第47話 騎馬の正体
改訂2023/04/14
近付いてきた騎馬は、クマエだった。
「ラゴイル様、ただいま戻りました!」
「おー、買い出しお疲れー!」
クマエは微笑みを返し、勢いよく飛び降りた。
―――っ!!
見えた!
いやね……分かっているんですよ。
本来であれば、帰着早々挨拶と共にスカートの中身を見せてくるのは、叱責すべきことなのかもしれない……
特に、これからも一緒に逃避行に付き合ってもらいたいならば、なおの事ね。
でもね……
俺は聞いたことも無いスキルのテストで度胸まで試されて、思考力、精神力、体力も限界を超えて居る。
理性というタガが外れ、剥き出しになった本能は、再会したクマエに歓迎を受けたと認識したようだ。
俺は、喜びこそ感じたが、厳詰の言葉も、訓戒の言葉も、叱咤の言葉も思い浮かばなかった。
改めて、クマエを見ると、新しいフード付きのローブ、兜、胸当てを装備している。
無事に買い物は済ませれたようだ。
しかし、相変わらず、下半身は露出度とブーツのゴツさが際立っている。
それに、武器は見当たらない。
頭と胸部を防具で守って、手足は露出……
おカネが足りなかったから、大切なところだけでも装備しました……とか?
「クマエ、本当に自分の装備を最優先したぁ?」
「はい。この兜と胸当てで十分です。」
「そうか。」
何が十分なのか……全然わからない。
どう考えても、何の装備もしていない両腕と、ブーツで隠れていない部分の下半身は、無防備にしか見えない。
龐徳の枯れ枝の一撃でさえ、生身で受けたら……
考えるだけで、全身に鳥肌が立ち、一瞬ブルッと身震いしてしまった。
俺から疑いの目を受けても、クマエの目は真っすぐと俺を見て、合わせた目を逸らさない。
クマエの装備については、ひとまず良しとするか。
続いて白馬に目を向けた。
馬具が一式揃ったことで、力強さは一層強まり、荘厳さも相まって、見違えた。
「うーーーん、迫力が違うなぁ。」
俺は思わず唸ってしまった。
フンッ
俺を嘲笑うような白馬の鼻息が聞こえた。
はいはい。あんたは凄いよ!
正直に言うと、この馬は、普通の馬よりもデカいから、規格が合わず、馬具を揃えて手に入れることなんてできないだろうと思っていた。
そして、それでもいいとも思っていた。
何せこの馬はクマエに首ったけだ。
クマエは、これから先もずーっと、馬具無しに乗りこなせるだろうと。
ただ、一日二日乗る訳じゃなくこれからずっと乗るならば馬具があった方が良いはず。
馬具を一式そろえることができたのは重畳だ。
「馬具が揃って良かったね。」
「はい!こんなに大きな馬用の物は、売れ残っていたので!」
「ははは、そうだよね。デカすぎて、売れ筋のサイズじゃなさそうだもんね。店も店だ。売れる見込みの無いほどデカい馬具を仕入れるなんて、何を考えてるんだろう。」
「私も気になりまして、店の主人に訊いてみたところ、お客さんの目を引くための、看板代わりに仕入れたみたいですよ。」
「そういうことか。」
「新作が出たから、この馬具一式は、客寄せの役を全うしたと。」
「なるほどね~」
「そして、売り出しても売れるサイズでは無いから、早く売り切りたいと思った店主は、大幅に値引してましたので、かなりお買い得でした!!」
「あははーっ。それはいい買い物したね~」
一瞬、白馬に睨まれたような気がした。
いやいや、馬鹿にしてないし、悪口も言ってないよ。