第2話 埋葬しなかった訳
村長を家まで送り、集落外周に偵察用の光の粒子を散布すると、グラーシュとマコトがこそこそと秘密の特訓している様子が見えた。
熱心だこと。
グラーシュが積極的に直向きに傾聴と実践を繰り返すから、マコトも楽しくなってどんどん教えちゃうんだろうな。
良き師弟関係というより、グラーシュが一枚上手って事かな。
俺の意識をラムーに飛ばすと一陣の艶やかな黒い風となり、あっという間に合流できた。
「お待たせ~」
「早かったね。」
「そう?」
「だって、埋葬まで済ませてこの時間でしょ?」
「してないよ、埋葬」
「え……?しないの?じゃあランコの遺体はどうしたのよ?」
「ん-、何か嫌な予感がしたんだよね~」
「嫌なって……どんな?」
「ランコは身寄りが無かったんでしょ?埋葬場所を暴かれるんじゃないかなって……」
「あ……そう言う事ね。」
「他の遺体は遺族に帰しているからさ、もう任せるしかないじゃんね。ちゃんと暴かれないように埋葬すると思うんだ。」
「ルラン、察しが良いんだね。ダークエルフは、他のエルフに比べてマナが多いとかの特徴があるから、死体でも安らかに眠らせて貰えないんだよね。」
「お墓を暴かれて研究の対象にされる可能性がある?」
「そうそう。ダークエルフは、レアな存在だからね。献体のニーズや素材として見る奴らも多いよ。」
「ちょっと待て、献体は自発的な話だから、まだわからんでもないけど、“素材”ってどういう事?」
「はぁ?ルラン、マジで言ってんの?」
「何がだよ。」
「あんたと話してるとホントに頭がおかしくなってきそう。魔法の事をなんも知らないのね。」
「すいませんねー。なんも知りませんで、申し訳ないでーす。」
「ダークエルフは保有するマナの量が異様に多いのは分かるでしょ?」
「うん。」
マナを感じることができないから、何となくだけど。
「それは、闇落ちしたときに体の中にマナの結晶……俗にいう“賢者の石”が体内に生成されているからなんじゃないかって噂があるのよ。」
「そうなんだ……でも、ダークエルフが生まれる闇落ちは、エルフが地上に存在し始めたときから、ずーっと起こり得る事象でしょ。つまり、ダークエルフの遺体と接するチャンスは幾度と無くあったはず……それなのに、いまだに解明されていないの?」
「解明されていないというか……そんなものはダークエルフの体内に生成されないもん。少なくとも私の中にはそんな物無い。ってのと、そういう噂はダークエルフになったものは最初に確認するくらい有名な話だから、みんな確認したよ。」
「で?」
「無かったよ。誰の体の中にも」
「自覚してないだけなんじゃなくて?」
「あのねぇ、賢者の石ってマナの塊なわけよ。マナを自由自在に操るエルフ様が、自分の体の中を見落とす訳ないでしょ!温室育ちのボンボンが砂漠な真ん中で独り米粒を探すんじゃあるまいし……」
「ちょ…マコト…落ち着け!もしかして、有りもしない探し物を延々と探し続けてる研究者が居るってこと?」
「そう!探し方が悪かっただとか、死んですぐに開腹しなかったから崩れただけだとか……訳の分からない理由を付けて、『絶対にあるはずだ』って躍起になって探しているおめでたいバカな奴等が、未だに居るのよ。」
「シンプルに迷惑な話だな。」
「しかも、行きつくところまで行き着いちゃっててね。」
「え?」




