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【完結】貴族令嬢(かませ犬)を演じれば借金帳消しって本当ですか?  作者: 桐野湊灯


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14/30

14.騙されるメリル(メリル視点)

「フィン、遅くなってごめんなさい!」


 慌てて前を歩くフィンを呼び止める。私の声に気付くと、彼はくるっと振り返って、足早に駆け寄ってくれた。


「メリル様……いえ、大丈夫ですよ。短い時間で考えてくださってありがとうございます」


 少しくしゃくしゃになってしまった羊皮紙を、なんとか伸ばしながらフィンに手渡す。


「……なるほど、『使用人への冷遇について考える会』」


「ええ、催し物に参加する方はみんな使用人を抱えているでしょう。彼らが、満足に暮らせてるのか考えるのは屋敷の主人の努めだと思うの」


 今のは母の口癖をそのまま借りた。


「それは……、スプリング様のお屋敷で働く使用人は幸せでしょうね」


 お優しい方です、とフィンもにっこりと笑った。そういえば、顔立ちが上品で忘れてしまいがちだけど、彼も使用人の一人なのよね……?


 これは確実に、いける。


「晩餐会の中で話し合いをするのですね」


「ええ、できるだけ沢山の人に参加してもらいたいから、ご馳走を沢山用意するの」


「それは……準備が大変そうですね。それが狙いなのか。いや、とても有意義ですね」


 フィンは苦笑いをしながら、穏やかに頷いた。


「王妃は料理が苦手だそうで……、メリル様は料理がお得意なのですか?」


「まあ、準備は料理人と使用人がいるでしょう」


「また、ご冗談を」


「……え?」


「……失礼いたしました」


 フィンは、まずいことを言ったとでもいうように、パッと自分の口を手で覆った。


「ですが、"使用人に対して冷遇"は、あってはならないことですから。この案は、王子に伝えておきますね」


 こんな私にもよく分かったわ。この案は失敗だった、ということだ。フィンの気遣うような視線が今は腹が立つ。


「いいの、あまりいい考えでは無かったわ」


「そんなことはありません!とてもお優しい心を持った方のお考えだと思います。しかし……」


「"しかし"?」


「しかし、使用人について考えて下さるのに、準備するのも使用人にしてしまうと、些か説得力が欠けてしまいます。場合によっては、暴動が起きてもおかしくない」


 特に私の立場からしても、使用人全員の穏やかな暮らしを守らなければいけないので……。


 決まり悪そうにフィンは、視線を逸らした。


「うっ……」


 だめだ、気を抜くと泣いてしまいそう。


 みるみる瞳に溜まっていく涙に、フィンがあからさまにギョッとしたのが分かった。


「……メリル様、落ち着いてください。これはお母様の活動を尊敬して参考にしたものでしょう」


 貴方がそんなに必死になることないじゃない。


 フィンの誠実な優しさに、また泣けてきてしまう。


「それなら、お母様の活動はこんな使用人から恨まれるような案でしたか? そうじゃないはずです。もう一度、よく思い出して。それを、私に教えてください……ねっ?」


 髪と同じ銀色の瞳を揺らがせて、私の顔を必死に覗き込む。そんなこと言っても、この案は丸々全て母の考えを参考にしたものだ。五十人分の軽食を用意して……。



ーーこんな使用人に恨まれるような案でしたか?


ーーアリシアの遠い親戚のジゼルよ。


 ジゼル……? アリシア・サマーの遠い親戚……。


ーーさよなら、ジゼル・サマー。



「そうだわ……」


「そうですよね……。大丈夫、期限が短いと慌ててミスをするものです。私もよくありますから、とんでもないミスしちゃいます。でも大丈夫、まだ間に合いますから。泣かないで、メリル様……メリル様?」


「あんのくそ女~! もうっ……きーーっ!!」


 どうしてもっと早く気がつかなかったのだろう。腹立たしい。今すぐ、あの女を引っ叩きたい。


 フィンのことなどお構いなしに、私は怒りに任せて走り出していた。

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