第60話 戦馬召喚 その4
改訂2023/04/14
へたり込んでいる白馬が、再び白い光に包まれた。
そして、次第にその光が大きくなっていく。
「主上、いったい何を……?」
異変に気が付いた龐徳がゆっくりと体を起こして俺に訊いてきた。
「この後、龐徳が乗るじゃんね。」
「でもさ、今のままでは少し馬体が小さいかなって思って。」
「龐徳に合わせて、もう少し大きく強くしてあげようかなってさ。」
「……」
龐徳は黙ったまま体を起こし、よろよろと歩いて、白馬から離れた。
そんな龐徳を尻目に、召喚は続き、光が徐々に落ち着いていく。
そして、一回り大きくなった白馬が現れた。
龐徳に殴られた痕も、投げ飛ばされて付着した土汚れも、キレイさっぱり無くなっている。
すくっと立ち上がって、タタンタタンっと軽やかに足踏みをして見せた。
サイズアップで、体力は戻ったようだ。
そして……
龐徳に向かって、ペロペロしてるーーっ。
ダメだこりゃ。この馬、基本的にふざけるのが好きなんだろうな~。
対する龐徳は、ゆっくりと立ち上がって雄叫び上げ始めた。
「おぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!」
雄叫びで空気が震える。
ビリビリと肌を刺激し、腹まで響いてくる。
次第に、龐徳の全身が白く発色を始めた。
頭には、二本の角のようなものが見える。
す、すっげぇ……
鬼……?
感動して魅入る自分に気が付いた。
まだまだ俺も少年の心が残っているんだと自覚した。
それと同時に、白馬の反応が気になった。
見れば、白馬の目と耳は龐徳を捉えている。
続けて、軽やかに蹄を鳴らすと、静かになった。
勿論、ベロは出ていない。
ゆっくりと背中を丸め、頭を下げて、龐徳に歩み寄った。
馬は降参と服従の意思を龐徳に伝えているように見えた。
龐徳もそれを確認して、大きく頷いた。
すると、発光も、頭部の角も収まり、元の姿に戻った。
名コンビから、完全な主従関係の構築にまで至ったようだ。
「実に素晴らしいっ!!この馬が龐徳の馬で、昨日の白馬は諦めてくれるよね?」
「御意……」
え……?
なんかちょっと怒ってる?
何も悪い事して無くねっ?
「……」
龐徳の返事の後の含みを持った沈黙が、俺に胸に手を当てるように促してきた。
……あっ!
お疲れのところを、追い打ちするようなことしてごめんね。
まぁ、でも、結果オーライじゃん。
龐徳の体に合った馬体の馬が、心の底から服従してくれたんだからさ。
さてと、これで一つ目が終わりだ。
出発前行っておくことは、あと二つ。
【白き理】のナマクラの強化と、【黒き理】の採集作業だ。
【白き理】つながりで、ナマクラの強化を試してみるか……
おじいさんの話が本当なら、なんでも切れるようになるはずだ。
何でもってのが俄かには信じられない。
信じられないからこそ、切るために振るうなんて思いもよらない存在をバッキバキに強化して、何でも切れる様になったら、その衝撃的な現実に、自分の不信感も完全に払拭できるはず。
今後も自分のスキルを使いこなして生きていくんだから、自分のスキルに疑いを持っている事は、邪念そのものだ。
心は迷いが無い方が強い!