エピローグ 何故、俺は…
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荒れ果てた大地に突然、男はあらわれた。黒光る雷光に照らされる短く整った髪、黒いサングラス、顔が細く見えるほどに鍛えられた首、そして、緑のコートを羽織っていても、筋肉が隆々としており、他者を寄せ付けない黒々しいオーラを放ちながら。
自身を認識した途端、男の心は、憤怒に満ちていた。自らが望んだ死、そして、果てしなく長い時間をかけて苦痛を伴いながら消滅した自分の魂。自身を完全に消すという目的を果たし、未来永劫、魂の輪廻に、生まれ変わることなどないようにと願い、それは叶ったはずだった。
だから、男の憤怒の原因は、自分の思考、身体、自身が存在していることにほかならない。
「難儀だねえ。」
一言。男は言葉を発する。
どうやら、自分は多くの自身に強い敵意を持つ者たちに囲まれていることを理解し、背後には高い崖が聳え立ち、何故か、背中側には馬車があり、馬のような生き物は横たわり、馬車の中には、弱々しい気配があった。
生前というのかは分からないが、男はそれなりの武闘家で、人間としては最高ランクに位置するBランクまでは上り詰めていた。
しかし、その世界では、人間界と魔界が境界を隔てて共存しており、特定の方法以外では行き来は困難な状況であった。
今、男を囲んでいる者たちの気配は、自身よりも上、どう考えてもBランク以上、つまり人間ではないということである。
知識の中にある魔界、そこには魔族、妖魔族などはるかに人間よりも強者であるものたちの住む世界であり、今いる場所が元の人間界ではなく魔界ではないかと、男にも簡単に予想出来た。
その結論は、さらに男の憤怒を爆発させる。
だって、そうだろう?自身を消滅させることで得た平穏な心を、急に土足で踏み躙られ、また、死ねよと。そんなことが許されるなど、許せるはずがなかった。
瞬間、前方からの敵意が膨らみ、無数の妖気の塊が自身に、そして背後の馬車に向かって放たれる。
生前の感覚では、明らかにBランク以上の者たちによる攻撃であり、本来ならば、自身もだが、背後の馬車も消え去っていてもおかしくはなかった。
だが、何となくその妖気弾が弱々しいものに感じられ、自身の感覚に戸惑いながらも、男は右手を前に出し、円を描くようにゆっくりと時計回りに動かし、霊気による障壁をつくりあげる。
刹那、障壁にぶつかった無数の妖気弾は、障壁を撃ち破ることなく、散霧する。
「どういうことだ?。何故、防げた?。」
男は、前方の敵意に向けて右手の指を弾き、圧縮された空気の塊を打ち出す。指弾というこの技は、男にとっては、相手の力量を測るための技であり、今は、自身の現状を測るのにもちょうどよかった。
男が、右手の指を弾く度に、前方の敵意は減っていき、敵は数を減らしていく。男は、何故倒せるのか?、何故霊気を使えるのか?等の疑問を抱くも、一旦は敵の殲滅を優先する。
何度、指弾を放っただろ?と考える頃には、あらかた敵を殲滅しており、残った者も去っていくのが、気配で男には認識できた。
「ふぅ。」
一息吐き、男は上着のポケットから煙草を取り出し、火をつける。考えることがたくさんありすぎて、煙を吐く度に、一緒に溜め息も吐くような感じだ。
「あの、」
男は、背後から恐る恐るといった感じで話しかけてくる声には反応を示さないようにした。自身の状況も分からず、厄介ごとの気配しか感じないだ。
男は、別の場所に移動しようと歩みだした。
「どーん!」
自身の足にぶつかってくる子供の娘。しかも、人間の娘だった。弱々しい気配からは、もしやと思ってはいたが、男が降り立ったのは、魔界のはずで、そもそも人間などが生きていける場所ではなかった。
今だって、人間界で最高峰であった、全盛期の自分より強い存在を相手にし終わったばかりだ。それも何人もだ。何故勝てたかは分からないが、人間程度の弱い生き物なぞ、すぐに駆逐されるような場所だ。
にも関わらず、こんな子供がいるなど、男の頭には理解が追いつかなかった。
「あのー、あのさー、おじさん、助けてくれてありがとう。って何で無視、ってどっか行こうとしないで!」
今度は、足にしがみついてくる娘。今にも泣き出しそうな顔の娘を見て、流石に無下にもできなくなった男は、一応、なるべく関わり合いにならないように言葉を返す。
「まだ、おじさんって歳でもなかったんだが。」
娘は、泣きそうな表情をパッと光らせ、男の正面に立ち、
「だって、おじさんだもん。えへへ。」
心の中で、「だから、おじさんじゃないんだが。」と毒付きながら、下へと娘の方へと視線を移す。
「あの、ありがとうございました。お陰で、命を捨てずに済みました。」
娘の隣には、その子の母親と思われる女性が立っており、謝辞を述べてくる。
去るタイミングを逃した男は、
「何故、俺は…。」
と心底深く、心の中で、溜め息を吐く。
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