第16話 集落選択
周囲の警戒は完璧で、順調に進めた。
想定よりも早く王都周辺の開けた大地に出た。
この調子なら、明るいうちに王都に入れるかもしれない。
しかし、俺はまだラゴイルの体のままだ。
このまま王都に入るのは気が引ける。
見渡すと、地図にあるとおり、王都の周辺には、ポツポツと小さな集落が見えた。
今夜は野営をせずに、集落で宿泊ができそうなところを見つけて、お邪魔するか。
俺たちが通過しようとしているのは、王都の真西にある門。
その手前にある集落は、他の集落に比べて大きい。
王都西門を午前中に通過するなら、今夜の宿泊先は、この大きな集落が魅力的だ。
しかし、王都西門との位置関係から、この集落での追手との遭遇率も高そうだ。
まぁ、追手が居るって決まっている訳じゃないけど・・・。
ラゴイルの体のままではリスクが排除し切れていないから、ついつい過敏になってしまう。
やはり、今夜こそ教えてもらうぞ。
王都到着前に教えて欲しいって伝えてあるんだから、さすがに教えてくれるだろう。
「敵が来たようじゃ!」とか、「夜襲よ!」とか言って、教えてもらっている最中に邪魔されるのは嫌だ。
落ち着いて夜寝れるのは、どの集落かな~。
「グラーシュ、王都周辺で、ラゴイルが行ったことの無さそうな集落はどれだと思う?」
「あの大きな集落は、多分“カンタ村”ですね。」
「知ってるの?」
「よくラゴイル様が話してました。カンタは王都からの帰りに良く立ち寄ったって。」
「・・・」
「大きな集落の連中は、物事がよく分かっている。接待が抜かりなくて、たまらない。王都に用事があるだけじゃ物足りない。カンタに通おうかなって。」
「・・・」
「いつだったか、私の小さい時・・・、秋の・・・今くらいの時期、王都から帰還したときにお土産をくれました。」
「・・・」
「カンタのお土産だって、拾ってきたクヌギのドングリを出して、「熊だから、食べるんだろ」って・・・」
・・・
もしかすると、この世界では、このレベルの事は日常茶飯事なのかもしれない。
ただ、俺の価値観では、全く理解できない。
それどころか、はらわたが煮えくり返って仕方ない。
振り返ると、後ろで控えるアルディも怒りで震えているように見えた。
グラーシュは大切な仲間だもんね。
それとも、アルディが俺の光の粒子を使って生まれているから、俺の怒りが影響しているのかな。
・・・
「悲しい話を語らせてしまって・・・ごめんなさい。」
「・・・いいえ。気にしないでください。昔話ですから。」
・・・
今夜絶対に、このラゴイルの体を捨てる。
俺が今までこの顔でグラーシュに接していた無神経さ。
グラーシュがそれを気にせず丁寧に接してくれていた事。
もう、このままではいられない。
「カンタには寄らない。ちょっと離れるけど、カンタの両隣も避けて・・・、あの集落はどうかな?」
俺の指さした先の集落を、グラーシュとアルディが見る。
「あの集落は大きくも無いし、住宅数も多くない。その割に周りの農地?が広くて、視界が開けているからいいんじゃないかな。」
「いいと思います。」
「御意。」