第53話 正体を明かされる その3
改訂2023/04/14
「後に事情を知った鍛冶屋は、ラゴイル様に掛け合ったようです。」
良心の呵責に押し潰されそうになったんだろうな。
まさか、軽い気持ちで答えた名前が、人間の女性に付けられていたなんて知ったら……
俺もその立場だったら、気が気じゃないだろうなぁ……
ラゴイルは安定のクソ野郎だけど、その鍛冶屋はリカバーに回ったのなら、まだマシか。
「何度も掛け合ったみたいですが、ラゴイル様はクマエという名を気に入ってしまって、もう聞く耳を持たなかったようです。」
だろうな……容易に想像がつくわ。
「諦めきれない鍛冶屋は、不定期で呼ばれる度に、速やかに仕事を済ませて残り時間を使って、城内で“クマエ”という女性を聞いて回ったみたいです。」
なかなかガッツがあるじゃん。
いや、ガッツじゃないか。
シンプルに良心の呵責に苛まれていたのか……
「そして、私を見つけて謝りに来ました。」
「ただ……私は別に気にしていませんし……私がラゴイル様に反発しても、別の名前になるわけでもないですから……」
「それに、クマエという名前は城内でも定着していましたからね。」
それは……その考え方は……
俺は違和感で眉間に皺を寄せてしまったが、クマエは気にせず話を続けた。
「どうしても罪滅ぼしをしたいと何度も来訪してきました。」
「私がどんな仕事をしていても、お構いなしで、何度も何度も……」
「その度に断っていたのですが、『取り返しのつかないことをしてしまったから、自分にしかできない事で償いたい』の一点張りで引いてくれませんでした。」
職人気質の頑固オヤジなんだろうな~、なんだか一回会ってみたくなってきた。
「私が折れるしかないと思い、私専用の武具を作ってもらう事になりました。」
「試作を重ねて、出来上がったのが、普段から愛用しているブーツです。」
「え……あのブーツは武具なの?」
確かに厳つい鋲が無数についてて、あんなので蹴られたら粉砕骨折しそうだけど……
「はい。私は足技が得意なので、それに特化した靴が欲しいとお願いをしました。そして、攻撃、防御の両面を考え抜いた結果、あのブーツが出来上がりました。」
ん……?
「ごめん、ちょっと脱線するかもしれないけど、変な質問して良い?」
「はい。どうぞ。」
「もしかして……尻尾(?)に障らないようにってのと、自慢の足技のために、T〇ック履いてるの?」
「はい。」
前世でも同じようなことを聞いたことがある……
下着メーカーにも、格闘技用のT〇ックが欲しいって男からの問合せも有るとか無いとか……
「ストッキングではなく、ガーターベルトを着用しているのも?」
「はい。」
「護身術のためじゃあ、しょうがないね。」
「はい。」
興奮していた俺がバカみたいじゃん。
でもさ……
多分、今後も目に入る度に興奮するんだろうな~。
っていうのと、T〇ックとガーターベルトの事を聞く俺を、「変態!!」とかって蔑むことなく、真面目に質問に答えてくれたのは意外だったな。
純粋に疑問に思っていた事だったから、呼応して真面目に回答してくれたことに感謝しているけど……
普通なら……一部の上級者が興奮に震えるような罵声が返ってきそうなものだけど……
あれ……何の話してたんだっけ……?
「追加のご質問が無いようでしたら、話を戻しますが、宜しいでしょうか?」
「あ、すいません。有りませんので話の続きをお願いします。」
「はい。14歳を迎えた位から、ラゴイル様が奉仕するように要求してきました。」
へ……?
ほ……奉仕……?
しかも…14歳から…?
「その一環で、体を拭いて差し上げたり、裸で添い寝したり……」
わーっ!!
聞きたくない!
聞きたくないーっ!
ラゴイルのことだ。
きっと、あんなことや、そんなことも……
ぐぬぬぬぬーーーーっ!
ゆ……ゆるせーん!!
このジョイスティックがっ!
今俺の股にぶら下がっているジョイスティックがっ!!
クソ―ッ!!
羨ましいにもほどがあるぞーっ!
忌々しい奴めーっ!
「あの……すいません。まだ話の続きがあるのですが……」
「え……?ごめん。なんだっけ?」