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取引

作者: 葉沢敬一

https://tinyurl.com/2rcm9s2k

に収録。Kindle Unlimitedで発売中

 母が危篤。学校から帰ってきたら病院から電話があって交通事故で意識不明だという。すぐさま父に連絡。私と共に病院に行く。タクシーに乗って救急病院まで着く頃には、雨がパラパラと降り出してきて、病棟に案内される。

 警官が一人待っていて、どうやら母の軽自動車が右折車両に突っ込んだらしい。エアバッグは作動したが、全身打撲。足は車両に挟まれ、切断することになったとのこと。相手は即死。

 私も父も、蒼白になった。沢山の管に繋がれている母を前に呆然とした。医師によれば、母も危ない状態だという。

 看護師からいったん帰って準備とかしたほうがいいですよと言われ、二人で家に帰る。ハレの日に頼んでいたピザをこんなときに頼むなんてと思いながら、デリバリーを注文し父は実家や親戚に電話し、私は携帯端末で連絡網に休みを申請する。ピザが来たので味のしないそれをもそもそと口に押し込んだ。やっとなにが起こったか理解してきて、涙がポロリポロリと落ちてきて辛いピザがしょっぱくなる。お母さんは死ぬの?

 父はまた病院へ。私は家に残った。お母さんに何かあったらすぐ迎えにくるからと。何かって何? お母さんを助けて。

 強く祈った。神様でも悪魔でも構わないと。

 祈りは叶えられた。

 悪魔降臨。

「まあ、助けてやらんこともない。代価は高いぞ」暗黒の存在が言う。

「代価? 私の命で良い?」

「悪魔は命が貨幣だと思っているようだが、そんな物ではない。もっと高い物を取引するんだ」

「私以上の物なんか思いつかない……」

「お前の好きなアイドルKがいるだろう。奴は少女に片っ端から手を出す悪い癖がある。そいつと寝ろ」

「そんな、Kさんは悪い人じゃない!」

「表面上は爽やかな良い人だが、内面は真っ黒さ。俺たちが虎視眈々と狙うほどの」

「殺すの?」

「どうしようかな。死んだら沢山のファンが苦しむだろう」

「それが狙いなのね」

「どうする? 母を取るか、赤の他人を取るか」

「そんなこと言わないで! なぜ私を利用してKさんを陥れようとするの?」

「苦しむ人間は多い方がいい。ジョン・レノンは罪人だったが、チャップマンに殺されたことで二度おいしかった」

「ジョン……誰? その人」

 悪魔はやれやれと言って「有名人ももう忘れられる時期か……取引するか、しないのか」

「わかった、やる。だけど彼が私を選ぶとは限らないわよ」

「そうするさ、運命だからな」

「変えられないのね?」

「契約成立だな。他人に言ったら破棄と見なして母上は死ぬ」と言って悪魔は消えていった。

 翌日学校を休む連絡を入れると、父から電話が掛かってきた。母は容体が安定し来ているらしい。取りあえず、峠は越したようだと。悪魔は約束を守ったようだ。

 SNSをなんとなく見てると、DMが来ているのに気づいた。アイドルグループのKからの直接の連絡。気になったので会えないかという。私はドキドキして「是非」と返信する指を止めた。運命と言っていたがここで連絡すると彼は死ぬかもしれない。でも、殺せとは言ってなかったし。

 ただ、一回セックスするだけ。

 私は、送信した。

 待ち合わせの場所が返信されてきて、ああホントにファンの子を歯牙に掛けているんだなと半ばがっかりする。

 逢って酒を飲まされてホテルへ。私は幸せだった。

 ホテルから出てきたところで張ってた警察に捕まり、私が未成年だと言うことがばれてしまう。週刊誌の記者が居たので、彼を尾行していたらしい。そして通報。

 テレビで大々的に報道され、彼も私も叩かれることになった。彼は12歳の私への強制わいせつ罪で告訴され、私はSNSで彼を陥れた女として写真が流され、学校に行けなくなった。仲の良かったファンの友達からは絶交されてしまった。父はなんでこんなことと元気がない。

そして、彼の自殺。私は死にたいと思った。

 涙を流しながら、悪魔を召喚する。これがお前の望んだことなのかと。

 悪魔は、ニヤニヤしながら、「おいしいねぇ」と言う。沢山の怒りと絶望が刈り取れたよ。まあ、一番悪いのは男だけどね。子供に手を出した男が。

「満足?」

「もちろん、君もお母さんが助かって満足だろう」

「ええ、でも酷い」

「何が? 別にすぐ寝ろとは言ってないぜ。運命と言っただろ。清く付き合っていたら十年後に結婚していた可能性が強かったんだ」

「嘘!」

「本当さ、だからおいしいのさ。君の早とちりと男の手癖の悪さでこうなっただけだ。女癖で苦労するかもしれないけど、それなりの幸せはあったはずだよ、キシシ」

 私はさめざめと泣いた。

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