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転生、転生、転生、転生……って、もううんざり  作者: 白髪銀髪


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そして、アリア・ユーイン

 私が転生する先に関して、決まっていることもある。

 女性であること。

 今まで、男に生まれ変わったことも、ナマケモノとか、マグロみたいな、人以外になったこともない。

 因果律は無視できないこと。

 たとえば、以前にも生まれ変わったことのある世界にもう一度生まれることもある。

 その場合、以前、その世界に存在していた時代よりは、必ず後の時代に生まれ変わる。

 因果律に関しては、これだけじゃないんだけど、それが問題になったことはほとんどない。

 ゼロ歳から始まること。

 おそらく、その世界でもともと生きていた人の人生を乗っ取ってしまうことがないようにということだろう。

 私は記憶を失うことがない――できないから、途中から始まると、どうしたって、人格がまるきり変わってしまうからね。それは、それまで生きてきたその人の人生の否定になってしまう。

 死んだ直後にべつの人生が始まること。

 魂だけになって彷徨うとか、そんなあやふやな状態はない。母親のお腹の中ということもなくて、赤ん坊ではあっても、その世界に個として存在する器に生まれ変わる。

 ただ、単純な肉体能力は、基本的に生まれ変わったその肉体に依存することになる。

 前世の生が終了した直後に始まるため、いきなり光景とか、感覚なんかが切り替わることになるのだけれど、そこは、まあ、五十回以上も経験してきているので、意外と慣れてしまっている。

 舌や歯、耳や目も、直後は未発達なので、あまりうまく喋ったりはできない。そちらは、わりと早く慣れる、いや、馴染むと言ったほうが近いのかもしれない。

 それから、銀の髪と青い瞳。

 これに関しても、両親からの遺伝よりも強く影響を受ける。

 たとえば、両親ともに黒髪黒目の日本人であったとしても、私は銀髪と青い瞳で生まれてくる。

 両親の片方が金髪だったりしても同じことだ。


「可愛い、私のアリア。今日の気分はどうかしら」

 

 そう私を抱き上げる、長い金の髪に青い瞳の女性。どうやら、彼女が今生の母親ということらしい。


「きみに似て愛らしいね、サリナ」


 母親――サリナに抱かれている私を覗き込む紫の瞳。

 察するに、灰色の髪をした彼が、私の今生の父親なのだろう。これが、愛人なんかじゃないというのであれば、だけれど。


「リシウスも抱いてみますか?」


「私が抱いても大丈夫なものなのか? 壊れてしまったりするんじゃないか?」


 父親――リシウスが、恐る恐るといった手つきで、サリナの腕から私を受け取る。

 そんな風に怖がっている手つきでいるほうがよっぽど危ないんだけどね。

 私は今まで子供を作るほどまでに関係を深めた相手はいなかったけれど、乳母のような立場なら何度か経験したことがある。いや、私は授乳はできないけど。


「生まれてきてくれてありがとう」


 サリナから、壊れてしまいそうなものをそっと扱うようにキスされる。

 赤ん坊の仕事は赤ん坊でいることだ。

 お腹が空いたら泣き、疲れたら泣き、眠くなったら泣き。

 実際に存在している年月だけでいえば、千歳のお婆ちゃんなんだけど――いや、妖怪かな。だけど、できる限り、前の人生とは別の人間として生きると決めているからね。

 もちろん忘れることはできないけれど、それはそれだ。

 どうやら、望まれずに生まれてきたとか、生贄にするために産んだとか、そういうことでもないみたいだし。

 とりあえず。


「よしよし、アリアちゃん。お母さんはここにいますからね」


 泣かないというのは手のかからなくて良いことであるようだけれど、まったく泣かないというのも、それはそれで心配させる原因にもなるらしい。

 面倒なことこの上ないけれど、私以外の赤ちゃんは、そういうものらしいからね。自分のがいたことがないからわからないんだけど。

 でも、そんなことで両親の心配事を増やしたくはない。

 

「やっぱり、女の子でしたね」


 サリナは笑顔だけれど、わずかに、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「大丈夫だよ、サリナ。男の子でも、女の子でも、僕ときみの大切な子じゃないか。それに、そのうちアリアも、弟か妹がほしいと言うかもしれないだろう」


 リシウスがサリナの頬にキスを落とすけれど。

 気が早すぎないかな、この両親。私、まさに今生まれたばかりだよね? まあ、仲が良いのは結構なことだけれど。


「そうですね」


 サリナは微笑んで、私をあやす。

 なんだか、微笑ましそうな両親の会話といったところだけれど、本当に私が弟か妹がほしいって言い出したらどうするんだろうね。いや、言わないけどさ。

 まあ、でも、そうだね。

 さすがに妹に押し付けるわけにはゆかないだろうけど、弟ができたら、私は楽ができるということだよね。


「きみの娘だ。きっとアリアも立派な魔法師になるんだろうね」


「そうなってくれたら嬉しいですけれど、強制してはいけませんよ。それに」


 サリナがわずかに眉を潜める。


「どうかしたのかい、サリナ」


「アリアちゃんからは、たしかに、魔力を感じることは感じるのですが、すこし変というか、気になることがあって」


 まさか……いや、さすがに魂のことまではわからないだろう。普通……よりは優秀な魔法師みたいだけれど、魂に関しては、それとは別の話になってくるからね。もちろん、死霊術とか、そういうのを専門にしていたとしても変わらない。

 少なくとも、私の知識では、真っ当な方法では、魂の本質まではわからないはずだ。


「この子のことだ。どんな些細なことでも言ってくれないか。たしかに、私は魔法は全く駄目だけれど、王宮で聞くことができるかもしれない」


「それが、私もこんな感覚は初めてで。具体的にどうとわかるわけではないのですけれど」


 ただ、さすが母親というべきか、魔法の才に溢れているからなのか……どっちもだろうね。

 もっとも、それ以上はわからないようだ。わかってしまったら、それはそれで大変というか、申し訳ないというか。

 

「では、魔塔に掛け合ってみようか?」


 ん? 魔塔? もしかして。

 いや、まさかね。

 どこにだって、似たような名前の建物くらいあるでしょ。なんとかタワーとか、なんとかツリーみたいな。


「ここファルバニアには魔塔があるからね。明日にでも訪ねてみよう」


 あー、ファルバニアか。

 それで、魔塔。

 すごく行きたくない。でも、この身体では、行きたくないとは喋れないし。泣いて叫んで止めるのは、いかにも、というより、心配してくれている両親に迷惑はかけられない。

 いや、でも、今の私はゼロ歳児。そして、アリア・ユーインの生とは無関係。まあ、明日関係してしまうんだけれど。

 でも、とにかく、多分、しばらくは放っておいてくれるはず。おそらくは、喋れるようになるか、歩けるようになるまでは。

 ずっと黙ってるとか、寝たままでいるとかっていうのは駄目かな? さすがに無理があるか。すくなくとも、私が魂の主であるという以外、悪いところもないようだし。べつに、私がウィルスみたいなものだって話じゃないよ?

 

「出産直後できみには負担だろうから、私が連れて行くよ」


「いいえ。私も参ります」


 無駄なんだけどね。

 どうせ、わかる相手なんているはずがないのだから。

 まあ、でも、どうせ、私にできることなんてなにもないし、する必要もない。

 そうだね。三歳か、四歳になるくらいまでは、いや、それ以降も、のんびりと穏やかに過ごさせてもらうよ。たまにはね。

 それにしても、さすがは赤子の身体だよ。私の気分に合わせてということはないけれど、ちゃんと眠くなってきた。

 泣いて、お腹を満たして、心地よく、温かく抱かれていたら、そりゃあ眠くなるよね。

 

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