10.試される令嬢たち
フィンの話していた"課題"は、案外分かりやすい形で出された。
談話室でそれぞれに好きなことを過ごしていた時のこと。ケイティは刺繍、メリルは編み物、セレスティと私は読書をしていた。
ケイティの刺繍の腕前はなかなかのものだった。見ると、もう違う所をちくちくと縫っている。対して、メリルは何を編んでいるのかさっぱりだった。多分、小さな花をたくさん編んでいるのだと思う。
「……催し物の案、ですか?」
仰々しく丸めた羊皮紙を片手に、使用人の一人が課題を出しに来た。それは、近々催し物を行いたいのだが、何かいい案はないか、というものだった。
ケイティはその羊皮紙を一緒に眺めながら、きょとんとした顔をしている。
「ええ、是非皆様のご意見をそれぞれお聞きしたいのです。出来たらご夕食の前までに、フィンさんが『ご教授いただきたい』と……」
「ええ、わかったわ」
セレスティが短く返事をすると、彼はそそくさと部屋を出て行ってしまった。
「……これ、"課題"よね?」
セレスティは、使用人の男が出て行ったのを見計らってから、冷ややかな声で言った。
「まあ、気づかなかったわ」
ケイティは本心かどうか分からないが、とぼけたように答えた。
「私たちがこういったことに、どの程度の関心があるのかを試したいのね」
「……どうしましょうね?」
「あら、どうもこうもないでしょう。助け合う必要もないじゃない。私たちはライバル……これは戦いなのよ」
セレスティは一貫して冷たい。
「意地悪よね、こんなやり方……、あまり時間もないわ」
ケイティは頬に手を当てて、困ったように笑っている。
「本当よね……いっそ殴り合いとかで片を付けたいわよね」
だって、本当にそうでしょう。まどろっこしい方法よりずっと簡単よ。拳ひとつあればいいんだから。
ケイティは引き攣ったような顔で愛想笑いをしている、目を合わせてくれない。
「まったく……野蛮な人ね」
セレスティは呆れたように溜息を吐いた。まあ、そうよね。忘れていたけど、この人たちも貴族の令嬢だったわ。
「ロシアンルーレットでしょう、こういう時は」
どっちが野蛮よ……。さすが、考え方が違うわね。人形みたいな顔をして、順番に頭を吹っ飛ばそうと考えつくなんて。
「ええ、それがいいわよね。ゆっくり紅茶を飲みながら楽しめるし」
ケイティもゆったりと微笑みながら、セレスティの意見に頷きながら同意する。冗談でしょう、やっぱり根本的に……と思ったら、セレスティもあからさまに距離を取って引いたような目で見ている。
「馬鹿じゃないの、どっちも野蛮よ!」
メリルは半泣きで抗議した。良かった、彼女はこの中でいったら比較的平和な考えを持っているようだ。四人中四人が武闘派なんて笑えない。
はーっと、メリルが深く息を吐いた。
「そんなことより……どうしよう。私、何も浮かばないわ」
メリルの顔は青褪めていた。そうでしょうね、貴方は昔から何も考えていなそうだったものね。
「大丈夫よ、まだ時間もあるからゆっくり考えればいいのよ」
ケイティは、メリルの背中を励ますようにさすってあげた。
「どんなに時間があったところで、その子にいいアイディアが浮かぶとは到底思えないわね」
「なんですって! じゃあ、貴方はもう何かいい考えが浮かんだっていうの?」
「ええ、そうね。絶対教えないけど」
「っ……きーーっ!!」
とうとう何も言い返せなくなったメリルは、歯を剥き出しにして威嚇するような声を上げた。どうやら、セレスティはメリルのことを揶揄って楽しんでいるらしい。いつになく、口元が優雅に弧を描いている。本当に、いい性格しているわ……。
「大丈夫よ、こうしたらみーんなが幸せになるのに……って、普段思ったことを形にすればいいの。ね?」
ケイティは柔らかく微笑んで、私に同意を求めている。彼女が普段、そんなことを考えているわけないじゃない。
「そうね……貴方のお母様、確か慈善活動をよくなさっていたでしょう?」
「ええ、そうよ……?」
「彼女が最も力を入れていたことを参考にしたらどうかしら?」
私は皮肉を言ったつもりだったの。求めていた答えは、『あんなの、ダメに決まっているじゃない』だ。
「ええ……!ええ、そうね。ありがとう!」
メリルはパッと花が咲いたように笑った。
「貴方……優しいのね。とてもいい案よ」
メリルは興奮のあまり抱きついてくる。思ったより力が強い。
「はっ! セレスティ・ウィンター、後悔するといいわ。私の素晴らしい案に震えなさい」
メリルが高らかに宣言すると、セレスティは読んでいた本から顔も上げずに、興味なさそうにひらひらと手を振って返した。相変わらず、優雅な微笑みを湛えたまま。




