第11話 川で食料調達
小さい時に親父に連れられて川に行き、親父が岩陰の川魚を手掴みするのを見たことがある。
懐かしい思い出を振り返り、あの当時教えてもらったように挑戦してみた。
・・・
・・・・・
獲れない!
前世の思い出で、感傷に浸っている俺にも、この世界は非情だ。
ヤマメは見えている。
目の前に居る。
だけど、親父のように上手く追い込んで・・・ってのが難しい。
ひたすら“探す、見つける、追い込む、逃げられる”の延々と繰り返し。
・・・
・・・・・
・・・・・・・
やっとの思いで1匹獲れた。
20cmのそこそこのサイズだ。
安堵と共に、疲労が襲ってくる。
練習無しのぶっつけ本番で、いきなり1匹獲れた!
今日のところは、1匹でいいや。
グラーシュとアルディで分けて食べて貰おう。
頭を上げて見渡すと、野営地から少し離れた上流にまで来てしまっていた。
「魚獲れたよー!ヤマメ―!」
喜びのあまりに、二人に声を掛けた。
グラーシュがこちらに気が付いて、手を振っている。
何だ?・・・魚の種類が気になるのか?
「ヤマメ―!」
・・・
ん-、何か言っているような。
こちらが風上だからか、よく聞こえない。
戻って聞くか。
もう、獲る気は失せたし、丁度いいや。
「戻るねー。」
・・・
あれ?・・・
グラーシュがこちらを指さして、何かを言っているようだ。
なんだ?
グラーシュが俺を指さすなんて・・・
・・・
「―――!」
後ろか!
左後ろに気配を感じて、振り向こうとしたが、時すでに遅し。
一瞬目の前が暗くなって、視界が戻った時には左手のヤマメが無くなっていた。
何か凄い嫌な気がする・・・。
急いで野営地に戻った。
「ルラン様、あれ?お魚・・・ヤマメは?」
「ごめん、無くした。それに、疲れた。ちょっと寝る。」
「え?・・・あ、はい。」
ははは、そうだよね。帰ってきてすぐに寝ようとする奴なんて中々いないもんね。
・・・
・・・・・
気が付くと・・・
「何度言ったらわかるのよー!!!」
いきなり先生に怒られた。
「何度も確認したよねぇ!!!」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください。まず、何が起こったのかを把握させてください。」
「ふんっ!」
先生が目の前から少し退いてくれた。
視界に入ったのは、一匹の大きなフクロウが、俺の獲ったヤマメを美味しそうに食べている姿だった。
「あーー!」
「おっほ、こりゃ珍しいな。シマフクロウじゃな。」
「じゃな・・・じゃないわよーっ!」
「ごめんなさい。すぐに出します。」
・・・ん?
ちょっと待て。俺は左手を発動していない。
なんなら、シマフクロウに左手のヤマメを取られるという脅威を認識すらできていなかった。
もしかして、先に危険を察した先生が発動させて、フクロウを連れてきちゃったのでは?
んー、営業の経験からすると、この状況って・・・
よくある“正論を返して、火に油を注ぐ”パターンじゃね。
ここは、相手の非を突かずに、自分の落ち度を認めて謝ると、あとから本人も気が付いて、結局丸く収まるってやつ。
深呼吸して・・・平常心、平常心・・・。
「申し訳ございませんでした。」
「・・・」
「警戒不十分で、自らフクロウが迫っている事を察知できなかった事が招いたことです。」
「・・・」
「今後は、周囲警戒の粒子を常に用いて、今後このような事が無いように最善を尽くします。」
・・・
「もういいわ。」
「はい!この話はおしまいじゃ!」
おじいさんがパチンと一回手を叩いた。
「で、このモフモフで可愛いシマフクロウちゃん・・・。どうするんじゃ?」
・・・
ん-、なんて言うのかな~。
おじいさん、本当は話をおしまいにする気ないでしょ?