第46話 度胸試し その2
改訂2023/04/14
「主上、準備万端です。」
ははは、そりゃあ良かった。
こっちの心の準備は、もう少しでボロボロと崩れ落ちてしまいそうだったよ。
やらなきゃ、分からないッ!
やらなきゃ、終わらないッ!
意を決して俺が左手を上げた瞬間、龐徳は躊躇無く打ち込んできた。
殺気のようなものを感じて、俺の体が固まってしまい、またも動けなかった。
しかし、今度こそは見逃さない!!
振り下ろしまでの刹那、左手に枝が当たる瞬間、またも左手が黒くなった。
しかし、今度は左手を含めた周辺の空間も黒くなった。
そして、龐徳は木刀を振り抜いた……
「主上!」
龐徳の呼びかけに、自分の拍動が応じ、我に返った俺は龐徳の持つ枝に視線を落とした。
枝の一部は、無くなっている……
黒い空間に接触した部分は、何処に行った……?
「龐徳……打ち込み時の感触は?枝から伝わって来た接触時の抵抗は?」
「全くありませんでした。」
「無い……?ホントに?」
「はい」
触れた箇所から消滅しているなら、龐徳は何らかの触感を得るはず。
龐徳ほどの手練れが感触を誤認する事なんてないだろう。
まして、今は龐徳も不信感と探求心を持って、枝に神経を集中していたはずだ。
それがないとすると……
触れてない……
ということは……
左手を中心に脅威の範囲で黒い空間が生じ、脅威をそのまま飲み込んでいるとか……?
理解が追い付いていないが、【黒き理】のテストに取り組んだことには違いないし、きちんとやり切れた筈だ。
理解が出来ない部分は先生に解説をお願いするとして、まずは体験したことをそのまま伝えよう。
っていうのと、先生の言う通り、これは防御に使えそうだが、絶対にカムフラージュの必要があるな。
だって、忽然と消えてしまうなんて、第三者が見たら不審極まりないからな。
しかし、このカムフラージュは……難易度が高そうだ。
魔法でカムフラージュするしかないんじゃないかな。
そんな都合のいい魔法があるのか知らんけど。
そんな俺の悩む様子を気にもせず、龐徳はただただ俺に感服している。
「主上、流石です……私の投石も打ち込みも微動だにせず、対処なさった。」
「はは、ははは、すくんで動けなかっただけだよ。」
「御冗談を」
いや、冗談じゃないのは、お前の投石と打ち込みだ。
どう考えてもテストの域を逸脱し切っていたぞ。
白線ギリギリとか、白線の上とかじゃなくて、もう丸ごと出てた感じだわ。
龐徳の謎のヨイショはさておき、黒き理☆1の為に、残すは“不意打ち”の確認だ。
「もう一つ試したいことがるんだけどいいかい?」
「何なりと。」
「俺に不意打ちをして欲しいんだよね。例えば、俺は目を瞑っているから、背後に回って、龐徳の好きなタイミングで打ち込みをしてくれるかい?」
「主上……それはお断りいたします。」
龐徳の目には、これでもかと言わんばかりの力が入っていた。
「ちょ……大丈夫だから」
「お断り致します。」
これは、断固拒否か。
命令が使命と矛盾しているから、従えないんだろうなぁ……
ちょっと待てっ!あの殺気を満ちた投石と打ち込みは、何故できた?
不意打ちじゃないから、きっと大丈夫!って思ったのか?
この虚弱な体に向けてやって良い限度を超えていただろ!
それでいて、今更になって忠節の武将気質が出て来て、主の背を打つことなんて、できないなんて……
まぁ、どうであれ、試せないのだから仕方ないか。
こればっかりは、先生に掛け合ってみるか。
こうして、【黒き理】のテストという名の一連の度胸試しが終わった。
恐怖体験で、未だにドキドキが収まらないし、何度も抜けかけた腰はバカになっていて、ログハウスまで歩けそうにない。
地面に座り込んで一休みしていると、こちらに騎馬が近づいてくるのが見えた。