第49話 正体を明かす
改訂2023/04/14
コンコンコンッ
俺は自室の隣のクマエの部屋をノックした。
「はーい」
「ラゴイルだけどー、ちょっと話できるかな。」
クマエの返事に、続いてお願いをすると、クマエが顔を出した。
「はい」
「そしたら、用意が出来たら、俺の部屋に来てくれるかな。」
「分かりました。少々お待ちください。」
俺は自室に戻り、ベッドに腰かけた。
これからカミングアウトか……
そう思うと、徐々に拍動が大きり、静かな自室全体に脈拍音が響いているように感じた。
こういう時の待ち時間は、無駄に長く感じてしまう。
早く来てくれ~!
早く済ませて解放されたいーっ!
悶々としながら永遠を感じていると、ドアがノックされた。
クマエがやって来た!
ベッドから飛び出し、ドアを開けた。
「お待たせしました。」
「忙しい所ごめんね。」
「いえいえ、大丈夫です。私のことよりも…どうなさいました…?」
「まぁ、入って入って」
中へ誘うと、クマエはすんなり入ってきた。
何かのカミングアウトが待っているなんて頭の中に微塵も無いのだろう。
こっちの頭の中はそれで一杯で、どうかなりそうなのに……
丸テーブルを挟んで、椅子に腰かけた。
「クマエのおかげで、出発の準備は整った。ありがとう。」
沈黙は耐えられないから、俺は着席早々に口を開いた。
「いえ、ラゴイル様の新しい門出ですから!当然のことをしたまでです。」
クマエは胸を張って誇らしげに即答してくれた。
「そのことなんだけど。俺、回りくどい話、好きじゃないからはっきり言うね。」
「はい……?」
「えーっと……」
チラッとクマエの様子を見ると、耳を傾けて興味深そうに首を傾けている。
言うしかない!
相手が聞く気になっているのは、話をする絶好のチャンスだ!!
「俺さ……ラゴイルじゃないのよ……」
「はい。」
クマエの予想外の返事に、俺の時が一瞬止まったように感じた。
俺の頭の中で、再び時が動き出した。
今、クマエ、はいって言ったよな……
しかも、何の疑いも感じない澄み切った通る声で……
「ん?」
俺は、混乱する思考のまま、話を再開させるために必死にひねり出したのは、一音だけだった。
「え……?」
しかし、クマエから返って来たのもまた、混乱する思考を伺わせる一音だった。
「えーっと……もう一度言うね。俺、ラゴイルじゃないんだわ。」
「はい。」
「ん……?知ってたってことは無いよね……?」
「今言われるまで知りませんでした。ですが、ラゴイル様じゃないかもしれないとは思ってました。」
「なんで?」
「ラゴイル様は、私に「おはようございます」なんて言わないですから……」
「ましてや、他人に『ごめんなさい』なんて、口が滑っても言いません……」
ちょ……ラゴイル徹底してるなぁ。
「記憶喪失でも?」
「記憶の有り無しではなく、ラゴイル様は、根本的に、そもそも、周りに気を使うタイプではないので……」
「多分、気という者は他人が自分に使うものだと思われていたんだと……」
ラゴイル様は、生まれつきの傲慢体質でしたか。
「でもさ、俺のこと、ラゴイル様って、何度も言ってたじゃん?」
「それは、その名前しか知りませんから。」
「ラゴイル様ではなくなったと仰るなら、名前を教えて貰わないとお呼びできませんし……」
「息を引き取った後もラゴイル様の手を取っていた私としては、ラゴイル様の容姿のままのあなたは、ラゴイル様としか呼べませんので……」
あ……そういうことか。
確かに…言われてみればその通りだ…
俺がクマエの立場でも、粗相が無いように、当たり障りの無いように……って思えば、ラゴイル様って呼ぶかもしれないな……
という事は、俺がベッドで目を覚まして声を掛けたあの瞬間……怪訝そうな顔をしていた時点で、既に怪しんでいたというか、別人か、別人のように生まれ変わったって考えていたのか……
そして、その後、普通に接してくれていたのは、割り切っていたということか。
なんだ……
記憶喪失って事にして頑張っていたのは、骨折り損のくたびれ儲けだったんかい。
クマエの予想外の反応と、その訳を聞いて、本題を見失いそうになった。
「分かった。その点は、俺が悪かった。ごめんなさい。」
「はい……」
「でね、ここで俺が話しておきたいことは、もう1つあるのよ。」
「はい……」