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転生、転生、転生、転生……って、もううんざり  作者: 白髪銀髪


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四歳 邪教の紋章

 さっき一度、この図書館には捜索しに来ていて、王子のことは見つけられていない。

 だとすると、ここにもう一度探しに来るのは、しばらくは先のことになるはず。

 つまり、こっちから見つけてもらえるような場所まで移動するのが得策だろう。その間に別の人にでも見つけてもらえれば、噂で伝わるかもしれないからね。

 まあ、下手に動き回るより、司書の人に話して伝えてもらえば済むとは思うけれど、そんなことは考えてもいないとばかりにマーク王子が私の手を引いて歩くんだから仕方がないか。

 母には大人しく待っているように言われていたけれど、王子が迷子なんて、来ている人全員に周知されるような問題だし、問題ないだろう。

 そもそも――。

 

「ところで、アリア嬢はなぜここに来ていたんだ?」


「父と母の付き添いです。家には他に人がいないので、私一人になってしまいますから」


 一人で留守番もできないような年齢でもないんだけどね。肉体年齢的にも。

 

「それから、図書館にも興味はありましたよ。家にはないような本がたくさんありますから」


「勇者サリナスの冒険譚などか?」


 それはあんまり興味ないかな。だって、全部知っているし。

 まあ、でも、事実と違う風に描写されていたりする箇所もあるから、そういう意味では面白いとは思うけれどね。


「どちらかといえば、歴史書でしょうか」


「ああ。そういえば、その棚にいたんだったな」


 ちなみに、崩れたままだった本はちゃんと戻してきた。

 今度は、マーク王子が梯子に登って戻してくれたけれど。私が上だと、下にいる王子が視線に困ってまたぐらつく、なんて羽目にもなりかねなかったから。

 

「……ちょっと待て。失礼を承知で聞かせてもらいたいんだが、アリア嬢、今いくつだ?」


 本当に失礼だね。私は気にしないけれど、ほかの女性にはみだりに年齢を聞いたりしないほうがいいと思うよ。

 まあ、普通なら、王子に年齢を聞かれて渋るような子供――女の子はいないと思うけれど。結婚範囲内なのかってことに関わってくるから。

 

「今年四歳になりました」


 精神のほうは、数えていない。

 思い出そうと思えばできるんだけど、わざわざ数えるのも面倒だし、だいたい千歳くらいってことにしている。十年二十年くらいは誤差だよね。


「……絶対サバ読んでいるだろ」


 マーク王子が呟いた言葉は聞こえなかったふりをしてあげた。

 

「マーク殿下!」


 予想どおり、私たちはすぐに見つかった。

 真面目に見つけようと思えば、探知魔法があるからね。護衛に魔法師が来ていないとも思えないし、王子の護衛なら、探知魔法くらい使えるだろう。

 

「言いたいことはございますが、よくぞご無事でいらっしゃいました」


 騎士風の格好をした男の人――父ではなかった――とその部下のような人たちが膝をつく。もちろん、中にはローブを着ている魔法師の人の姿もあった。

 

「ああ。迷惑をかけてすまなかったな」


 マーク王子が素直に謝ると、騎士の人たちは一瞬だけ驚いたような顔を見せ。


「いえ。我々の落ち度でもありましたゆえ、任を全うできず、申し訳ございません」


「よい。私のせいでもある。もう顔を上げよ」


 各部隊に通達、見つかったとの報告を、などという連絡を済ませた騎士の方は、私へ視線を向けて。


「それで、そちらの御令嬢は?」


「リシウスの息女で、アリア嬢だ」


 父がいればすぐに証明できたけれど、王子の言葉を疑うつもりはないらしい。あるいは、父の威光が強いのか、すぐに疑うような雰囲気を霧消させた騎士団員の方たちは、再度頭を下げられて。


「ユーイン団長の。失礼いたしました、アリア嬢。殿下のこと、誠に感謝いたします」


「私は父と母の付き添いでここへ来ただけで、本を読んでいただけですから、感謝されるようなことはございません。お顔をお上げください、騎士様」


 そんなことよりも気になることがあるからね。

 まあ、気づいていて泳がせているのか、それとも気づいていないのかで、対応が変わってくるから、下手に指摘はしないでおこうかな。

 そもそも、どういう個人、あるいは、集団の一員なのかもわからないし。

 

「どうかしたのか、アリア嬢」


 私がそちらを注視してしまっていたことに気がついたのか、王子が少し不機嫌そうに尋ねてくる。

 

「いえ。大したことでは」


「……そうか」


 なにか言いたげだったけれど、さっきの私とのやり取りを思い出したのか、それ以上深くは追及してこなかった。

 けど、後で父にそれとなく尋ねられるように、顔はきちんと覚えておこうかな。


「今日はすまなかったな、アリア嬢。貴重な時間を邪魔してしまって」


 そう言って、王子が私に頭を下げるので。


「お気になさらないでください。無駄とは思っていませんので」


 どうせ、これからもいくらでも続く生のうちの数時間程度だ。

 

「そ、そうか」


 王子は言葉を詰まらせる。

 

「で、では、今日のお礼をしたいと言えば、付き合ってくれるだろうか」


「我が家は公爵家ですので、王家からの申し出を断ることは難しいでしょう」


 身分をかさに着て、女の子を誘うなんて、あまり褒められた方法ではないけれどね。

 

「もちろん、今日のように周囲の方を心配させるようなやり方は控えてくださいますよう、お願いいたします」


 先触れもなくいきなり押しかけてくるとか。

 

「わ、わかった。リシウスを通じて確認するようにする」


 王子との個人的な顔合わせなんて、面倒すぎて嫌なんだけど、断るのも、それはそれで面倒だ。もしかしたら、父に言えば断ってくれるかもしれないけれど。

 あんまり断り続けるのも、ユーイン家としては、良くないと思うんだよね。王家を蔑ろにしているなんて言われかねない。受けたら受けたで贔屓だなんだと噂するくせに。ああ、面倒くさい。

 もちろん、そんなことは顔には出さない。それから、口にも。


「では、またな、アリア嬢」


 マーク王子と別れた私は、再び図書館へと戻り。



「アリア。今日はすごい活躍をしたみたいじゃないか」


 夕食の席で、父が笑っていた。

 騎士団長である父の耳には、当然、私とマーク王子のことは届いているのだろう。なにせ、娘のことだからね。


「言われるほどのことをしたわけではありません。たまたま、王子殿下と出くわしただけにすぎませんから」


「そ、そうか。それで、王子殿下はどうだった?」


 どこか心配するような口調だけれど、多分、マーク王子の様子が聞きたいわけじゃないよね。そんなことは、城で確認してきているだろうし。


「お父様が心配なさるようなことにはなりませんから、ご安心ください」


「アリアちゃんは王子殿下のことを好きになったりはしないのかしら?」


 母は楽しんでいるみたいだけれど。


「まだ、一度お会いしただけですから」


 恋だの、愛だのでなければ、人として好ましく思うという相手はできるかもしれないけれど。

 少なくとも、今のマーク王子相手では、それはないかな。


「ところで、お父様は、この紋章をご存知ですよね?」


 私が描いて見せると、父は不思議そうな顔をして。


「もちろん知っているよ。魔王軍の紋章で、今は邪教の紋章だね」


「邪教、ですか?」


 なにか、悪い予感がするんだけど。


「ああ。この世界へ侵略を試みていた魔王は勇者サリナスとその一行に敗れたことは知っているね?」


 もちろん、知っている。


「ただ、最近かどうか、昔からという噂もあるんだけど、その魔王の復活を目論んでいる集団がいて、その集団のことを邪教と呼んでいるんだ」


「そうだったのですか」


 そんな集団ができていたのか。


「もっとも、具体的に事を起こしているわけでもないし、問題にならない限りは、この国では宗教は自由とされているからね」


 だから、心配することはないよ、と父は私の頭を撫でた。

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