第39話 メンタル回復の秘策
「大丈夫ですか?」
玄関を出ると、グラーシュが駆け寄ってきて声をかけてくれた。
「ありがとうね。大丈夫。まだ行けるよ。マコト、次は?」
「ちょっと遠いかな。ってか距離もそうだけどルランのその様子だと、今日は次でラストかな~」
「お気遣いありがとう。ともあれ、次の集落への案内宜しく!」
最強って噂のスキルホルダーでも、メンタルって擦り減るもんだね。
俺のスキルが及ぶ話じゃないから仕方ないか。
マキコを引き渡した直後は魔法の訓練をする気にもなったし、毒についても興味を持って聞けたけど……
次のランコの集落までの道中、俺は無気力そのものだった。
こちらに気にしつつも、グラーシュは真面目にファイアの熟練度向上に勤しんでいた。
そう。
それでいい。
俺に同調してくれるのもありがたいけど、せっかくの時間を無駄にしない姿勢は非常に共感できる。
俺がグラーシュの立場でもそうしていたと思う。
俺も到着までの時間を無駄にしないようにせねば!
メンタルの回復で今できることは……仮眠かな
っとその前に、念のための確認だ。
「グラーシュ?」
「はい」
「さっきダークエルフから飛んできた火の球……あれがファイアボールなのかな?覚えてるよね?」
「はい。」
「初めは赤かった火がどう変化したんだっけ?」
「色が変わりました。赤から……オレンジ、黄色、白って。」
「そうだよね。ということは、練習の方向性は?」
「大丈夫です!」
だよね。
「頑張れ!」
グラーシュの意気込みが空回りしていないことを確認できたことで肩の力が少し抜けたのが分かった。
「ごめん、俺ちょっと寝るわ。集落に着いたら教えて。」
「はい。」
ラムーの鞍をリクライニングシートに成形し直して、目を閉じた。
なんかマコトがこちらに向けて話しかけていたような気がしたけど、今すぐしなければならないような大切な話なら叩き起こしてくれるだろう……
「……よ……ラン!」
「え?」
マコトの声が聞こえたような気がして目を開けた。
「ランコの集落ッ、見えてきたよッ!」
「あ、ありがとう……って、え?もう着いたの?」
「着いたよ。人の話も聞かないで勝手に寝落ちして……何が『ちょっと寝るわ』よ。馬鹿みたいに爆睡してさ、そんだけ寝れば頭ん中はスッキリしたでしょ?」
「ははは、ごめん。何だっけ?」
「もういいよッ!!」
「また話したくなったら言ってね。」
「はいはい!」
ぷりぷり怒るマコトをいなしつつ、ラムーの鞍を戻して、集落に入った。
マコトに案内されるままランコの家に着いたが、人気が全くない。
「マコト……ここ?」
「うん。ランコ一人暮らしだったから。闇落ちして出てからは空き家なんじゃないかな。」
「困ったな。マコト、引取りしてもらえる家族とかって分かる?」
「分からない。」
「そうか……とりあえず、村長さんとこ行ってみるか。」




