第48話 騎馬の正体 その2
改訂2023/04/14
「で、こんなところまで、どうしたの?」
「はい。買い物を済ませて戻る道中、祠の方が真っ黒い球体に覆われているのが見えまして、急いでログハウスに戻りました。」
「ログハウスに着いて荷物を降ろし、ヤマモリさんに、ラゴイル様は何処かと訊いたら祠に向かったと聞きまして、駆けてきました。」
「そういうことか……心配かけちゃってごめんね。俺はこの通り大丈夫だよ。」
両手を広げて、リアルに胸襟を開いて見せたが、クマエを安心させることはできなかった。
むしろ、クマエの怪訝そうな顔は、一層曇ったように見えた。
「それと…そちらの方は…?」
「あ……こちら、龐徳です。さっき、従者に加わりました。」
「え?……は?」
「龐徳、こちらクマエです。仲良くしてあげてね。」
「御…意…」
俺の背後に立つ龐徳からの返事は、どこか浮ついていた。
振り返ると、龐徳は一点を見つめている。
視線の先を追ってみると、デカい白馬……
あ~、そりゃそうか。
「主上…この馬は…?」
「ん?クマエの馬だよ」
「え…?私の馬ではありません。ラゴイル様の馬ですよ。」
「それはない……この馬は間違いなくクマエを慕ってる。」
「慕っているとかじゃなくて、ラゴイル様の馬です。」
「あ……そう。それなら、今からクマエの馬だ。で、龐徳は何か気になった事とかあった?」
「主上、この馬を頂けないでしょうか。」
まぁ、そうだよな~。
「クマエの馬だから俺から龐徳にあげることは出来んけど……たまに貸して貰えばいいんじゃない?」
「クマエ殿、ちょっと借りても宜しいか?」
クマエは、龐徳の気迫に押され、静かに頷いた。
すると、龐徳はおもむろに白馬に近づいた。
驚いた白馬は、ブヒィーンと鳴き声と同時に前足を高く上げて棹立ちし、そのまま龐徳に乗りかかった。
驚くべきことに、受け止めた龐徳の体は全く動じない。
「ふっ……、上等だぁーっ!!」
龐徳の一声で、巨馬と大男のじゃれ合いが始まった。
信じられない光景だ。
直感的に、このじゃれ合いは長くなりそうな気がした。
付き合いきれないな。
龐徳は、馬がクマエの物で、自分も乗ることを分かっているから、傷つけないように手加減するだろうし。
馬も、クマエの前では張り切るだろうが、居なければ、程よく手を抜くだろう。
特に、動物は怪我が命取りって分かっているから、むやみに全力で戦ったりしないはずだし。
という事は……放っておいて、クマエと二人で先に帰った方が良さそうだ。
「龐徳、悪いけど先にログハウスに帰るわ。場所はなんとなく分かるでしょ?怪我の無いように、馬具も壊さないように、遊べよ~。」
「御意」
「という訳だ。クマエ、帰るぞ~。」
「はい!」
ログハウスに着くなり、購入品を確認した。
俺の装備は、フード付きのローブ、兜、胸当て以外に、ガントレット、サーベル、帯刀用のベルトと、一式揃っていた。
それだけじゃなく、馬具を一式備えた馬まで……
あれ?
やっぱり俺の装備を買ったらおカネが不足してクマエの装備は不足したのかな……?
「おカネ……足りた?」
「はい。まだこの通り余ってます。」
そういうと、クマエは残っているおカネを見せてくれた。
袋の中を覗き込むと、まだまだ随分と残っているような気がした。
「減ったよね?」
「そう…ですね…使いましたから減ってはいます。」
ん-、あれだけ買って、買い出しに行ったクマエ本人が減った実感を持ってない……
もしかすると、俺は…大金を所持してるのか…?
これは、落ち着いたところでこの世界の金銭感覚を身に付ける必要があるな。
まぁ、それはともかく、逃避行の準備は万端、整ったわけだ。
いや……
まだやり残したことがある……
クマエに本当のことを伝えなければ。
俺はラゴイルじゃない……と。
ラゴイルは死んだ……と。
気が重いなぁ。
そして、願わくば、一緒に旅をして欲しい。