第29話 突きつけられるリアル
「ルラン……」
マコトが横で囁いてきた。
「ルランってばぁ!もういいでしょ!!」
「いや……」
「いや……じゃない!!もう七回もやり直したんだよ!もう十分でしょ!!」
そうだ、もう七回も挑戦してダメ……
でも七転び八起きって言うし……今苦しいのはまさに七転八倒な訳で……もう一回お参りすればあるいは……
次こそはと期待する俺の脳裏に、鑑定直後に心苦しそうな表情で黙って首を振るグラーシュの姿が過った。
「そう……だね。マコト、ありがとう……巫女さんもお付き合いくださりありがとうございました。」
「いえいえ、気が済むまでお参りできたみたいで良かったです。それではご退出ください。」
「はい……」
管理人に促されるまま本殿を後にした。
「全くぅ、神様に念押しなんて聞いた事無いよ。しかも合計で七回もお参りするなんて……信じらんない。」
「ルランはそのくらい風属性の加護が欲しかったって事でしょ?」
「イチオ……分かってくれるか?」
「気持ちは分かってあげられるよ。でも、その行動はマコトと一緒で分かってあげられないよ。マジでどうかと思うなぁ。」
せっかく、魔法のある世界に転生したんだぞ、そりゃ力も入るさ。
クッソ―!
残っているのは、火属性と土属性……
そうだ!まだ半分残ってる!!
それに、まだお目に掛っていない光属性と闇属性もあるじゃないか。
まだだッ!まだ終わらんよ!!
という訳で一旦俺のことは置いといて……
「で、グラーシュはどう?手鏡で確認してみた?」
「あ……確認します。」
グラーシュは慌てて手鏡を出した。
ははは、俺に付き合わされてて自分の事を忘れてたか。
「どう?」
「はい!風属性の加護も付きました!!」
「よぉぉぉしっ!!!」
思わず両手を突き上げてガッツポーズを取ると、不思議そうにマコトが俺の顔を覗き込んできた。
「ルラン?」
「実は、ルーロック山訪問の1番の目的は、グラーシュの風の加護取得でしたーっ!!」
「は……?大丈夫?反動で壊れちゃった?」
「いや……ごめん、大丈夫!気にしないで。」
ついつい一人で興奮して大声を上げてしまったことを反省した。
「ルランのその興奮は分からないけど、風属性の加護と水属性の加護を持っているのはエルフから見ても羨ましいかも。」
「そうだね。僕らはどちらかだもんね。マイール山のエルフは水属性の加護を、ルーロック山のエルフは風属性の加護を持って、それでも十分だもんね。それに、マイールのエルフとルーロックのエルフはお互いに助け合うものだから、『助けたから加護の為にお参りに付き合って』っていうの無いもんね。戦時下はかなりの数の『風水属性加護持ちエルフ』が居たって話だけど、多分直前に交流して加護を与え合ったんだろうし……今のご時世だと余程の物好きくらいしか両方の加護を持ったエルフなんて居ないかも。」
イチオの話は、何となく分かった。
水属性の加護を受けたグラーシュの青魔法は、素人の俺が見ても別格と分かるレベルだからな。
「ん……?戦時下と言えば……」
イチオが口をへの字に曲げながら口籠った。




