第38話 二体目の引渡し
「侯爵に身元保証されている人の所作とは思えないわね。侯爵は誰にでも身元保証するようになったの?」
くぅー、手厳しい。
侯爵の身元保証が強烈過ぎて、こんな紙切れが俺にマナーや人格を要求してくるなんて思いも寄らなんだ。
便利に使える道具として身元保証を使っているつもりで、実は俺がミーヴに使われている?
じゃない!
今はそんな話でここに居るんじゃなかった。
また脱線しそうになったわ。
営業が相手に呑まれてどうする?
って別に今の俺は営業じゃないけど。
とにかく本題に戻って……
「ははは、すいません。で、お尋ねしたい事というのはですね……ルーロック山でダークエルフが出たって噂についてなんですが、御存じですか?」
俺は努めてライトに聞いたつもりだったが、俺に向けられていた肝っ玉母さんの疑い深い視線から力が失われ、顔からは血の気が引き、表情が強張った。
ご存じの様ですね。回りくどくやっていても仕方ないし、続けてしまおう。
「それに関連してだと思うのですが、山中でダークエルフの遺体が複数見つかりまして、身元の確認をしていたところ、こちらのヒロシ君に似ていると聞いたもので、念のために確認して頂きたいのですが、宜しいでしょうか。」
僅かに開いた口に震える手を当てて言葉を失い、今にも倒れそうな中、小さな声が聞こえた。
「入って……ください。」
ふらふらと揺れながらも入室を促された。
「失礼します。」
一礼をして上がり、通された部屋には初老の男性と若い男性がいた。
威圧感が凄い。
ちょっと穏やかじゃないな。
玄関でのやりとりが聞こえていたのか?
エルフのとんがった耳は地獄耳なのかな……
違うな、ヒロシが居なくなってからは神経がピンピンに研ぎ澄まされているんだろうな。
「すいません、私はあくまで確認作業だけに来ただけです。済みましたらすぐに退出しますので、悪しからず。」
「あぁ……」
世間話をする雰囲気でもないし、何か有益な情報を聞き出せる雰囲気でもない。
「では、早速ではございますが、ご確認ください。」
俺はローブを脱いで床を仰ぎヒロシの遺体を出した。
バターン!
間髪入れずに女性は意識を失って卒倒してしまった。
「ヒ……、ヒロシぃぃ……」
「にぃちゃん?嘘でしょ……」
男性2人は膝から崩れ、慟哭した。
二度目でも慣れないな。
あと3人か……
自分で言い出したとはいえ、やはり心が折れそうだ。
「私はこれで失礼します。」
やっぱり、闇落ちの連鎖は止めないといけない。
決意を新たにして俺は家から出た。




