第9話 最後の遺体の引渡し
通された先は、応接室だった。
装飾品に囲まれながら遺体を広げろってか。
まぁ、外傷も無いし、完全冷凍しているか、部屋を汚すことは無いし、嫌なにおいを付けることも無いだろうけど……
「早速宜しいですか?」
「少々お待ちください。」
「はい……」
何を待っているのかも聞きにくい空気が緊張を強めた。
しばらくすると、4名のエルフが部屋に入ってきた。
続いて入って来たバトラーによってソファやテーブルが運び出され、中央に厚手のシーツのようなものが敷かれた。
「それでは、お見せいただけますか?」
「はい……」
俺は促されるままショウゾウとジロウの遺体を出した。
「ま……間違いありません。ショウゾウ……ジロウで……す……」
泣き崩れる者に、胸を抑えて嘆息する者、悲嘆に暮れる者……
深い悲しみが部屋を充たした。
ふー……
これですべて終わった。
中々タフな仕事だったな。
いや……
「まだ仕事は残っているので、私はこの辺で失礼します。」
「いや、ちょっと待ってください!」
え?いつもはここで返して貰えるのに……
流石、豪邸の家主だけのことはあって、腹が座っているな。
「詳しい話を聞かせて貰えませんか?」
「恐縮ながら申し上げますが、現在調査中でして、私も良くわからないんですよ。」
「でも、山中で見つけたダークエルフの遺体を、家族の下に帰せるくらいには分かっているんですよね?」
ヤバッ、ド直球で痛いところを突いてくるなぁ。
涙の滲む赤い目には力が籠りゴリッゴリに追及する雰囲気が俺を圧迫した。
ショウゾウとジロウをやったのは、俺じゃないからね。
「そうですね。私が見つけた時にまだ息の残っていたダークエルフに名前を聞けたのが幸いでした。」
「この遺体には、致命傷になるような外傷が見当たらないですが・・・。」
「ですね、食べる物に困って、間違えて毒のある物でも口にしたんじゃないですか?周辺には食べ物が散乱していましたから。」
「そんな訳は無い!」
「え?何故です?」
「あ、いや……その……」
「ダークエルフは食料に困っていないはず……とか?」
眼を逸らして顔を合せようとしてくれない。
これはチャンスだ!
逆に聞き返して居たら形勢逆転されてしまうかもしれない……
「いやー、私も色々分からないことだらけで、困ってるんですよ。ご協力いただけると助かるんですが……」
「私たちは何も……」
「そうですか。それでは、調査がありますので、私はこの辺で。」
俺は足早に退出した。
今にもショウゾウ達の家族やバトラーが飛び出して来るのではと動機が頭の先まで響いていた。




