第73話 旅立ち
改訂2023/04/14
階段を駆け下り、玄関に向かった。
玄関を開けると、夕日に映える長身美人が目を真ん丸にして立っていた。
「ありがとうね、準備!」
「え?」
時間の無い俺がお構い無しに始めたから、女性は驚いたまま声を漏らした。
「馬具も装着されているし、荷造りもできてる、もうね、完璧だよっ!」
「どう……いたしまして……」
「でね。ちょっと予定変更で、今から出るよ!」
女性が面食らっているのは分かっていたが、こっちも急いでいるから、俺は続けた。
「え?」
思った通りの反応が来た。
でも、止まれない!
「要は急げ!ってね。」
続けて、キッチンで夕ご飯の支度をしているヤマモリさんに声をかける。
「ヤマモリさーん、ごめーん。今から出発するよ。それと、外のリアカーを1つ貰ってくね~。」
「え……えーッ?今からですか?あ、はい。それと、何でしたっけ?」
「リアカー!!貰っていいかい?」
「あ……どうぞ、ご利用ください。」
「ありがとうございまーす。龐徳―!龐徳居るー?どこー?」
俺の声掛けに今からひょっこり龐徳が顔を出した。
「主上、ここです。」
「おぉ、居た居た。リアカーをさ、龐徳の馬にロープかなんかでうまい事やって固定して。引っ張って出発するよー、準備して~!」
「御意」
龐徳はくつろいでいた召喚馬を叩き起こし、速やかに率いて外に出ていった。
雑な指示だったけど、龐徳だって若くから働き出した苦労人だから、大丈夫でしょう。
手配が済み、安堵感が込み上げてくると、自分の態度への反省が自然とはじまった。
もうちょっと説明しないといけないよな。
俺は、状況が理解できず驚きのあまり立ちすくんでいる女性の元に戻った。
「ごめん、話の途中だったね。」
「俺の推測なんだけど、次の実家からの来客はさ、多分、過激な来訪になるんじゃないかなって思ってね。」
「過激な来訪……ですか」
「そう。前回の訪問でラゴイルの生存確認をしたら、ラゴイル本人じゃなかった……」
「つまり、見つけたのは、ラゴイルを自称する不逞の輩だったわけだ。」
「しかも、その不逞の輩は、属性を1つも持っていない稀有な存在。」
「魔法の研究者にしたら、格好の獲物だよね。研究魂に火がついちゃって何しでかすか分からないよ。」
「加えて、その被検体が、死に損ないで体力が無いとなれば、拉致監禁も容易に出来る……」
「そんな、まさか……だってその体は、間違いなくラゴイル様の体ですよ。そんなことが許される訳が無いです!」
「でもこの体が正真正銘ラゴイルの体という証拠は?」
「証拠は……ありません。」
「今から証拠を揃えたって、貴重な被検体を利用した研究に鼻息を上げていれば、もみ消されそうだよね。」
「あるいは、反ラゴイル派がラゴイル親派を唆して、取り入って、ラゴイル本人であることを隠し通すかも。」
「ここまで話せば、過激な来訪が想像できそうかな?」
「初めから、自分たちの自由に研究する被検体として拉致しようと考えていれば、正面から穏便な訪問はする必要が無いという事ですね」
「その通り!」
「そして、有難い事に、出発の準備が完璧にできている……」
俺は、改めて女性の目を見据えた。
「だから、これから出発するよ!!」
女性も目線を外さず……
「私も!……私も連れて行ってください!!」
間髪入れずに、はっきりと意思を伝えてくれた。
そう言ってくれると信じていた!!
「これからもよろしくね!」
「はい!」
俺の差し出した手を彼女が握ってくれた。
しっかり握られた手から決意と覚悟を感じた。