。

 彼等の出会いはやがて運命すら打ち砕き、未来へと繋がれるのだろうか。


「ここからは、まあ言ってしまえば未開の地ね」

 国境沿いは森林の中だった。彼女らの国『アグニ』から他の世界に行くにはただ一つの道しかない。

「『灰門の森』…かつて他の国と起きたと言われている戦争で灰燼と化した事から名付けられたらしいわ。これ見ても中々信じられないけどね」

 つまり、ここを通るしか本土に行けなかったという事だろう。自分がどうやってここを通ったか気になる位には樹木が生い茂っているが、確かに名の通り土は灰色だ。

「もう一度灰燼にするかい?」

「いや、防衛戦線として残しておきたい。面倒臭いけど、このまま抜けよう」

 そう言って先頭をレジーナが進む。それについていく形で自分等も未知の世界への第一歩を踏み出す。既に夕日が道なき道を照らしていた。


「このまま一晩中歩けば夜明けには抜けられる筈だけど、どうする?僕は全然いけるけど」

 レジーナのその言葉が虚勢で無い事は実感している。雑談しながら、野生動物と戦い、道の障害を吹き飛ばしながらもう八時間。休憩無しだと流石に息切れが厳しい。ロインも明らかスピードが落ちている。彼だけが平気に歩いているのだ。

「ハァ…ハァ…ちょっと…ハァ…待って…休憩…」

「そう…だな…きゅー…けい…さんせー…」

 いやいくらなんでも辛い。夜は足場が見えない為余計に体力が削がれる。ロインの『魔法』で火の玉を頭上に展開しているが、それは飽くまでも前を照らす為の物でありぶっちゃけ歩きにくいことこの上ない。

「じゃ、休憩しようか。イアンスは色々出しておいて

 くれるかい?お姉ちゃん、炎をお願い」

 ちゃっちゃと準備を終わらせ一旦の休憩に入る。だいぶ無理をしたせいか、腰を下ろした途端足が鉄のように重くなってしまった。寝るまでの間ロインは料理をしながらこの森の地形について語ってくれた。

「ここは多分『小さな崖(チャル・カルダ)』ね。あそこを見て」

 そう言って指差す先には不自然に途切れた地形がある。覗き見ると幾つもの段差が続きまるで階段のようになっていた。まさに崖のすぐ下に新しい崖があるような感じだ。

「これも戦争の跡か。ったく面倒な置き土産寄越しやがって」

「方角的には…残念、ここを通る事になりそうだね」

 レジーナの言葉に思わずげっ、となった。面倒なのもそうだが、こんな所で野獣にでも襲われたら簡単には凌げないと見ていい。地形を活かす事に関しては人間は一歩劣っている。

「ま、どう行くかは明日考えるか。それよりも腹が減ってしょうがねえ」

「はいは〜い、ちょっと待ってね…はい!お待ちどおさん」

 待ちかねた食事だ、内容は焼き魚に根菜のスープ、それにサラダとその森で採れた食料だけで作られた物だった。調味料無しではあるが…

「美味えぇ!すげえなロイン!どうやったらこんだけ美味いモンあれから作れるんだ?」

 超絶妙な焼き加減で臭みを消しつつ本体の旨さを引き立てられている魚。それが主な使い方では無いだろう様々な野菜の出汁を融合させ一級の味にされた根菜のスープ。またこの2つの残り香を口から消し、思い出だけ残してくれる程度の味の濃さのサラダ。本来多くが食用とされてない森の草木や川の魚からこれ程の物を作れる事に感動すら覚えた。個人的に料理の腕とは限られた食材でこそ決まる物だと思っているが、その理論で行けば彼女こそ最高の料理人だと思って差し支え無いだろう。それくらいの神業だ。

「やっぱりお姉ちゃんのご飯が一番美味しい…あっ、イアンス、これ食べて」

「ニラ?そんくらい食えよ〜美味いぞ?」

「こら!好き嫌いしない!ちゃんと食べないと背が伸びないわよ?」

「僕だって苦手な物は苦手だよ。というか、どうやったらそんなに大きくなれるんだい?」

「覚えてねえなあ〜記憶喪失だからなあ〜ロインがこの苦い何か食ってくれたら思い出すかもなぁ〜!」

「良く言うわね、元から覚えてない癖に」

「言ったなこのアマァ〜!」


「…イアンス、まだ起きてる?」

「…どうした?ロイン」

 食事を済ませ目を瞑っているとロインから話しかけられた。彼女はサバイバル料理こそ上手いが、野営自体はそこまで慣れていないので眠れないのだろう。それに対してレジーナは火を消した途端にいびきをかき始めた。案外図太い神経だ。

「お話し、しない?眠れないのはお互い様でしょ」

「嫌だ、って言ったら?まあいいけどよ」

「交渉成立ね、ありがと。今だけじゃない、貴方と会ってから全てに色々付き合ってくれて、ね」

 話題は意外な物だった。彼女は話を続ける。

「実はね…私、貴方にとっても感謝してるのよ」

「感謝されるような事をした記憶はねえな、もしかしたらまた記憶喪失かも?」

 少し照れくさくなってか、茶化すような発言をしてしまう。しかし彼女は真剣な顔で話をまた続ける

「私はね、貴方のお陰で新しい世界に行けるようになったの。正直な所、私一人では出来なかった。決断も、実行も」

「なに、俺が旅に付き合わせてるだけさ。こちらこそありがとうな」

「違う」

 食い気味に否定され、更に続けられる。

「私は…結局何も一人では決められないのよ…生き方も…歩く道も…でも、私だって新しい物を見たいの!だから…貴方とレジーナに…ごめんなさい」

 感極まって既に半泣きになっている彼女の顔をそっと撫でる。

「何言ってんだ全く。俺に言わせりゃ、歩くだけのバカは道に迷う。アホな地図持ちは北と南が分からない。歩けない方位磁石は、ただの鉄塊だ。要するに、だな…お前がいるから俺等は新しい物を知れる。レジーナがいるから前に進める。そして勿論、俺がいるから倒れる事なく動ける。最高だな、まさにWIN-WIN。お互い利用していけば良いのさ、そこに善悪がある物か。いや、俺達風に言えば『助け合っていく』だな。気にするな、俺等は俺達のやるべき事をやる。お前もそうする。交渉成立だな?」

「…うん、そうね。悪かったわね、おやすみ」

 泣き顔が少し笑顔になった。柄でもないことを言ったのは少しだけ恥ずかしいが、笑ってくれてよかった。彼女には笑顔が一番似合う。

「…中々良い事言うね」

 耳元からレジーナに話しかけられた。起きてた、つまり聞かれてた、やっぱり最悪だ。

「案外、似合うよ。その台詞」

「ケッ、言ってろ」



続く…

第三話です。ご意見ご感想お待ちしております。

それとこの場を借りて某匿名掲示板にてアドバイスを下さった方々に感謝の意を表させて頂きます。

また、私事が重なり投稿が大幅に遅れてしまい申し訳ございませんでした。これからも読みやすく面白い小説を目指します。どうか応援よろしくお願いします。

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