第3話 野営のルール
満天の星空の下、焚火を囲んで、グラーシュの用意してくれた夕ご飯を食べる。
その周りで、馬たちも寛いでいる。
この雰囲気で食べる夕飯は、シンプルに美味い。
この雰囲気にのみ込まれる前に、道具の作り手として、アルディに注意事項をきちんと伝えなければならない。
何せ、猛将のアルディに武器を与える前にマチェットナイフを渡している。
試作品のマチェットナイフにすぎず、とても武器として使って欲しくない。
でも、よく切れるから、色々と使ってしまいそうで怖い。
当の本人は、夕食を食べながら弓の材料を眺めている。
作りたくてしょうがないのかな。
「アルディ、ちょっといい?」
「はい?」
「さっき渡したマチェットナイフだけどさ。」
「はい、非常によく切れました。」
アルディが自慢げにナイフを出して見せてくれる。
「……そうか。其れは良かった。」
「はい。」
「ただね、分かっていると思うけど、細い枝を掃うとか、木肌を薄くこそぎとか、マチェットナイフとして使うんだよ。」
「?」
「切れ味が良いからって、太い枝を切ったり武器として使ったらダメだからね。」
「・・・御意」
んー?あの態度、楽しくなって色々切ってきたな?
道具には、適正な使い方って言うのがあるんだけど、試して、体感で大丈夫って思われたら、もう歯止は利かないか・・・。
「マチェットは別に、アルディの武器は、明日用意するよ。ちょっと考えてることあるから、楽しみにしててね。」
「御意!」
・・・
「そういえば・・・グラーシュ殿、食事の材料ですが・・・」
珍しくアルディがグラーシュに話しかけた。
「はい。」
「今晩は肉を見かけなかった。携帯している保存食に肉はありませんか?」
「ごめんなさい。傷むといけないので、肉は携帯していません。」
「そうでしたか。」
流石、グラーシュ、考えてるー。
「それでしたら、今日中に弓を作って、明日は狩猟を致します。」
「ありがとうございます。作り甲斐があります。」
おー!
明日からは肉も食べれるのか、楽しみだ!!
・・・ん?
「アルディ君、気合が入っているところ悪いけど、ちょっといいかな?」
「はい。」
「馬と熊は狩らないでね。」
「何故ですか?」
グラーシュの事をアルディは知らないし、細部まで説明するとグラーシュの心をえぐりかねない。
「馬は今移動のために、協力してもらっていて、感謝しているから、食べたくないし、見たくもない。」
「・・・」
「それに熊肉は嫌いで、食べたくない!見たくもない!」
「ルラン様・・・」
「御意。」
「それと、食べない物を無駄に殺生しないように!」
「襲ってきた場合には?」
「アルディ、お前が熊や馬に負けるわけないだろ。拳骨して、追い返せ。」
「御意。」
「グラーシュは・・・」
「私も追い返します!」
ははは、逞しいこと・・・。
あ、そうか、見た目のせいで忘れていたけど、この子もできる子だった。
できない子は俺だけか。
楽しかったはずの夕食の最後に、自分の虚弱な体の事を思い出すなんて。
しかし、凹んではいられない。
俺も頑張らねば。
そういえば、大好きな漫画の主人公が、言ってたっけ。
“逃げ出した先に 楽園なんてありゃしねぇのさ たどり着いた先 そこにあるのは やっぱり 戦場だけだ”・・・って。
別にここまで逃げだしてきたわけじゃないけど、たどり着くのは“戦場”ってのはよくわかる。
さて、美味しい夕食も食べたし、よく寝て明日も頑張るぞー!