第2話 野営資材集めと道具
改訂2023/04/09
さて、俺も俺で仕事をしないとな。
ギッシギシの体をストレッチで伸ばした。
特に腰に来そうだから、腰を右回し、左回し、前後。
ん……?
前後……
何故だろう……前後に振り始めるとグラーシュの細い腰が妙に頭に浮かぶのは。
俺は煩悩の塊だな。
きっと、股間のハンドガンがバズーカに変わったせいだろう。
俺のせいじゃない。
煩悩を断ち切るには仕事に限る!
さぁ、気合入れて薪集めするぞー!
目標は、これから先の野営で使う薪と、アルディの弓に使う矢を賄う分の木材の回収……
太い木ばかりを伐採すればいいんだろうけど、なんか脳裏に“生態系”という三文字が過る。
こちとら伐採の知識もお作法も知らないんだよ!
けど……間引いた方が、育ちが良いはず。
俺はそう考えて辺りを見渡し、立木が混み合っているところへ向かった。
混み合っているところは決まって、細い。
まぁ、初めての伐採作業だし、丁度いいかもしれない。
心の中で湧いてくるボヤキを、受け止めながら細い立木の前に立った。
良し!
絶対にイメージ通り、うまくいく!
自分に言い聞かして、立木の根元に、吸収の意図を持って左手を差しこんだ。
真っ黒に変色した腕が、音も立てずに、みるみるうちに根元に刺さっていく……
そして、根元を失った木は垂直に落下してきた。
「わーっ!」
枝が頭に覆いかぶさって来て、つい声を上げてしまった。
首を竦めて、目を瞑り、覚悟を決めた直後……
バサ―――ッ
そして、再び森が静寂に包まれた。
恐る恐る目を開けると、辺りは枝と葉が散らかっているが、俺の周りだけぽっかり穴が開いていた。
もしかして、先生による脅威回避が発動した?
俺の体に当たった分だけキレイに回収できているという事は、左手以外でも回収ができるのか……?
それとも、左手を中心に吸収範囲を展開した……?
推測を巡らせながら、散らかった枝葉を回収して回った。
まだまだ回収し足りないから、試しながらやるか。
やっているうちに上手になるだろ……
眉間の皺を伸ばし、背筋を伸ばし、2本目に取り掛かった。
1回目で勝手が分かったのもあって、吸収の際に対象の木を丸呑みするイメージを膨らませてみた。
しかし、立木を圧縮して全体を吸収することは無く、左手の触れた部分だけが回収された。
そして……
バサ―――ッ
俺はまた枝を被った。
はぁ。
溜息をつくと、ひひひっと先生の薄笑いが聞こえたような気がした。
もしかして、先生に邪魔されてるとか……?
いかんいかん。
上手くいかないときには、人のせいにしたくなるけど、それをすると、原因追究が滞って、改善はされない。
でも……
吸収の仕方が間違えているとしたら、正解を知っているのは先生だけだよな~。
だとすると、今は下手糞でも黙々と伐採と回収に努めるのが良いのかもしれない。
答えの出ない問題に思考を巡らせて精神を擦り減らしても勿体ない!
割り切りも重要!
そう考えてからは、ひたすら作業に没頭した。
それでも吸収中に左手を動かしてみるなど、色々試行錯誤してみたが、奏功しなかった。
そして、太さ30cmくらいの立木を10本くらい吸収したところで、伐採は終了。
伐採したままでは使いにくいから、続いて、加工だ。
と言っても全てイメージすればいいだけだから、楽勝。
まずは吸収した物を自分の中で探る……
あった!!
そしたら……枝についていた葉を全て回収し、水分を取り除いて乾燥して、ストック……
次は、木材部分だ。
薪としての利用以外に、矢の軸に利用するために細さ8mmで長さ1mの丸棒材を取れるだけとって、水分を取り除く……
薪にしては細すぎるけど、まぁ、すぐ燃え点いて良いんじゃないかな。
最後に残った端材……これも、乾燥させて粉々にしてストックしておくか。
イメージはしたけど、これで出来たのだろうか。
手作業なら感触があるし、目の前で加工が繰り広げられたら、視覚的に認識できるのに……全然実感がわかない。
試しに、取り出して確認してみるか。
ゲートをイメージすると、ブンッと目の前に黒い板が浮かんだ。
これが先生の言っていたゲートか……
でも、俺がイメージしやすいようにとかって言ってたな~。
他にも方法あるかな……
そんなことを思いながら、おもむろに手を突っ込んでみた。
あれ?
全然無くね……?
失敗した……?
いや、失敗とかないだろ。
あ!
余計なことを考えていたからか!?
枯れ葉をイメージして改めて手を突っ込んだ。
何かが手に当たった様な気がして、掴んでみた。
カサッ
これはっ!!
手応えを感じたまま、取り出してみると、見事に乾燥し切って着火に持ってこいの枯れ葉が手の中にあった。
「やっば!便利すぎるっ!」
ついつい感動を大きな声で表現してしまった。
ドドドドドッ
慌てた様子でアルディが帰ってきた。
「何かありましたか?」
「いや、何でもないよ。大丈夫、大丈夫。それより、弓の材料は揃った?」
「まだです。もう少しかかります。」
「そうか。お楽しみのところを邪魔してごめんね。」
「いえ、そんなことは……」
「ん-、俺はグラーシュんところに先に戻ってるね。素材集まったら帰って来て」
「御意」
俺は、目的達成とスキルの利便性に高揚したまま戻った。
グラーシュの姿が見えた瞬間、驚きで歪んだ美人の顔がフラッシュバックした。
何も知らないグラーシュの前でほいほいと薪を取り出したら、マズいよな……
もう一度隠れて、ゲートから薪と着火用の枯れ葉を取り出して抱えた。
これで良し!
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
声を掛けながら戻ると、グラーシュは既に保存食で食事の支度を済ませていた。
「これ使ってね~、薪と枯れ葉。アレがアレだもんで、かなり細いし、形状がキレイに揃っているけど、気にしないで使って~。」
俺はそそくさと、地面に薪と枯れ葉を置いた。
「あり…がとう…ございます……」
「しっかし、流石の手際の良さだね。」
「いえいえ……」
家事のできる女性に魅かれる、料理の出来る男性に魅力を感じるってのは、異世界でも通じることかもな~……
って、感心している場合じゃない。
頼まなくても気を遣ってどんどん仕事してくれるグラーシュに、今の俺が出来ることは、特注ナイフで少しでも負担を軽減させることくらいだ。
「グラーシュ、これあげるね。」
「え?」
「気に入ってくれると嬉しいけど。」
後ろ手にして隠していたサバイバルナイフを見せた。
「――っ!」
凄い喜んでいる……のを、なんとか抑えている様子だが、抑えきれず、言葉にならない声が漏れ聞こえてきた。
「はい、どうぞ。」
「何ですか、これ!」
手渡されたナイフに驚くグラーシュ。
「ん……?サバイバルナイフだよ。」
「それは分かります。そうじゃなくて……ものすごく軽いです!というか、ほとんど重さを感じないですんですけど……」
「呪いのアイテムとか、変な魔法が掛かってるとか、そういう事を気にしてる……?」
グラーシュは、小さく頷いて、こちらの顔を覗き込んできた。
「そういうんじゃないよ……!俺特製のナイフ!!」
実は光の粒子で形を整えつつ、中空仕様になっているから、ほとんど重さが無いんだよね~。
「安心して、ちゃんと切れるから……違うな。切れすぎるくらい切れると思うから注意して。」
多分、グラーシュが今まで手にしてきた包丁やナイフとは別次元の、異常な切れ味の筈。
「ありがとうございます。大切にします。」
「使ってて調整が必要だと思ったら、遠慮なく言ってね。」
「はい。」
「サバイバルナイフだから、戦闘になっても使えると思うよ。」
「確かにこれだけ軽ければ……」
グラーシュは、ナイフをまじまじと見ているが、一向に振ろうとしない。
「ん?どうしたの?」
「でも、使い方が分かりません。」
ナイフの使い方なんて俺も分からないけど……
「ちょっと、ナイフを置いて、いつもの構えをしてみて。」
頷くと同時に、スッと構えたグラーシュは、左手前のオーソドックススタイルだった。
「俺も格闘技は詳しくないけど、とりあえず、右手で小指側から刃が出るようにナイフを逆さに持って、右手で殴るときに切るようにしたらどう?」
そういって、俺もオーソドックスに構え、腰が入ってないとか、角度が違うとか言われるのを覚悟で、右手でフックをして見せた。
「なるほど。こうですか。」
ブンッ!!
グラーシュも真似して見せてくれた。
思わず吹き出しそうになった。
キレが……まるで違う。
さっきのジェスチャーが恥ずかしくなって、顔が赤くなるのが分かった。
いや、俺の話は置いといて……
「そんなカンジでいいと思う。後は、使っているうちに、時間を見つけて色々試してみてよ。」
「はい。」
ナイフ授与式が終わったところで、タイミングよくアルディが帰ってきた。
夜の帳が徐々に降りてきた。