第75話 改名
改訂2023/04/14
少し経つとアルディが帰ってきた。
「おかえり。どこに行ってたの?」
「自分の顔を確認に……」
「で、落ち着いた?」
「はい…思ったほど変わってませんでしたので……」
ん……?思ったほど?
「アルディはどんなことを思ったのかな?」
「えっ……」
「とても興味深いので教えて貰えるかい?」
「主上があまりにも軽快に私の顔を弄られましたので……悪戯されたかと思いまして……」
「なるほど……でもさ、原形を留めないほど整形する訳ないじゃん」
「申し訳ございません。むしろ、ご高配賜り、ありがとうございます。」
うむ、苦しゅうない……って続けてしまいそうになった。
「アルディ、これからは『主上』って呼ぶのやめないか?」
「ーーっ!!」
「その呼び方、目立つと思うんだよね。これからは、俺も一介の旅人って事にして逃避行するわけだし……」
「では、どのように御呼びすれば……」
「ん-、ルランで良いよ。」
「愛称で!?」
ブンブン両手を振って断るアルディ。
いやいや、傍から見たら、このパーティはアルディがメインって思うだろ……
愛称どころか呼び捨てでも、いいってのに。
俺にはこの太い腕を払いのけて強制する力は無い……
ん-、どうしよう。
何とか説得したいんだけどな~……
ふと辺りを見渡すと、隣で口を開けてアルディの顔を凝視しているグラーシュが眼に入った。
あ!
そうだ!
「グラーシュは、俺の事、なんて呼ぶ?」
「え!?」
俺の質問で、グラーシュが我に返った。
「なんて呼んでくれる?」
「レウラント様……ですよね?」
「愛称のルランでお願いして良い?」
「分かりました。ルラン様と御呼びしますね。」
様は要らんのだけど……
仕方ない。
そのうち俺の駄目っぷりに気づいて、呼び捨てになってそうだから、今は良しとするか……
「アルディ君!グラーシュは、ルラン様らしいけど……どうする?」
「では、ルラン様で!」
そう言うと、再び顔を気にして、深くなった彫を触り始めた。
それにつられて、グラーシュもアルディの顔を凝視しながら、自分の顔を触り始める始末。
まぁ、無理もないか。
目の前で人の顔の形が変わるなんて、流石にこの世界でも、城内で家事してたら、お目に掛ること無いだろうから。
「アルディ……大丈夫だって。俺がお前のことを龐徳だって分かってるんだから、良いじゃん。」
「御意……」
アルディは返事と共に、力無く両手を下げた。
余り慰めになってなかったかな。
まぁいいや、気にしてても、しょうがない。
あとは現実と向き合って、受け入れてもらおう。
「グラーシュも安心して!グラーシュの顔は非の打ち所がないので、一切弄る必要が無いし、アルディは特別な存在だから、俺が顔を弄れるだけだから。」
「は……い……」
ん-、余計に混乱させちゃったかな。
まぁ、嘘は言ってないから、あとは本人に消化して貰う事にするか……
という訳で、次いってみよー。