第37話 無作法で不憫
「試したくないな。」
「そうだね。回復にどのくらい時間がかかるか分からないし、どの順番で、世の中に存在する毒を浴びて行けば良いかとか分からないもんね。もしかすると、特定の毒耐性を得たら別の毒に弱くなったりするかもしれないし……」
「ん-、奥が深いな“毒耐性”……無属性の毒が相手となれば、体力勝負か……あるいは血統勝負?親が毒に強ければ子も強いみたいな?」
犬は蝮の毒に耐性があるとかって聞いた事があるから、この異種交配有りの世界では遺伝で毒耐性を持っている人もどこかにいるかもしれないなぁ。
「そうだね~。でも、毒には詳しくないし……何とも言えないなぁ」
ん……?
もしかして、グラーシュは四属性持っていて、熊の遺伝子持ちだから、そこそこ毒に強いんじゃないか?
これからはグラーシュの時代……かもしれない。
今までの不遇期間をよく耐えたな。
逆に俺なんて“空”だから毒とかヤバそうだな。
この体が何に当たって下すかとか全然わからんし、もう血便も下痢も御免だ。
んーーー!!こうなったらグラーシュの手作り料理しか食べんぞぉぉぉーーー!
……って訳にもいかないか……困ったなぁ……
「あ!見えてきた!」
マコトの声で我に返り、視線を先に送ると集落が見えてきた。
二つ目の遺体ヒロシの返却先集落に到着した。
ミーヴ侯爵発行の身元保証書は、マジで万能で、今回も集落に入るのに何も疑われなかった。
ここまで万能だと、マコトがフードで顔を隠さずにダークエルフ全開で集落に入っても、「現在調査のために連行しています。」とかって言えば何とかなりそうな気もするなぁ。
「ここです!」
「良し!行ってくる!!」
マコトの指差しを合図に間髪入れずに気合を入れて玄関に立った。
こういう気の進まない訪問は近くでウロウロしてると不審者と見間違われて逆に面倒くさいことになるから、サクッと……
「すいませーんっ!」
……返事が無い?
「こんにちはーッ!」
ガチャッ
「うぉ!」
気配も無く突然開いた玄関に驚き、声を上げてしまった。
「何ですか?」
立て続けに飛んできた不愛想な一言も相まって動揺してしまったが、息を整えて平静を取り戻した。
「ヒロシ君のご自宅ですよね?」
「ヒロシなら死にました。」
「え?今なんて?」
予想外の返答に、ついザックリした質問を返してしまった。
「ヒロシは死にました。ヒロシの御用ならお帰り下さい。」
そう言うと玄関が締まり始めたので、慌てて足先をねじ込んだ。
「ちょ……ちょっと待って下さい。」
「な!何ですか!」
「あ、すいません、私はこういう者でして、ヒロシ君に御用という訳ではなくて……」
「え?侯爵の……いったい何の用ですか?それにその足ッ!」
「ご、ごめんなさい。」
俺はドアに挟まる足を引っ込めると、ドアを少し開けてくれた。
対応してくれていたのは、エルフの響きからほど遠い“肝っ玉母さん”だった。
そこに突っ込むと折角本線に戻れたというのに、自分から脱線してしまいそうなので、押し殺して話を続けた。




