第51話 正体を明かされる
改訂2023/04/14
「私は……熊に襲われてできた子なんです……」
な……、なんだってーっ!
じゃなくて。
嘘でしょ?
熊が人を襲ったら、怪我をしたり、殺されたりでしょ?
百歩譲って、熊は雑食だから、ひょっとすると、襲われて食べられることはあるかもしれないけど……
それでも、熊は人を敵対している筈だから、基本的に人間を見た熊の選択肢は、逃げるはず。
完全に不意を突かれて、人間と遭遇してしまったとなれば、生き残るために、決死の覚悟で攻撃して……立ち去るとかのはず……
「食べれるかも!!」って思って、命の危険を冒してまで人を襲って食べるなんて、あんまり考えられない。
ましては、人を見て「俺の子を産め―っ!」って、熊の発情スイッチが入るなんて信じられない……
それとも、アレか……
この世界は、異種交配が在り得るの?
有り得るどころか、世の常だと言うなら、俺はこの世界に男で転生して助かったわ。
女性の生き方を知らない俺が、そんな世界に女性で参加したら……
考えただけでゾワゾワするわ。
いかんいかん……クマエの覚悟から出たカミングアウトに、水を差すわけにはいかない。
この疑問は、次におじいさんか、先生に会ったときに、ぶつけてみよう。
で、話を戻すと、クマに襲われてできた子ってのは……
「どういうこと?」
「はい……母は、軍医を補佐する助手でした。」
「平時は、城壁内の兵士達が定期的に行っていた野外訓練に、看護スタッフとして従軍していました。」
クマエのお母さんは、軍属の看護婦さんだったって事か……
「あるとき、いつも行っている訓練場での訓練ではなく、より実践を想定した山岳訓練が行われました。」
「もちろん母はいつも通り参加したようです。」
「そして、医療用の水を汲みにキャンプを離れたところで、熊に襲われてしまったようです。」
近くで人間が軍事訓練してたら、熊は近寄らないような気もするけど……
発情していて、そういう考えなかったのか。
まぁ、知能の発達している人間も、中には、後先考えず下半身の赴くままに行動してしまうからなぁ……
「一月後、体の異変に気が付き、母は命が宿っている事を悟ったようです。」
「命に携わっていた母は、独りで悶々と葛藤しながら、私を産みました。」
「しかし、産んだ後も葛藤は続いたようです。」
「産んだ後も家族の理解は得られず、独りで葛藤する日々が続いたようです。」
「そして、産後のストレスも相まって……自殺してしまいました……」
ちょ……
この辺で一息入れませんか。
俺の「実はラゴイルじゃありませんでしたー」よりヘビーなんですけど。
俺は気が付くと俯いてクマエの話を聞いていた。
肉体関係の有無は?
聞きたかった話と違うー!
俺の中で込み上げてくる思いをクマエにぶつけようと、頭を上げた。
しかし、決意を抱き真剣な表情のクマエに圧倒されて、俺の思いは思考の奥底へ沈んでいった。
そして、クマエの話は続く。
「新生児の私は、教会に引き取られたそうです。」
「その教会に、たまたまラゴイル様の一行が通りかかり、ラゴイル様が私の存在を面白がって、強引に取り上げていったと聞いています。」
「それからは、ずっと城内での生活になりました。」
「4歳になったころから家事手伝いとして、床磨き等、単純作業で使われるようになりました。」
「他の大人たちと一緒になって、淡々と肉体労働をこなしている様子がラゴイル様の目につき、身体能力測定が行われました。」
「その結果、身体能力が成人男性を凌駕していたそうです。」
「それからは、家事以外にも、警備用に格闘術を習わされました。」
ん……?
ラゴイルは始め、自分のコレクションの1つとして引き取ったのか。
そして、ただコレクションしてても仕方ないから、働かせようとして、家事手伝いにした……そしたら5歳で成人男性を凌駕……?
それは、その……お父さんが熊さんだからなのかな……?
まぁ、それはそれとして……