十二歳 生徒主催のお茶会と役員の選定について
「お嬢様。お手紙が届いていますよ」
またか、とは思いつつ、ロレーナが矢面に立たされることになるのは悪いし、余計に面倒な事態になるのも避けたい。
「わかったから、便箋を用意しておいてくれる?」
学院に入学して、生徒会に入り、こうした手紙をもらうのは初めてのことじゃない。
もちろん、交際の申し込みだなんていうことはなく、お茶会への招待状だ。
「……わかりました」
ロレーナがなにか言いたそうな顔で私を見ながら準備してくれる。
なにを言いたいのかということはわかっている。
「……お嬢様、やはり今回も参加はされないのですか?」
「理由がないからね」
べつに、生徒がお茶会を開くということに対して、どうこう思っているわけじゃない。
大人になる前の準備をする機関だという点からすれば、学院で生徒がお茶会を開くのも、悪いことではないと思う。
それこそ、ここで失敗したとしても、次回とか、将来に活かせばいいわけだからね。
学院でなら、わざわざ、各家庭に手紙を送って、スケジュールを調整して、両親に確認して、みたいな準備をしなくても、教室で声をかけることだったり、こうして手紙を届けるにしても、わりと気軽に誘うことができる。
「もしかして、ロレーナは参加したいと思ってる?」
それを遠慮させてしまっているとか?
「私にじゃなくて、ロレーナ個人に来てるものでもあるよね?」
ただ、学院では、ロレーナが私の付き人だってことは周知されているから、私とロレーナ、両方に声がかかるということだ。
「私としては、各家との関係を築くことも重要ではないかと愚考しますが」
まあ、たしかに、この前の新入生歓迎パーティーみたいなことを防ぐとか、改善するには、同じような場所も見ておきたいとは思うけど。
だからといって、学院主催のパーティーなんて、そうそう開催できるものでもない。生徒会にも予算はあるし。
だから、その小規模な形である、お茶会の様子を確認するというのは、悪い手ではないんだよね。
「そうだね。でも、全部は無理だから、ロレーナが適当に選んだところに参加の返事を出しておいてくれる?」
「……お嬢様。そういったことは、ご自身でお決めにならないと」
ロレーナが難しい顔をするので。
「わかったよ。じゃあ、くじ引きで決めよう。だめ? じゃあ、ダーツでもいいけど」
「……わかりました。私のほうで、全部のお誘いに参加のお返事をしておきます」
全部って……。
「ちなみに、どのくらい来ているの?」
「確認なさいますか?」
ロレーナが、カードを広げるように、手の中に持っている招待状の束を見せてくれる。
少なくとも、十数通は来ている。
「言っておくけど、生徒会の仕事もあるからね? 授業もあるし、私の体力とかも考えてね?」
「大丈夫です。お嬢様ならば問題ありません」
問題あるから。
「それに、どこかの招待だけ受けたとなると、角が立ちませんか?」
実際は、どこかを特別扱いしているとかってことはないんだから、そんな噂なんて私は気にしないけど。
「そうはいっても、実際、全部受けるのは不可能でしょ。私の身体はひとつしかないし、時間も体力も無限じゃないんだから」
そもそもね。
この子たち、なんでバラバラに開催しようとするの?
他の家門は敵だとかって思想で教育されてるのかもしれないけど、お茶会くらい、仲良く、協力して開いたらいいんじゃない? 誰が主催だとかって、そこまで気にするようなことでもないでしょ。
べつに、成績とか、稼ぎとかみたいに、比べるようなものでもないんだから。
将来的には、その家の力を示すとか、友好関係の円滑な遂行とか、まあ、そんな感じの理由で持ち回りで開催することになるのかもしれないけど、学生が気にするようなことじゃないと思うんだよね。
だからって、私がまとめて主催する、みたいなことはしないけど。
「お樹様がまとめて一度開催されれば、一応は皆様を納得させられるのではありませんか?」
「……さすがだね、ロレーナ。私の思考を先回りするなんて」
とはいえ、自分の主催するお茶会に招待しているっていうのに、その相手から、そっちに行くんじゃなく、こっちに来い、みたいに誘われたら、反発心も生まれるんじゃないかと思うんだよね。
一応、私――ユーイン家は公爵家だから、あからさまには批判されたりしないと思うけど。
まあ、その程度、どうとでもなるか。
「とりあえず、フィリージア先輩に確認してからにしようか。生徒会の仕事との兼ね合いもあるだろうし」
最近の仕事を見ている限りだと、そこまで人手が足りていないということもないから、放課後、あるいは昼休みにちょっとしたお茶会を開くという程度であれば、問題ないとも思う。
数十人参加するお茶会が、ちょっとしたもので済むかどうかはわからないけど。
まあ、それはそれで楽しいかもしれないね。
「もちろん、どれに参加してもかまわないわよ」
フィリージアからの許可はあっさり下りた。
「もともと、生徒会の仕事って、大まかに言えば、生徒たちの快適な学院生活をサポートすることでしょう? それで、生徒の活動を阻害していたら本末転倒じゃない。ああ、もちろん、ほかに大した用事がないのであれば、手伝ってくれると嬉しいのだけれど」
生徒会への参加は、自分で決めたことだし、いまさらそのことに関してどうこう言うつもりはない。
実際、生徒会の活動に関して、そこまでの問題も、不満も、要望もないからね。
「アリアが開くということでも、そうね、手伝いくらいはしてもいいわよ」
「お茶会は生徒の活動に入ってかまわないのですか?」
それって、学院側の経費でお茶とお菓子を準備できるってこと? まさかね。さすがにそこまではないかな。
「まあ、いいんじゃない。ほら、生徒会で主催するとなると、役員の補充もできるかもしれないし」
なるほどね。自然な流れで勧誘できるわけだ。
「しかも、生徒会の主催のお茶会で飲み食いしているわけだから、断ったりはしないだろうなと脅すわけですね。さすが、フィリージア先輩、あくどいですね」
「私そこまで言ってないけど? なにがさすがなの? ねえ、ロレーナ、あなたの御主人様ってどうなってるわけ?」
「お嬢様はお嬢様で、ご主人様はリシウス様ですが」
賃金を払っているのは父――ユーイン家だからね。
「……やっぱり、二年生とか、三年生にも、もう一度聞いてみようかしら」
フィリージアが、生徒会への勧誘を真剣に考え始めてしまった。
いや、良いことなんだけどね。役員が増えるのは、それだけ個人の負担が減るということでもあるし。
あるいは、人手が多くなるからできることも増えて、余計に忙しくなるとも言えるけど。
なんにしても、子供たちが集まるのを見られるのは望むところだから、フィリージアには頑張ってもらいたいところだ。
「そうですね。投書箱の件もありますし、長く在籍している先輩方のほうが、現在の学院の諸事情に詳しいというところはあると思いますから、できれば、勧誘していただきたいところです」
案外、ロレーナの淹れたお茶で、フィリージアと(それから、私とも)お茶会ができますよという触れ込みで誘えば、希望者は殺到するかもしれない。
「それっていいのかしら?」
「それで、人数がパンクするようなら、選抜の試験でもすれば良いのでは? そうすれば、能力面でも、問題ない相手を引き込めます」
本当は、能力だけで選びたくはないけどね。
実際の、たとえば、公爵家の使用人を雇うとなれば、信頼は前提として、能力のある相手を選ぶのが当然だけど。
でも、ここは学院で、そういった能力を磨く場所でもあるわけだから。




