八歳 武闘大会に向けて
「殿下が武闘大会に出場なさるんですか?」
その名のとおり、武をもって戦い、優劣を競うと同時に、騎士たちのやる気を出したり、実力を知らしめるために開かれるとか。
ちなみに、父も参加していて、毎年優勝してしまうということだ。実に――、まあ、実力勝負の世界、情けは無用ということだろうけど。
城で開かれるものではあるけれど、一般の参加者の募集もしていて、毎年、それなりに参加者もいるとか。優勝賞品やら賞金やらはなく、得られるのは名声とかそんなもので、あ、いや、優秀者は騎士団にスカウトしてもらえるとかってこともあるのかな。
城の騎士団ともなれば、国内では最高峰だし、その道を志す人の目標、あるいは憧れだろうからね。
もっとも、殿下は、余程のことでもない限り、騎士になることはないだろうけど。
とはいえ、騎士にならないということと、自身の腕を磨くということは矛盾しない。
とくに、王族ともなると、護衛はいるにしても、自衛できるに越したことはないわけだし。べつに、王族に限った話でもないか。
「ああ。騎士、あるいは、剣士としての鍛練は積んでいるし、実践もこなさなければ身につかないからね。型にはまった騎士道や剣術と、実際に相手と戦う、命のやり取りをするのとでは、まったくの別物で、こればかりは、慣れるしかないからね」
命のやり取りに慣れるというのもどうかと思うけど、王侯貴族なら仕方のないことかもしれない。
じゃあ、最初からそういうことを教えたら、とはならないんだよね。
どうするにしても、基礎基本は大事だから。
「それは、例の噂が原因ですか?」
反乱に関しては、そこまで大きくならずに終わった。むしろ、あっけなく、簡単に済んでしまったと言えるだろう。
だからこそ、警戒態勢は維持されている。
おそらくは、トカゲのしっぽのようなもので、本丸は動いていないから。上層部はそう判断しているということなんだろうね。少なくとも、しばらくの間は。
あれから目立った動きはないみたいだけど、今は力を溜めているのではないか、というのが、城内での見立てだという。
「そのとおりだよ。まあ、向こうさんも、こちらがあれで気を緩めるだろうとは思っていなかっただろうけどね」
それはそうだろう。
反乱の芽なんて、普通は全部対処するものだから。それが、暴力的な解決だろうと、話し合いでの解決だろうと。蟻の堤すら見逃さずに対処しなければならない。
放置というのはありえない。それが、どれほど小さいものであろうとね。
余程考えなしとか、そもそも、反乱の成功を狙っているなんて場合はべつだけど、それなら、最初から対処なんてしないはずだ。
「当然、魔法師も出場するよ。実戦ではどんな相手とまみえるか、こちらで決められるわけではないからね」
それはそうだろうね。
父の言う実戦というのは、おそらく、戦争とかってことじゃなく、暗殺者とか、反乱軍とかってことなんだろう。
私は魔法師ではないから、魔法師の暗殺者、襲撃者は寄越さないでね、なんてことは成立しないわけで。
普段、殿下も鍛錬は積んでいるんだろうけど、実践の感覚というのは、真剣勝負――稽古ではないという意味で――の中でこそ、より磨かれるものだし。
それに、魔法師を相手に、そうでない人は絶対に勝てない、ということでもない。
「ですが、大丈夫なのですか?」
武闘大会。
つまり、公の場で、殿下に対して刃を向けることができるということ。
もちろん、安全というか、警戒態勢は万全で望むんだろうけど、それでも、一般の参加もありということなら、すべての関係を精査できるわけでもない。
参加者の関係者ということで、観客も多く入ることになるだろう。どこでやるのか、おそらくは、闘技場なんだろうけど。まさか、城の騎士団とか、魔法師団の訓練施設とは言わないだろうし。
それを、こんな、王位を簒奪しようと目論んでいる相手がいるかもしれないという噂のある状況で開催してしまって。
「アリア。私たちの仕事はね、万が一というのをなくすことにあるんだよ」
いや、それでも起こってしまうから、万が一なんじゃ?
言いたいことはわかるし、たしかに、今の父からは、自信と意思をひしひしと感じるけど。
「もしかして、そもそも、この機に乗じてくる相手を捕らえるために開こうということですか?」
そんな相手じゃないと思うけど。
「これで釣られてくれるような相手だけなら、楽なんだけど。まあ、半々くらいかなとは思っているよ」
どうやら、なんらかの情報を握ってはいるみたいだね。それを聞いたりはしない。必要な人が知っていれば良いことで、余計な人が増えると、漏洩の可能性も高まるからね。
一気に大きく反乱だとかってこられるより、個人で対処可能な範囲でちまちまと来られるほうが楽だって考えなのかな。どっちもどっちだと思うけど、騎士団とか、城の保有する戦力の規模を考えたらね。百人も千人もいるってわけじゃあないんだから。
「お母様は出場なさるんですか?」
騎士団長である父が出場しないわけにはゆかないだろうけど、母は、城の魔法師というわけではない。
そもそも、魔塔に所属するような魔法師が、たかだか――と言ったらあれだけど――国の武闘大会程度に興味を示すとは思えないけどね。
たとえば、戦闘魔法を専門に研究している魔法師だとかってことなら、話は変わってくる(例えば、普段は戦えない人と戦えるとか)のかもしれないけど、母はとくにそういった専門ではない、はずだ。
「いいえ。私は出場しないわ。イシスの御守りもあるし、お父様が出場なさるのなら、私があなたたちの側を離れるなんてできないわよ。なにより、私自身で戦うということには、興味も関心もないもの」
魔塔は戦闘機関じゃなくて、研究機関だからね。
もちろん、戦闘魔法を研究している人たちもいるだろうし、そういう資料も読み込んでいたり、当然、実戦もしてはいるんだろうけど。普通、知ったら使いたくなるし。
「アリアも興味があるのかしら?」
「いえ。お母様と同じように、自分が闘うということに関してはあまり」
今回は武闘大会ということで、純粋に、闘争のみで勝敗が決まるんだよね?
楽器演奏の腕前とか、料理が上手に作れたとか、命の吹き込まれたような絵を描くとかってことじゃなくて。
それだと、私にできることは――武術大会に出場しようなんて相手に対してできることは、なにもないと言っていいかな。
一応、騎士だとか、戦士だとか、もちろん、魔法師も経験はあるけど、どれも、アリア・ユーインには不可能だから。
いや、まるきり不可能ということじゃなくて、おそらくは、武闘大会に出てくるような相手を迎え撃つには不十分ということだ。
やってやれないこともないだろうけど、疲れるだろうし。
とはいえ、他の誰かが闘うところになら興味があるということでもない。父の応援くらいはするけど。あとは、まあ、知らない仲でもないし、もし、出場するなら、マーク王子やシャーロックのことも。
「そうよねえ」
母は意味深な様子で私を見つめている。
母の前で戦闘したことも、それだけの規模の魔法を使ったこともない。あるのは、倒れたことくらいだ。あとは、実戦には不向きだろう、小規模なものだね。まあ、使い方次第というのは、なんでもそうなんだけど。
「アリアは女の子だものね。イシスは大きくなったら、出たいと言い出すかしら」
それは多分。少なくとも、興味は惹かれるだろうね。
出場できるまでになるのは、大分先になるだろうけど。




