第3話 埋葬地決定
「人生を掛けた研究テーマと掲げて国、貴族、ギルド、一般人から支援を受けて邁進するヤツまで居る『ビジネス化された賢者の石探し』が、この国に限らず世界中に存在するのよ。」
おいおい、どんだけ幻想に踊らされている被害者がいるんだよ……
「大体さ、マナの結晶の“賢者の石”なんてある訳ないじゃない!魔法学校でも見た事も聞いた事も無いってのに……」
「そうなんだ……なんだか残念だな……」
「いい加減にしてッ!!もしかしてルランもそっち側って訳?」
「ちょっ!ちょっと待って!!俺が残念に思ったのは、魔法学校にも無いってことだよ。ダークエルフとは別。賢者の石の存在するという事が嘘ってのが残念って事。どこかに行けばあるなら見てみたかったな~ってさ。」
「っていうか有ったとしたら無いよ。」
「なんだその禅問答は。どういう意味?」
「はぁ……そんなものがあれば、戦争の道具にされているか、別の用途で既に使われて無くなっているでしょうよ。」
「それもそうか……」
「ルランって、察しが良いのか、マヌケなのか……なんだかどっと疲れちゃったな。」
「ごめんごめん」
「で、話を戻すけど、ルラン、ランコをどうするの?」
「ん-、ランコは生きている時になんか言ってた?」
「特に何も……」
「そっか。ダークエルフになると、長生きできない事が多いって聞いたから、ダークエルフになった本人は意外とそういうことを事前に考えているもんだと思てたけど……」
「そうだね。ランコは身寄りが無かったから、孤独に慣れている様子だった……だから、孤独死するイメージとか持ってなかったのかも。死って言うのはそういうものだって割り切っていたかも。」
「なるほどね。」
「そしたらさ、ルーロック山の祠の近くにしようかな?」
「えー、ダークエルフをそんな神聖なところに?」
「ダメ?」
「いや、ダメって決まりは無いけど……でも、祠は神聖な場所で、ダークエルフは闇落ちした存在で……」
「でもダークエルフもエルフでしょ?」
「うん……」
「それに、今回の闇落ちは、みんなルーロック山を大切にする思いが強かった結果な訳じゃない?」
「それは……そうだけど。」
「私はルラン様の案に賛成です!」
グラーシュのスッと整った鼻が膨らみ、意志の強さが滲み出ていた。
「ありがとう、グラーシュ。そういう訳で、今日は残りの2人の集落に近いところまで移動して野営しようか。」
「ちょっと待って!どういう訳よ!」
「民主主義とか多数決とか、色々ある訳よ」
「あんたそんなこと言い出すの?」
「え……シーデリアにも民主主義とか多数決とかあるの?」
「あったり前でしょ!選挙有るんだから!」
「あ……そうか、そうだよね。で、次の集落はどっちにする?ショウゾウの実家のあるところ?それともジロウ?」
「はぁ……まぁいっか。えーっと、残りはショウゾウとジロウか。二人は兄弟だから、次の集落がラストだね」
「きょ、兄弟なの!?」
「そう、何か問題でもあるの?」
「兄弟かぁ。いや、兄弟揃って遺体を見せられた親って耐えられるんだろうか……」
「うーん……かなりきついかな。まぁ、でもエルフは長寿で、兄弟も人間に比べて多い方だから、子供全員失ったー!とかって事にはならないだろうけど……」
そうなんだ……
「でも、一人の子供を産んで育てる苦労は同じでしょ、エルフの夫婦も一生懸命育ててるし、人間の夫婦も一生懸命育てているって意味で。」
「そうだね。それに……」
「何?」
「闇落ちした自分の息子たちの死なら、向き合いやすいかも。『闇落ちしたんだから仕方ない』ってさ……ダークエルフになった瞬間、数奇な運命を辿ることになるってことは、エルフなら知っている事だし。」
「そういうもんなんか……」
「とりあえず、出発しましょっ!」
グラーシュの一声に気持ちを切り替えて馬を走らせた。




