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転生、転生、転生、転生……って、もううんざり  作者: 白髪銀髪


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プロローグ その10 侯爵令嬢兼宰相リリシア・ヴァレントス

「うまくやったものだな、リリシア」


 実の兄とはいえ、突然、女性の部屋に入ってきたことについては、ひとまずおいておいて。


「お帰りなさいませ、お兄様。お仕事、お疲れさまでした」


 この二か月ほど、国王の命により編成された討伐体に同行して、地方の魔物討伐に向かっていたはず。

 帰ってきたということは、無事に魔物は討伐されたということだろう。

 こぼれ聞いた話によれば、今回はとくに数が多く、被害も大きくなりそうだったということで、国王陛下から賜る褒賞も立派だったとか。

 

「しらじらしい。おまえが、我がヴァレントス家の家督を乗っ取ろうとしていることは調べがついているぞ!」


 私の部屋の執務机に兄であるヴィルトが音を立てて手を叩きつける。

 

「えっと、なんの話でしょうか……?」


 急にそんなことを言われても、全く心当たりがないどころか、意味がわからない。

 そもそも、この国では長男以外の家督相続は、かなり難しい。それも、私のような女性となると、ほとんど無理と言っていいだろう。

 なにしろ、たとえば、一人しかいない子供が娘であって、家名存続のために婿を取ったとしても、本流であるその女性ではなく、婿として迎え入れられた男性のほうが当主となる決まりがあるくらいだ。

 あるいは、遠縁に男性、もしくは、男性家族がいた場合、そちらのほうが相続権は上位となる。

 個人的にはくだらない法律だと思っているけれど、それに反して動こうと思うほどではない。

 それを覆すことは、できなくはないという程度で、かなり面倒な手続きが必要となる。

 そんなことをしてまで手に入れるほど、私にとってヴァレントス家の当主の座という地位は、就きたいものではない。

 一応は、貴族家の娘であるわけで、どこか、別の貴族家に家庭教師としてでも雇ってもらって、適当に暮らそうと思っていた。これでも、マナーの類はほとんど完璧だからね。


「その者におまえの累が及ぶことを避けるため、名前は伏せるが、信頼する筋の情報だ」


 つまり誰かに吹き込まれたということか。

 ヴィルトは、確かに戦力という意味では強大で、信頼も厚いけれど、社交や資金繰り、人脈などでは、私が勝っている。

 これでも、この国の宰相を任されている身だ。

 だから、国王陛下の覚えがめでたいという意味では、そういう噂が流れることもあるかもしれないけれど。

 可能性としては、他の貴族家がヴァレントス侯爵家を潰す目的で流した噂とか。

 ヴィルトは馬鹿――あまり物事を深く考えない、直感的、直情的に動く傾向があるからね。

 婚約者には、そのへんをフォローできる、落ち着いて、頭の回る相手をと、要りもしない気を回してもいたのだけれど。そろそろ、婚約者くらいいてもいい年ごろだし。


「ちなみに、その話、お父様とお母様はご存知なのですか?」


 仕事で各地を飛び回る父はあまり家に帰らない。

 そして、さらに面倒――厄介なことに、今回は必要だということで、母もそれに同行している。

 場所が場所だし、今から帰るとしても、十日はかかるでしょうね。


「思い上がるなよ、リリシア。身の程をわきまえろ」


「思い上がってはいませんよ。冷静に考え直してくだされば、おわかりになるはずです」


 そもそも、結婚するつもりのない私に、貴族家をこのまま継ぐことができるはずがない。

 一応、真に条件を満たせば、結婚しても意味があるとは思っているけれど、あいにく、そんな相手とは、今生では出会えていないから。

 もっとも、その話はすることができないし、証明も限りなく不可能だから、意味はないかもしれないけれど。

 ヴィルトは、舌打ちをひとつ漏らし、大仰な態度で執務室から出ていった。

 誰に唆されたのやら、面倒な調べごとが一つ増えた。

 とはいえ、調べるのにそう時間はかからないはずだ。

 ヴィルトが出向く先も、会った相手もおおよその見当はつく。


「社交は面倒だけど、仕方ないか……おっと、仕方ないですね」


 つい、口調が。

 くだらないとは思うけれど、そういう細かいところを気にするん……気にするのですよね、貴族というものは。



「リリシア。実に残念だ」


 残念なのはお兄様の頭ですよね、と言ってやりたかったけれど、ここにいたっては仕方ない。

 今、私を糾弾するヴィルトの隣にいるのは、どうやら、婚約した相手らしい。もちろん、私はそんな話がついていたことは知らないし、相手の顔だって今初めてみた。多分、父も母も知らないだろう。

 なにせ、ヴィルトが帰ってきてから、まだ三日しか経っていない。

 

「……一応、要件をお伺いいたします」


 楚々とした態度を装ってヴィルトの隣――今は一歩下がった位置にいる、婚約者の顔を見る。

 その表情だけで、大体のところは察した。

 ようするに、馬――頭の足りないところのあるヴィルトに変わり、ついでに私の今いる地位である宰相の地位と、ヴァレントス家の財産とか、名声とか、そういうものを丸ごと自分の手中に収めたいのだろう。 

 ヴィルトも、見た目は悪くないし、侯爵家の長男だし、自慢にはなるだろうから。ブランド物感覚で。

 これが、この前言っていた信頼する筋とやらの相手か。

 

「おまえが我が侯爵家を乗っ取ろうとしていることは明白だった。私の調べとも、プリシラの調べでも、同じ見解が得られた」


 いったい、どんな調べ方をしたのやら。

 ヴァレントス家にも、メイドや執事は数人雇われている。

 ヴィルトが留守の間は、一緒に仕事を手伝ってくれていたから、わかりそうなものだけれど。


「メイドや執事から話は聞いたのですか?」


「あの者たちは全員解雇した」


 告げられた言葉を理解するのに、一瞬以上の時間を要した。


「はい? お兄様、今なんとおっしゃられましたか?」


「次期当主である私の命を聞かず、おまえを庇うような言動を繰り返し、プリシラの名誉を傷つけたのだから、当然であろう?」


 頭が痛くなってきた。

 そんな、一個人の感情で、長年仕えてきてくれていた相手を解雇するような主人に仕えたいと思うような相手がいるだろうか。 

 仮にいたとしても、そんな相手、とても信頼できるものじゃない。


「これは当主への反逆と見做す」


 このプリシラという女は、魔法師ではあるみたいだけれど、まさか、魅了の魔法とかでヴィルトを操っていたりしないよね?

 私には効かないし、調べることもできないから、検証はできないけれども。

 それでも、実の妹に対して、躊躇なく疑いをかけ、剣を抜き放つというのは、操られていると疑いをかけてもおかしくないと思う。

 そうまでして、名誉とか財産がほしいのだろうか。

 

「一応、確認はしますが、私が現王宮の宰相を務めていることはご存知ですよね?」


 下手をすれば、ヴァレントス家への反逆どころじゃなくて、国家反逆罪で投獄だってありえる話だけれど。

 そうなれば、ヴァレントス家を継ぐどころの話じゃない。


「問題はない。そちらは、国王陛下にご報告申し上げたうえで、プリシラに代わって勤めてもらう予定だ」


 問題しかない。そもそも、国家の要職というのは、そんなに単純に変えられるものではないし、変えるべきものでもない。国力を国内外に知らしめるためのものでもあるからね。そんなに簡単に変えていたら、侮られて、付け入る隙を与えるだけだ。

 この国を滅ぼしたいのかな?

 とはいえ、すでにヴィルトは剣抜き放っていて、逃げられそうにない。説得も無理そうだし。 

 

「ここまで申し上げても、信じてはいただけないのですね」


 返答はない。

 けど、私が逃げたらそれは罪を認めるようなもの。

 これでも、痛みは普通にあるんだけどね。

 

「せめてもの慈悲だ。綺麗に埋葬してやろう」


 そして、ヴィルトの剣が私の胸を貫いた。

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