第50話 正体を明かす その2
改訂2023/04/14
「準備もそろったし、ログハウスを後にするけど、クマエはこの後どうする?」
「……」
「クマエは、ラゴイルを慕っていたのであって……俺はラゴイルじゃないじゃん。だから、俺としては、ここで解放して自由にしてあげるのも選択肢の1つかなと思ってさ。」
「……」
「その場合、クマエが用意した装備と、あのデカい白馬とその馬具、それと今あるおカネは全て、餞別としてクマエにあげようと思う。」
「……」
「ただ、俺の勝手な希望としては、これからも俺に付いてきて欲しい。」
「……」
「もちろん、付いてきてくれた場合も、クマエは、好きなタイミングで離脱してもらって構わない。その場合もその時点で装備している者やおカネは餞別として引き渡すよ。」
「……」
「そして、最後にもう一つ、俺はあくまでクマエの自由意志を尊重するよ。自由に考えてクマエの良心に従って判断して。俺はその判断を支持し、応援します。」
「……」
クマエは俯き、黙っている。
くっ……この沈黙が、本当に苦手よ……
耐えきれずに、ついつい色々話したくなってしまう。
“雄弁は銀沈黙は金”って言葉、こういう時にマジで痛感するわ。
我慢我慢。
今、クマエは思考を巡らせている最中の筈だから、それも尊重せねば……
「2つ、良いですか?」
静寂の幕を開けて、クマエが話を切り出した。
回答が返ってくることを意図していたが……
「どーぞっ!!」
俺は、沈黙からの解放で湧き上がる高揚感から、食い気味に質問を歓迎した。
「では、お言葉に甘えて……一つ目は、龐徳さんの馬が足りません……どうなさいますか?」
あ……そうだ。
完全に頭に無かった。
「買い出しに行っている間に増員したもんね……明日なんとかしまーす。」
「え……?そんなに簡単に何とかなるんですか?」
「ははは、アレがアレなんでね。何とかなるかなって。で……2つ目は?」
クマエは、俺の回答に一瞬目を見開き驚いた様子だったが、大きく息を吸って、仕切り直した。
「2つ目は、私とラゴイル様の関係です。」
クマエとラゴイルの関係!?
予想外の話の展開に、落ち着きを取り戻していた拍動が再び激しさを取り戻した。
何この展開……
ってか、日常的に、全裸でラゴイルのベッドに入っちゃうクマエだもんね……
興奮と共に、心臓が飛び出しそうだ。
に…肉体関係とか…
そういった御話がはじまるのでしょうか……?
むむむーーーっ!!
でも、ラゴイルと、あんなことやこんなことをしていたなんて聞きたくもない。
俺の股間で大きく脈打ったような気がした。
ちょ……これを使っていたとか……?
考えたくない―っ!
でも、それ以外、考えられないーっ!
ホントの事なんて聞きたくないーっ!
でも、興味が抑えられないーっ!
ドキドキするーっ!!
……
ん……?
でも、聞いたところで、過去の事。
どうにもならんのか……
ただ、聞いて受け容れることしかできんのか……
ジレンマが俺の精神のリミットに触れた瞬間、運よく安全装置が稼働し、急に空しくなってきた。
「クマエ……俺は別に聞かなくても良いよ。」
「そうじゃないんですっ!!」
冷めていく俺を、気合で、もう一度焚きつけるように、力強い一言が飛んできた。
クマエはいつになく固い表情で、目には決意が宿っているように見えた。
はぁ……もう聞くしかない感じじゃん。
「分かったから。ちゃんと聞くから。ちょっと、落ち着こうか。」