十二歳 授業の選択
入学が決まって、手続きを済ませると、学生寮も使えるようになり、家賃の心配はしなくて済むようになる。
まあ、宿はあっても、食事とか、水とか、そういうのは欠かせないわけで、費用がかかることは同じだけど。
私は、ロレーナとだから、食費はともかく、食事の心配は必要ない。部屋には、調理台もあるからね、ほんの一角だけど。
ベッドも問題なく、二人部屋なんだから当然だけど、二人分ある。クローゼットなんかも同じだ。
本当は、入学式まで寝ているつもりだったけど、それだとロレーナの機嫌を損ねてしまうから、適当に散歩にでも出かけようかな。買い物とかも必要だし。
「ロレーナ。出かけようか」
「はい」
残念ながら、春休み期間であることは間違いなく、しかも、学年の変わり目となれば、校舎で活動している生徒はいないみたいだけど。
「お嬢様。今日は演奏はなさらないんですか?」
「まだ足りない?」
寮に入れたんだし、そこまで出費が嵩むこともないよね。
「継続されたほうが、お客様もついてくださると思うのですが」
「たまにやるほうが、特別感があっていいんじゃない?」
べつに、固定客についてほしくてやってるわけでもないし。
私の懐事情と、ひとときの暇つぶしにでもなればってところがせいぜいだ。
「言っておくけど、面倒だからって思ってるわけじゃないよ」
ロレーナから聞かれそうだったから、先回りして答えておく。
「そうなんですか?」
「うん。続けて毎日、あんなに稼げたりはしないから、やっぱり、別の手段が必要だと思う」
たまになら問題ないと思うけど、本格的に稼ごうとするなら。
多分、学院の掲示板とかでも、苦学生に対する配慮というか、学生でもできる、あるいは、学生が必要な仕事の斡旋はしていると思うから、とりあえずは、そこに期待しておこうか。
「意外ですね。お嬢様がご自分から稼ごうとするなんて」
「どう? 見直した?」
主人の仕事は、責任をとることと、給金を払うことだからね。
「試験で一番になるのでも、報奨金が出るみたいですが」
「入学試験じゃない、定期試験ではってこと?」
そんなのはあてにできないよね。
定期試験なんて、そうそうあるものでもないし。
「とはいえ、学生にそこまで稼ぐことが必須ってわけでもないから、ひとまずは、おいておこうか」
あくまで、学生の、というより、学院の設立されている本分とされるのは、学習だ。
知識や体力を育み、来たるべき事態に備えること。
当初は、まあ、その事態っていうのは、魔王軍みたいな脅威に対抗する魔塔の予備軍、みたいな感じだった部分も、ないとは言わない。
でも、それだけじゃなくて、どんなことをするにしても、知力や体力は必要だからね。子供たちの健全な成長のためと言える。まあ、ようするに人材の育成って意味では、同じことなんだけど。
「あとは、アルバイトもあるみたいだね」
寮の掲示板にもいろいろと、貼り紙が貼られている。
「お嬢様がアルバイトを?」
ロレーナは驚きに目を見開く。
そんなに驚くような……ことかもしれないか。普段の私と一緒にいれば。
「いざとなったら、それも候補に入るよねってこと」
そんなことにはさせないから大丈夫。
アルバイトなんてしたくて学院に来たんじゃないんだから。
とりあえず、総合学科の授業日程を確認しておこうかな。春休みとはいえ、数日後にはもう始まるわけだし。
メレディア学院の入学試験は、形ばかりのもので、基本的には全員合格。余程、素行が悪いとかでなければ。もちろん、さっき呼び出されたみたいに、成績が良ければ、特待生とかって話も出たりする。
基本的に、この時期にここにいるってことは、新入生ってことだからね。昨年までの積み重ねがある在学生とは違って、初めてである新入生に余裕とゆとりを持たせるため、早めの時期に告知とかをしているんだろう。
ということで、校舎の掲示板まで来たんだけど。
「さすがに混んでるね」
メレディア学院は有名らしくて、大陸中から生徒が集まってくるみたいだからね。
それも、学期の初めとあって、とくに新入生は。
「今は近付かないほうが無難かな」
「そうですね」
あの人混みの中を割って入って行くのは面倒だ。
学院だし、学生一人一人に映像石が配られて、そこから確認して、なんてこともない。
「お嬢様はどの科目を?」
「とりあえず、行けるところは全部かな」
図書室でも見た感じ、数学とか、物理、歴史、言語みたいなのは、授業に出ていなくても、試験は問題なく通りそうだし。
あとは、入試のことを考えると、音楽、ダンスも。
もっとも、ひとまずは、どれも出席するつもりではいる。テストは問題なくても、レポートなんかの課題もあるかもしれないし、退学とかにはなりたくないからね。そもそも、まったく活動しないんじゃ、来た目的も果たせない。
「お嬢様。私が見てまいりましょうか」
ロレーナとは同じ一般学科。受ける授業も同じ。
「ついでに、とる授業なんかも決めてくれない? 同じがいいから。ロレーナの受けたい授業でいいからね」
とくに、なにか勉強したいことがあって学院に来たわけじゃない。
まあ、入試があれだと、ちょっと生徒とか、教師のことが心配にはなったけど。
「わかりました」
ロレーナに任せて、私は近くの椅子に腰を下ろす。
なんであんなに混むことになるんだろうね。自分の授業科目を確認するだけなら、さっとメモすればそれで終わりなのに。
あとは離れて確認すれば、ほかの人の迷惑にもならず、人だかりになることもなく、皆が楽に済ませられるのに。
騒ぎたいならよそでやってくれって感じだよ。
「入学前からなにをため息ついてるんだ」
「シャーロック」
男子のほうの制服に身を包んだシャーロックは、呆れた顔で見下ろしてきていた。
「受かったんだね」
「受かるもなにも、よっぽど悪くなければ、基本的に来るもの拒まずだろうが」
まあ、そうなんだけど。
学ぶ機会は均等に。それ以降は個人の頑張り次第って感じだよね。
「シャーロックはもう授業予定とかは確認してきたの?」
「ああ」
あの人混みを割っていったのか、それとも、来たのが早かったのか。なんにせよ、熱心なことだね。
「アリアは行かないのか?」
「ロレーナが行ってくれてるから問題ないよ」
学科も、ついでに、選択する授業も同じだし。
「ロレーナに任せすぎだろ……」
「いいでしょう?」
自慢すると、シャーロックは、変わらねえな、とため息を漏らす。
「お嬢様。確認してまいりました」
「お帰り、ロレーナ。早かったね」
基本的には、一週間のうち、五日授業で、二日休み、みたいなサイクルだね。もちろん、サークルとか、生徒会とかに入るなら、話はべつだろうけど、そんなものに所属するつもりはない。
「コード様もお久しぶりでございます」
「ああ。相変わらず、大変そうだな、ロレーナも」
シャーロックとロレーナが他愛のない話をしている間に、私はロレーナの持って来てくれた授業予定と計画を確認する。
「なにか、問題はございましたか?」
「ううん。もともと、なにをとっても問題ないから、ロレーナの好きなようにしてくれたなら、それが一番だよ」
私の成績もよくわかっているよね。
基本的には、どうでもいいんだけど、その中でも、取得に問題なさそうな科目は押さえられている。数学とか、歴史とか、そういう、入試の試験科目にもあったものだね。
シャーロックがその時間割を見て。
「やっぱり、こっちとは授業科目から全然違うんだな」
「当たり前でしょ。学科が違うんだから」
多分、シャーロックたちのほうは、魔法での実技の授業に比重が置かれているんだろうね。




