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祭りのあと

盛大な大祭も終わり、脱力感に見舞われたメンバー達。そんな中思わぬ吉報が舞い込む。

・ 週明けの朝

 月曜日、街はいつもの朝を取り戻していた。駅前のバス停から市街地を通り向かう高校のまでの道のりは昨日の喧騒が嘘のように日常の風景になっていた。響は心地よい疲れと共に少し寂しい気分を感じながら校門をくぐり校舎に入った。


「響ちゃん。聞いた?」メイが下駄箱に靴をしまっていた響に大声で駆け寄ってきた。

「今朝の関東テレビの番組で私たちバッチリ紹介されてたって」息を少し切らせながら興奮気味に話しかけた。

「ホントに?」昨日のインタビューのシーンを思い出すと照れくさくなり響の顔は赤らんでいた。


 教室に二人で向かう廊下では何人もの同級生が声を掛けてきた。うれしいような、恥ずかしいような。こんな時、笑顔で手を振りながら応えるメイの姿に頼もしさを覚えていた。

 隣のクラスのメイと別れ、自分のクラスに入ると多くのクラスメイトが響を囲んだ。


・ 脱力感

 他のメンバーもクラスに入ると同じ状況だった。昼休み、誰からともなく物理準備室に

5人は集まっていた。「いやぁ凄い反響でうれしいけど、お祭りの翌日ってなんかテンション下がるのよねぇ」茜音がつぶやいた。

「うん、昨日が楽しすぎちゃって。また1年待たないとお祭りないのかと思うと・・・」珍しく舞も同調するかのように話し始めた。「僕もこんなにみんなに褒められたお祭りは初めてだったから楽しくて楽しくて・・・その分今朝はなかなか布団から起きられなかったよ」

勇気も続いた。


 みんなの話を聞いて響は笑い出した。「何よ響ったら。こっちはすっかりノスタルジックやってるのに」茜音が言うと「ううん、違うの。私だけかと思ったらみんな同じだったから。みんなお祭りが大好きってわかったからうれしくなっちゃって」

響にとってお囃子を演奏する楽しさは子供頃から変わってはいないが、仲間と一緒にお祭りを楽しむというのは初めて味わうもので格別な事だった。改めてこの仲間と出会った幸せを祭りのあとの寂しさが教えてくれている気がした。


・ 大人のお仕事

 祭りの終わった翌週末、市役所の大会議室に各町内役員、各囃子連の会長などが実行委員会によって集められた。毎年、祭りが終わると開催される実行委員会主催の反省会であった。

 開式後、実行委員長による祭りの総評や市役所の担当職員から報告事項が紹介され、閉会となるお決まりの会議の体裁で行われているのだが今年の会議は例年になく熱気に包まれていた。その証拠に、開式後に最初にあいさつしたのはこうした会議にはあまり出席しないはずの市長だった。その挨拶も興奮気味な様子の力強いもので各方面から市に問合せなどがお祭り後に届いていることなどを交え話をするといったものであった。

 続いた実行委員長はさらに高いテンションで祭の成功をたたえる内容であった。会議に参加している人たちも顔を見合わせながらニヤニヤとしながら話を聞いている雰囲気にあふれ、誰もが今回の祭りの成功を確信している雰囲気となっていた。

 逆に反省点も多く上がったが、その内容は多くの来場者の安全の確保についてや飲食のゴミの問題、トイレなどのインフラについてで予想外の人手にどう対応するかといった前向きな意見が大勢を占めていた。


・ 新たなる出発

 大人たちの変化は響の通う高校の中でも起こっていた。今までに増してお祭り後は「テンツク同好会」への問合せが来ていた。内容は話を聞かせて欲しいという取材依頼から、イベントなどの出演依頼、果ては入会希望まで。

 顧問の吉本としては本業以外に多くの時間を割かれることになったがまんざらではなかった。自分の想いまで乗せて走っている生徒たちに誇りこそ持てど辛いなどとは思うことは微塵もなかった。


 そんな吉本の元に1通のメールが届いた。宛先は関東テレビ。メールを開くと「番組出演のお願い」というタイトルのメールであった。興味深く本文を読み進めるとそこに書かれていたのは「テンツク同好会」の日常を撮影し番組を作りたいというドキュメント番組へのオファーであった。驚いた吉本はメールをプリントアウトすると校長室に飛び込んだ。

「校長、この依頼是非やらせていただけませんか!」普段大人しい吉本のいきなりの提案に押された校長は内容に目を通すと何も言わず頷いた。

「ありがとうございます。すぐにみんなに伝えます。」


 放課後いつものように物理準備室からはお囃子の音が漏れ聞こえていた。「みんなテレビで番組作ってくれるみたいなんだ」吉本はみんなが大喜びするだろうと思い仕事の手を止め放課後になるとすぐにこの部屋にやってきた。


 しかし吉本の予想に反して生徒たちの反応はいまいち。それどころか茜音は吉本に向かって「なんだその話ね」と最初から知っている様子であった。

 部屋の奥で笛を吹いていた響がニコニコしながら話し始めた。「先生、実はお祭りの時に取材してくれた関東テレビの坂井野さんが後日、辰ちゃんオジサンじゃなくて本町囃子連の会長さんに電話してきてくれて普段のみんなを撮って番組にしたいって言ってくれて・・・だけど茜音ちゃんたちがさすがに学校の許可がないとって。それで先生に連絡が行ったんだと思うの」

 事の顛末を聞き恥ずかしそうに頭をかいた吉本は「そうだったのか。先に教えておいてくれればよかったのに。なんだか俺1人はしゃいでるみたいで恥ずかしいなぁ」

「で、校長先生はOKしてくれた?」茜音が質問すると吉本は一旦下を向きしばらく黙り込んでからすっと顔をあげ両手で大きな輪を作った。

 メンバーたちはいっせいに飛び跳ね喜ぶと今度は吉本をにらみつけ「まったくダメかと思ったじゃん。先生ったら勘弁してよ」と吉本の茶目っ気ある行動を談ぽく叱咤した。


「さぁて、それじゃぁメジャーバンド『テンツク同好会』様、今日も張り切って練習・練習!」メイの号令で笑顔だった5人は表情をキリッとさせ太鼓に向かうのだった。



 この物語は私がエンタメとしてお囃子を広めたいという気持ちで結成したお囃子によるコピーバンド「裏・入口社中」をモデルに地元飯能のお祭りなどをオマージュして執筆したものである。


 この物語を通して興味を持たれた方は是非一度Youtubeにてご確認いただきたい。


https://www.youtube.com/@urairiguchi

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