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転生、転生、転生、転生……って、もううんざり  作者: 白髪銀髪


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十二歳 アリアの料理

 実際、孤児院の経営って、どこでも結構、ギリギリなところがあるからね。

 もちろん、院長とかが着服してってことじゃなくて。

 国が孤児院を支援していたり、教会を兼ねていたりするところもあるけど、善意の国民の寄付で成り立っている場合が多い。 

 そもそも、孤児という存在ができること自体、裕福ではないことの証明だからね。もちろん、それは財産的なことだけじゃなくて、心が貧しいって場合もあるんだけど。

 だから、わりと、甘いもの自体を食べる機会が稀で、喜ばれる場合が多い。

 とはいっても、無理矢理、甘すぎるものを作っていくみたいなことじゃないけど。風味も大切だし。

 それに、クレープよりは、クッキーのほうが多く作れるし、そのほうが喜ばれるだろう。祭りみたいなことだと、また、別になってくるだろうけど。

 というわけで。


「どうぞ。結局、お菓子にはなりましたが」


「それはいいんだけど」


 フィリージアは慎重にさらに手を伸ばし、盛られたクッキーの一枚を手に、まじまじと見つめる。


「まあ、形はきれいだし、匂いもまあまあね。肝心なのは味だけど」


 どんなに綺麗にできていても、味が悪ければ、食べ物としては失敗作になるからね。

 ちなみに、ロレーナはなにも言わずに、ただ座っているだけだ。フィリージアより先に食べることもなく、見守っている感じだ。フェリックスも。

 一応、ロレーナは、私が料理もできることを知ってはいると思うけど。ただ、普段、ロレーナに任せきりだから。

 そして、ままよって感じで齧ったフィリージアは。


「……あら、意外と……普通においしいわね」


 意外とって、かなり失礼じゃない? 

 私がジトっとした視線を向けていたことに気がついたフィリージアは、一緒に淹れていたお茶を飲みながら。


「ごめんごめん。でも、なんとなく、こう、アリアのイメージに、料理のできる子っていうのが、全然なくて」


「なんだったら、夕食もご馳走しますが?」


 べつに、お菓子作りだけじゃないからね、私ができるのは。

 昼食だろうが、夕食だろうが、レストランで提供されるくらいのものを出すことはできるよ。ここにいる四人分くらいだったら、作るのも、それほど時間がかかるわけでもないし。


「それはいいわよ。アリアのことを……疑っているわけじゃないから」


 一瞬以上の間があったけど、ようするに、さっきは疑っていたってことだよね。わかってたからいいんだけど。

 

「そういう会長こそ、料理はなさるんですか?」


「まあ、一応、淑女の嗜み程度にはね。ここまではさすがにできないけど」


 それで、なんで私のことは疑うのかな。

 まあ、済んだことだから、もうどうでもいいけど。


「ロレーナは……当然、知っていたのよね?」


「はい」


 フィリージアに顔を向けられ、ロレーナは頷く。

 

「そもそも、お嬢様は、私がお仕えするようになる前から、稽古ごとの先生方をお返しになっていたと聞いております」


 ロレーナが私と一緒にいるようになったころには、もう、指導に先生が来ることはなくなっていたからね。そもそも、先生が来ること自体、一回か、多くても、二回ってところだったし。

 

「それで、あの成績なの……?」


「天才なので」


 本当は、天才じゃなくて、ただ、記憶が蓄積されているってだけのことだけど。


「さらっと言うわね……」


 フィリージアは、溜息をひとつ漏らし。

 

「ロレーナも、シャーロックも、よくアリアと一緒にいられるわね」


「もう慣れましたから。それに、私にとっては、お嬢様が優れていらっしゃることは、喜ばしいことですから」


 フィリージアは、全校生徒のプロフィールくらいは頭に入っていると言っていたから、私とシャーロックが昔馴染みだってことくらいは、知っているだろう。

 それなら、私が料理くらいできるってことも、知っていそうなものだったけど。さすがに、試験科目に料理はなかったからかな。 


「そもそも、料理も、裁縫も、楽器なんかも、貴族家の女子としては、当然のように嗜むものでは? フィリージア会長も同じですよね?」


 それとも、同じファルバニアの公爵家でも、ユーイン家とマルグリート家とじゃあ、教育方針が違うってことかな。

 まあ、フィリージアは魔法師――まともな、そして、優秀な魔法師だから、魔法の訓練に力を入れていたってことはありそうだけど。

 

「あー、うん、そうなんだけど、こう、イメージ的な話でね」


 フィリージアは、ばつが悪そうにというか、歯切れ悪く笑って誤魔化した。

 

「まあ、試験科目に料理や掃除なんかはありませんでしたからね」


 さすがに、審査するほうが大変だし。

 学生にコンテストレベルのものを作れというのも、教師側に、それを審査しろというのも。

 コンテストくらいの審査員になると、審査もそれなりに基準をもって判断できるんだろうけど、せいぜい、十歳ちょっとの子の料理に点数をつけるなんて、なかなか難しいわけで。

 それに、基本的に、貴族家の令嬢――あるいは、令息であっても――は、料理なんて自分ではしないからね。

 まあ、入試科目にするには、いろいろ、問題がありすぎる。

 だから、フィリージアが全校生徒のプロフィール的なものを頭に入れていたとしても、私が料理できることなんかを知らなくて当然とも言える。

 

「でも、これならちゃんと孤児院でも提供できそう、というより、普通に売り出しても問題ないレベルなんじゃない?」


「売り出したら、孤児院の子たちには回っていきませんけどね」


 というより、個人的には、子供が相手なら、無料で配ってもいい、いや、無料で配りたいくらいだよ。

 さすがに、毎日ってなると難しいけど、私が料理をするなんて、お祭りくらいのものだし、生徒会として孤児院に向かうときは、たとえば、おかしなんかを用意する場合、私たちの個人的な小遣いを使うことにはなると思うけど、それでお金をとろうなんて考えていないからね。

 

「それは、たしかにそうね……。だけど、これなら、お金を出しても食べたいって人は出るレベルだと思う」


 たかだかクッキー、されどクッキー。

 まあ、フィリージアの言いようは、大げさすぎるとは思うけど。

 多分、私が作ったものだってことに対して、バイアスがかかりすぎているんだと思う。普段の私への評価が知れるね。


「大丈夫ですよ、フィリージア会長。料理に必要なのは愛情です」


 それから、腕と良い食材。

 まあ、本当に、ただ味だけという意味では、腕前や食材のほうが、愛情よりも重要なのかもしれないけど。でも、そんな提供の仕方は、少なくとも、私たちが孤児院にするときには、ありえないわけで。

 それはおいておくとして。

 それでも、こうして隣り合って教えながら、同じ材料、同じレシピで作るなら、よほどのことでもない限り、同じ味のものが――完全にまったく同一とは言わないけど、九割以上で――できるはずだ。

 

「つまり、これがおいしいのは、アリアからの私への愛情ってこと?」


「そうですね」


 それも、ないとは言わない。


「ねえ、ロレーナ。あなたのご主人様が冷たく感じるんだけど」


「気のせいではありませんか? お嬢様はいつもあのような感じですから」


 とにかく、私に対する疑いは払拭できたようだね。

 当日、食材を持て行って一緒に作るっていうことでも、それはそれで楽しいかもしれないけど、フィリージアはどうするつもりかな。

 それによって、メニュー、なんて大層なものじゃないけど、なにを作るのかってことを考えたほうが良いからね。

 もっとも、タネを仕込むくらいは、事前にできるけど。

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