第54話 正体を明かされる その4
改訂2023/04/14
「ラゴイル様は……その……一線を越えることは有りませんでした。」
「いっ……え……?」
「多分、私が“熊の子”だからでしょう。」
「一線を越えて奉仕する女性は他にいくらでもいらっしゃったので。」
「結局のところは、私は、ラゴイル様のペットだっただけで……存在している事の興味だけだったのかもしれません。」
い……一線を越えて奉仕する女性が……いくらでも……
ラゴイルは、本当にっ、ありとあらゆる面でっ、腹の立つ奴だ!!
自分の鼻息がずいぶん大きくなっている事に気が付いた。
いかんいかん。
取り乱してしまった。
でも、それは、聞くに堪えん話が続くせいだ……
そう思うと、今度は疲労感に襲われた。
聞いているこっちは、怒りやら羨ましさやらに振り回されて、絶叫マシンに連続搭乗しているようで、精神力の限界だ。
もう解放してくれ……
「ごめん、話は、それで全部かな?」
「はい……」
返事の余韻が、本当はもっと語り尽くせない程の色々な出来事があったのだろうけど、こちらの精神状態を考慮して、要約してくれたことを物語っていた。
「ん-、俺がさっき今後の提案したじゃん……」
「はい。」
「一通りの話は聞いたけど……俺…別に…提案内容は修正しないからね。」
「え……?」
「ただ、提案を追加させて。」
「出発したら、俺は名前を変える。ラゴイルなんて名前やめる。俺、ラゴイルじゃないし……侯爵家とも断絶だ。」
「え……でも城内にはラゴイル様を待っている大勢の方が……」
「俺……ラゴイルじゃないもん」
「すいません……」
「それとね、今はあなたをクマエと呼びたくない。」
「……」
「だって、名付けの経緯を知ってしまったから……」
「それも、俺の納得できない経緯を……」
「それでもクマエと呼んで欲しいと言うなら、クマエと呼ぶけど……」
「……」
「今後も俺についてきてくれるなら、出発後に自分で名乗りたい名前に変えて再出発しよう。」
「……」
「明日の出発について、今すぐ決める必要は無いよ。明日、一日、自分と向き合って、ゆっくり考えて。」
「自分なりの答えを見つけて……是非聞かせて欲しいな。」
「……」
「ちなみに、出発は明後日の朝、向かう先は……あ、いけね。地図買ってきてくれた?」
「はい。レーゼン侯爵の領地が分かる地図と、王都を中心とした地図です。そこの机の上に置いてあります。」
指の先には2枚の地図があった。
うぉ!
「全然気が付かなかった。ありがとうね。」
「どういたしまして」
笑顔で返事が返って来たが、口元がやや引きつって、複雑な思いが滲み出ていた。
そっちは自分で考えて貰うとして……
よし!
明日は、行先を決めよう!!
ここで、二人して明日の行き先を考えるのも良いけど、長くなりそうだし……
この雰囲気では集中して行き先を検討することが難しそうだし。
ということで……
「今日も一日、お疲れさま。最後の話が、ちょっと重くてハードだったから、しっかり休んでください。」
それを聞いて、ゆっくり立ち上がって退室していった。
その足取りは、重かった。
ふと窓から外を見ると、龐徳が白馬に跨って戻ってくるのが見えた。
ちゃんと、ケガもなく、馬具も壊さず、じゃれたようだ。
気のせいか、白馬はボロ雑巾のようにヘロヘロになって、ヨロヨロと歩を進めている。
一方で、龐徳は満足そうな顔をしている。
どうやら、龐徳は、あのデカい白馬を屈服させたみたいだ。
でもな……龐徳、そうじゃないんだよ……
俺にもちょっと考えがあるし、それはお前の馬にはならないんだわ。
ちゃんと龐徳が気に入る馬を召喚できるかな~。