ぼくはとくべつ
童話に挑戦したのはこれが初です。「小説家になろうラジオ」のパーソナリティでもある大好きな下野紘さんの「洗濯槽の裏に靴下落とした」エピソードと大好きな声優さん、巽悠衣子さんの「物を大切にする心」、「お子様がプラレール好き」の要素を合体させて執筆いたしました。
僕だけは特別。
だって僕には日本で1番カッコよくて人気があるグリーンの新幹線が描かれているんだから。同じように新幹線が描かれた靴下達の中でも、僕は1番人気なんだ。大和くんも僕のことが1番お気に入りなんだって何回も言ってくれたもん。今まで色々なところにお出かけしてきたし、これからも一緒にたくさんお出かけするんだ。だって僕は特別だから。他のみんなとは違うんだ。
「ママー、ここ穴あいてるぅ」
今年5歳になったばかりの大和くんは、僕の裏側を指差しながらそう言った。
「あら、そうなの?」
「うん。ほら、ここ!」
「ホントね。この靴下いっぱい履いてきたからね。どうする?ママが直してあげようか?」
「うーん」と悩みながら大和くんは開いた穴に人差し指をズボッと突っ込んでグルグルと僕を回す。
「新しい靴下がいい。今度はドクターイエローのやつ!」
お母さんが笑いながら今度は黄色の新幹線が描かれた真新しい靴下を持ってくると大和くんは嬉しそうに駆け寄りながら、僕を放り投げ、僕は空いていた窓からぴゅーんと庭へと飛んだ。
「大和、穴が開いたさっきの靴下どこやったの?」
「え〜、しらなーい。クルクル回して遊んでたら、どっか飛んでいっちゃったぁ」
「もう、しょうがないわねぇ」
お母さんはリビングに落ちたままの僕の双子の弟を拾うと、段ボールって呼ばれている箱にいれた。あの中に入れられたら最後。もう二度と出てこられないのは知っている。あいつはまだ穴も空いてないし、ちょっと可哀想だけど仕方がない。
僕はその様子を庭からしばらく見つめたあと、1人で歩き出した。先程、大和くんが僕の穴に指を突っ込んでグルグル回して遊んでいたおかげで、穴は最初より大きく広がってしまったけど、そのおかげでこうして外に出られた。僕はどんな靴下よりも1番カッコいいから、大和くん以外にもきっと誰かが使ってくれるはずだ。みんなで僕のことを取り合いになっちゃうくらいね。
最初に出会ったのは近所に住む三毛猫さんだった。
「みーちゃん、こんにちは」
「あぁ、こんにちは。おや?今日はあの坊主は一緒じゃないのかい?」
僕は昨日まで大和くんと一緒に毎日この道を通っていたから、みーちゃんが不思議がるのも無理はない。
「大和くんなんか知らないよ。ねぇ、それより、僕を履いてくれない?カッコイイでしょ、この新幹線!」
みーちゃんはジロッと僕を見た後、ぐーっと伸びをして溜息をついてこう言った。
「あたしはね、ごらんの通り足にもフサフサした毛があるから靴下はいらないんだよ。それにお前さん、もう1人の弟はどうしたんだい。猫っていうのは足も手も2本ずつあるんだよ。1本だけ靴下を履いていたら変だろう?」
「それもそうだね」
みーちゃんはおばあちゃんだから、僕のカッコよさが伝わらないんだろう。やれやれ。次はもっと若い人を探さなくちゃ。
次に会ったのは、カラスさんだった。
「カラスさんこんにちは。ねぇ、僕を履いてくれない?」
「カー、カー、嫌だね。お前、すごく目立つ色してるもん。俺たちは黒が好きなのさ」
たしかに。カラスさんは顔も体も真っ黒だから、カッコいい僕とは合わないかもしれない。真っ黒なんてつまんないのに。
次に会ったのは蝶々さんだった。
「ねぇねぇ、ちょうちょさん、僕を履いてくれない?」
「ふふっ、キミは面白いことを言うね。私達に靴下なんて履けるわけないでしょ」
「うーん、それもそうだね。じゃあ、僕の中に入って暖まるのはどう?」
「暖まるって…ふふっ。あなた大きな穴が空いてるじゃない。それじゃあ寒くてたまらないわ。それにしてもあなた、自分のことが大好きなんだね」
蝶々さんが、くすっと笑った。
「その気持ち、ちょっとだけ羨ましいわ。でも、ごめんなさいね」
「そっかぁ。残念」
みんなどうして僕のカッコ良さをわかってくれないんだろう。
とぼとぼと歩き回っているうちに僕の体は茶色くなりカッコよかった新幹線が汚くなった頃、正面から小さな男の子が母親と手を繋ぎながらこちらに歩いてくるのが見えた。
「やった!小さな男の子だ!」
僕が大和くんと出会ったのもこれくらいの年だった。小さかった大和くんは目をキラキラさせながら僕のことをお母さんにねだり、その日はベッドの中で一緒に寝た。これくらいの年齢の男の子っていうのはみんな新幹線が大好きだからね。きっとこの子も僕を拾ってくれるはず。
「ママ、しんかんしぇん!」
ほらね。僕を指差して嬉しそうに笑ってるでしょ。
「ホントね。でも随分汚れてる靴下ね」
「しょれ、ほしい」
やった!と僕は心の中でガッツポーズをした。ようやく僕のカッコよさをわかってくれる人がいたんだ!
「うーん、でも穴も空いてるし…。きっと誰かの落とし物よ。困ってるかもしれないから、ここに置いといてあげましょ」
違うよ!僕は捨てられたんだ!履いてくれる人を探してるんだよ!
僕は必死に叫んだ。行かないで、って。僕を拾ってよ!って。でも、その声は届くはずもなく僕はまた1人ぼっちになった。
ポツポツと冷たい雨が降り始め、僕の体はどんどん重くなって汚れていって破けていって……気がつけば、大和くんのおうちの庭へと戻ってきていた。
僕は最後の力を振り絞って体を起こし、おうちの中にいる大和くんを見た。
僕はここにいるよ!お母さんに穴を縫ってもらって、綺麗にお洗濯してもらえば、また一緒にお出かけできるよ!って言おうとして…やめた。大和くんは黄色の新幹線が描かれた真新しい靴下を履き、
嬉しそうに笑っていたから。
「そっか…もう僕は大和くんの特別じゃないんだ…。誰からも必要とされない、いらない子なんだ…」
僕は静かに目を閉じた。
「ほらお前の靴下だぞ!カッコいいなぁ。新幹線だ!」
どこかからそんな声が聞こえて目を覚ますと、大きなお馬さんが一匹とその横に優しい目をした人間のおじさんが1人いた。そしてそのお馬さんの左足には僕の弟が、ちょっと緊張したような顔で真っ直ぐ前を見ていた。
「ど、どうして?なんでお前も僕もこんなところにいるんだ?それにこのお馬さんはなんで僕達を履いてるの?」
「お馬さんの蹄の保護のためなんだって。大和くんのお母さん、穴が空いた靴下とか履けなくなった靴下を集めてこの牧場に送ってたんだよ。捨てようとしてたわけじゃなかったんだ」
「えっ…。でも、穴が空いてる僕でもいいの?それに…僕すごく汚れているよ…。もう誰も僕のこと使いたくないって……」
「いいんだよ」
お馬さんは優しい目で僕達を見下ろしながら言った。
「穴が空いた子も汚い子も、ゴムが伸びてしまった子も、ここではみ〜んな大事な存在。キミたちがいてくれなければ、僕達は蹄を怪我して野原を駆け回れなくなってしまうからね」
そう言われてみると、ここにいるお馬さんはみんな靴下を履いている。左右それぞれが違う柄の靴下を履いたお馬さんもいれば、前脚は可愛いハート柄の靴下、後ろ脚はカラスさんみたいに真っ黒な靴下を履いたお馬さんもいる。
「変だよって笑われたりしないの?お馬さん達は恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいわけあるか。みんな、それぞれ違っててオシャレでいいじゃないか。靴下を履いた馬なんて、世界中どこを探してもここだけだから、わざわざ見に来てくれる人達もいるんだ。キミたちのおかげで僕達は思いっきり走ることができるんだよ。僕達の大事なパートナーだ」
「それにね、兄ちゃん、そこの段ボールに書かれてる字、見てごらんよ」
弟にそう言われ、僕は近くにある段ボールを覗き込んだ。そこには歪な文字で
「ぼくがいちばんだいすきなくつしたをおくるね。おうまさんはいてね。ありがとう」
と書かれていた。
「大和くんだ…この字、大和くんだよ」
僕の目から涙がポロポロ落ちた。
「ね。大和くんは今でも僕たちが大好きなんだよ」
「うん、うん」
後ろにいた人間のおじさんがお馬さんの背中を撫でながら嬉しそうに笑う。
「お前の靴下は新幹線だから、1番早く走れそうだな。よし、行ってこい!ヤマト・グランジョルノ!」
おじさんがゲートを開くと最初はパカパカとゆっくり歩いていたお馬さんが、だんだんと力強く地面を蹴って走り出す。
このお馬さんもヤマトっていうんだ…
顔に当たる気持ちいい風を浴びながら、僕はヤマトと広い草原を駆け回った。同じように風を切って走るお馬さんたちの靴下はどれも可愛くてどれもカッコいい。走るのが大好きなお馬さんたちも嬉しそう。
「僕は特別。でもみんな誰かの大切な特別」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。語彙力のない自分には童話も難しかった…(;ω;)作中に出てきた、お馬さんの靴下は実際にあります。ご興味の湧かれた方、ぜひ検索してみてくださいね。
p.s 2025.7.3 少しだけ加筆修正致しました。




