11.試される令嬢たち
私たちは、それぞれに渡された羊皮紙に案を書き、どこかのタイミングでフィンに渡すことになった。
「フィン」
呼び止めると、彼はすぐに振り向いて優しい顔で微笑んだ。
「どうしました? ジゼル様」
「これ、催し物について考えて見たんだけど……」
羊皮紙をくるくると開いて見せると、フィンも一緒になって顔を寄せた。睫毛が長い……! 中世的な美少年に耐性が無さすぎてドギマギしてしまう。
「なるほど……食事を配る」
「ええ、陛下が策を講じてくださっているのは知っているけど、町にはまだお腹を空かせている人たちがたくさんいるから……」
この案が通るとは思っていない。それでも、参加している以上は何か考えなくては、と頭を捻った結果がこれだった。私もメリルのことを悪く言えたものではない。
「温かくて美味しい料理をみんなで食べたら、もっと元気になるんじゃないかと思って」
これは本心だった。特にガーランド家の食事は美味しくて、塞ぎ込みがちだった気分も吹っ飛ぶほどだった。
「華やかな催し物ではないかもしれないけれど、参加する貴族から少しずつ寄付金を集めれば、資金もそれほど掛からないわ。それぞれの家の自慢の料理のレシピを教え合うっていうのも楽しいかも……」
話しているうちに、思わずあれもこれもと考えが浮かんで、口に出してしまう。羊皮紙には、たった一言"食事を配る"と書いただけなのに。
取り止めもないことを話す私を、フィンは話を遮ることなく穏やかに頷いてくれる。
「もちろん、食事を作ったり、提供したりするときはみんなで一緒にやるの。お祭りみたいにしたら、子どもたちも喜ぶわ。国民との距離が縮まるだけではなくて、家族の仲も深まると思う」
本当にそんな大規模なことが出来たら、きっと楽しいと思う。実際には難しいことかもしれないが。
「……素敵です」
フィンは頷きながら、羊皮紙を丸めた。
「ジゼル様らしい、温かいご提案だ。王子に伝えますね」
そうかしら、食べ物のことばかり考えていると思っているんじゃない? 少し不安になる。
「……ところで、ロイドを見ませんでした?」
そう言われてみたら、今日はしばらくロイドの姿を見ていない。
「てっきり、フィンの所に行ったのかと……」
「まあ、そのうち帰ってくるでしょう」
フィンは猫か何かの話でもするようだった。
「そうそう、この案を出してくれたの、ジゼル様が一番乗りです。ありがとうございます」
「いいえ、とんでもございません……他のご令嬢はもっと熟考しているのでしょう」
「……これは、ここだけの話ですが」
フィンは少し考え込むような仕草を見せてから、重い口を開いた。
「ジゼル様から見て、どなたが王子に相応しい女性に思えますか?」
「そうね……」
誰が相応しいか、正直誰も相応しくはないようにも思える。
「セレスティは冷静で、ユーモアがある。ケイティは優しくて気配りが出来る人だわ。メリルは……愛嬌があって素直な子。みんな、それぞれ王妃として相応しいかと」
目になれ、とは言われているけど欠点を探して陥れろとは言われていない。見過ごせない不正がない限り、私に出来ることは、あくまで"参加"することだ。
命が惜しいから、引っ掻き回すのは遠慮したいわね。
今のところ、それぞれの令嬢に対する印象については嘘を言っていない。それが不安でもある。この中の誰かが、アリシア・サマーの殺害に深く関わっている。それに怯えて本物のメリル・スプリングも逃げ出したのだから。
このまま穏やかに時が過ぎるのを待つしかない。
こんな答えでよかったのかしら……。
フィンは収穫が得られずにがっかりしているかと思いきや、何故かほっとしたような笑みを浮かべていた。
あまり、答えになっていないような答えをしてしまったような気がするが、それ以上追求されることもなかった。
会話に少し間があると、途端に不安になってしまう。いつもはロイドが茶々を入れたり場の空気を和ませてくれる。だが、肝心のロイドがいない。
どうしよう、もう少し何か言った方がよかったかしら……。
「……そうですか。ありがとうございます。同じ女性からの意見はとても参考になりますから」
フィンはにっこり笑って、さっと手帳に何かを記していた。
「それでは、また後ほど」




