十二歳 自分で聞いてきたくせに
そんな感じで、騎士学科のほうの生徒たちは説得できたんだけど。さすがにこれで嘘をついていたってことなら、見破れなかったことになるけど、それはそれで、称賛に値する。良いか悪いかは別にしてもね。
私は、フィリージアの向かった、魔法学科のほうを振り返り。
「シャーロック」
その塊からは少し離れたところに、一人で立っているのを見つけて、声をかける。
「アリア。なんでここにいるんだ?」
驚いたような顔をした後、声を潜めるシャーロックは、さっと周囲を見回す。
「なんでって、私は生徒会に所属していて、そこにこの案件が持ち込まれたから。シャーロックこそ、なんでいるの?」
見たところ、友達と来てるってわけでもなさそうだし。
「友達いないの?」
前に見かけたときには、仲の良さそうな子がいたと思ったんだけど。
「なんでそうなるんだよ。俺だって、一人でいるときはある」
「あの子たちって、シャーロックの友人?」
フィリージアが話している子たちへと視線を向けながら尋ねると、シャーロックは小さくため息をついて。
「……いいや。友人って言えるほど話したことがあるわけじゃない」
じゃあ、外から宥めてもらうのは無理そうってことか。
たとえ友人であっても、あの状態で外から言われたことを素直に聞くことができるかって言われると、ちょっと難しいかもしれないね。
もちろん、それを説得するのが、生徒会長であるフィリージアの腕前だろうけど――。
「アリアこそ、友達なんて少ないくせに」
「いや、誰も少ないとか言ってないでしょ」
勝手に自爆して、こっちを巻き込もうとしてこないで。
「俺だっていないわけじゃないから。いつも一緒にいるわけじゃないだろ」
それはそうだけど。
「それに、アリアに会わせるとろくなことにならないだろうし」
「どういう意味?」
私がろくでなしだとでも言いたいのかな?
そもそも、シャーロックの前で私がまともじゃなかったときなんてないでしょ。だいたい、他人の家に空から突っ込んでくるような子に、まともがどうとか、言われたくないし。
「それは……なんとなくだよ」
シャーロックはそういって、顔を逸らした。
なんなの?
いったい、シャーロックの中でのアリアって、どうなってるの?
まあ、それは今はいい。いや、本当は良くないけど、私にもシャーロックの仲良しの子たちに会わせてほしい。というか、シャーロックがその子たちと仲良くしているところを見てみたい。
「あっ、そういえば、メリルって魔法学科だったんじゃないの?」
「メリル……メリル・ディナリーのことか? なんで、アリアが知ってるんだよ」
シャーロックが意外そうな顔を浮かべる。
まあ、基本的に、私の知り合いっていうのが、ロレーナとか、生徒会の面々以外で名前が出るのは、珍しいかもしれないけど。
「お茶会で一緒になったことがあったから」
「お茶会って、そんなことしてたのか」
シャーロックがわずかに眉を顰める。
まあ、私がお茶会に出席すること自体が珍しいからね。
「私――ユーイン家で主催したってことじゃないよ。城で主催されたのに出席したことがあって、そのとき一緒だったんだよね」
そのときに問題も起きたわけだけど、さすがに、あれを無暗と口外するわけにはいかない。
でも、お茶会で会ったことくらいは、問題ないだろう。そもそも、お茶会のこと自体はシャーロックにだって、話したこともあったはずだし。
「へえ。偶然もあるもんだな」
年齢的にはメリルが同じ時期に学院に入学したのは、偶然じゃないと思うけどね。
お茶会に呼ばれていたってことなら、そのとおりだけど。
「それで、メリルとは知り合いとか、友人にはなってたりしないの?」
「……同じ学科だからな。授業は大体被ってるけど」
あんまり話したりしてる感じじゃなさそうだね。年頃の男女だし、そういうのを気にするのかも。
魔法学科自体、ほかに比べると人数が少なめだから、仲良くなる機会は多そうだけど。
険悪とか、無関心ってほどでもなさそうだし、下手に突っつくのは止めておこうかな。
「じゃあ、フェリックスとは、最近どう?」
「おまえ、会うたびにそれを俺に聞くよな」
シャーロックは、若干、うんざりしている様子だけど。
「それはそうでしょ。出会ったころは、仲良くなさそうだったからね。その後の進捗というか、家族なんだから、仲良くしていてほしいって思うのは、当たり前のことじゃない?」
なんなら、フェリックスに勉強を見てもらったりとか、魔法の訓練相手をしてもらったりとか、すればいいのに。
それとも、まだ、コンプレックスがあるってことかな。
「アリアが兄貴と会うのが頻繁になっているせいで理解してないのかもしれないけど、そもそも、卒業して研究職についてる相手と、学生が会うってこと自体が稀だからな。べつに、普段から手紙でやり取りするような仲でもないし」
まあ、それもそうか。
フェリックスは、研究職ということで学院に勤めているみたいだけど、コード伯爵家当主でもあるわけで、そっちの仕事というか、付き合いというか、いろいろと忙しいだろうからね。スマホなんかもないわけだし。
逆に考えると、それだけ忙しいはずなのに、なんで、わざわざ、生徒会にまで所属しているのかってことだけど。
たしかに、理由は聞いたけど、やっぱり、別の目的があると思うんだよね。
本来なら、他人の目的なんて、基本的には放っておくんだけど、場所が場所だけにね。
「アリア。ちょっと、そんなところでイチャイチャしてないで」
「イチャイチャしてるわけじゃなくて、日常会話なんですけど」
まあ、仕事で来てるのはそうだけど。
「じゃあ、シャーロック、会長に呼ばれたから行くね」
「ああ」
挨拶を済ませ、フィリージアのところまで進み出て。
「これ、私にできることありますか?」
すでに、一触即発の雰囲気は収まっていて、フィリージアの人徳か、人望か、あるいは、能力(魔法とか、特性とかって意味じゃなく)か、空気も穏やかなものだけど。
「ロレーナがいないんだから、一応、調書とっておいて」
「わかりました……」
渡された紙とペンで、当事者たちが話す内容を書き記していく。
一応、形式的なものだからね。
とはいっても、それなりに人数がいるから、大変は大変だけど。
「確認されますか?」
「ええ。うーん、やっぱり、生徒会室に戻ってからにしようかしらね」
そうして、二人でその場を後にして。
今度は、普通に歩いて戻る道すがら。
「あの子って、フェリックス先輩の弟なのよね」
「シャーロックですか? そうですね」
さすがというか、フィリージアは知っていた。
まあ、とくに、シャーロックはフィリージアと同じ学科ですらあるわけだから、それはそうか。
「フィリージア先輩は、シャーロックと一緒の授業を受けていたりしますか?」
学院の授業は選択式だから、上級生と下級生の授業が被っていても、変なことでもない。
「いくつかね。そんなにたくさんじゃないけど。彼が努力家なことはわかるわね」
それは、私も知っている。
ふと、フィリージアが私のほうを盗み見るようにしていたので。
「なんでしょうか?」
「アリアとあの子って、どういう知り合いなの?」
どういうと言われても、普通の友人としか言えないんだけど。
取引相手とか、上司と部下とか、主従だとか、そんなことはないし。
「そういうことを聞いてるんじゃないんだけど……」
それでも、フィリージアの望む回答はできないと思うよ。
「恋愛感情がどうのというお話しですか?」
「あー、もういい。その反応でアリアのほうはわかったから」
自分で聞いてきたくせに。
まあ、話せることもないから、話を続けられても、申し訳ないところなんだけどね。




