第35話 魔法使いへの不屈
可能性はゼロ……
マコトの何気ない一言が俺の胸にぶっ刺さった。
俺に向けられた言葉ではないのは分かっているのに。
意識していなかったが、“空”と言われて、マイール山で儀式も済ませたのに水属性を得ることができなかった俺には、妙に耳を付いたようだ。
俺が自分と折り合いを付けようとする横でグラーシュとマコトの会話が続いた。
「グラーシュさんは、見た感じは丁寧に理論から学ぶタイプのように見えますけど……」
「そういうのは……そのぉ、ちょっと苦手です……」
「そうなんだ~、人は見かけによらないね。」
珍妙な会話に俺は我に返れた。
グラーシュの一見フォーマルっぽい服装から同性のマコトは知性を感じたのかもしれないけど……
グラーシュはゴリゴリの武人で露出狂の……
って、あぶねッ!!
的確な突込みで割り込んだりしたら、折角教える気になってグラーシュに興味を持っているマコトを邪魔しちゃう!
我慢、我慢。
黙って成り行きを……
「分かりました。何はともあれ見てもらうところから始めましょう!」
「はい!」
「ちょっ……ちょと待った!!実践は集落を出て、次の集落まで道中ね。」
「「はぁーい」」
俺の注意に二人の気の抜けた返事が返ってきた。
いや、ミーヴ侯爵の前で練習して、何度となく暴発して笑われていたのを忘れたんかい。
マコトだって、魔法使って目立ってダークエルフってバレたらマズいんだし。
二人はそんな俺の心の呟きを意に介さず馬を急かした。
集落から出るとすぐさまファイアの実演が始まり、次の集落までの道中はひたすらファイアの練習が二頭の間で繰り広げられていた。
俺だって水がダメでも、風がダメでも、火ならイケるかと思って二人の間に割って入り挑戦し続けたが、結果は散々なものであった。
マコトが丁寧に説明してくれているのは分かるし、話として理解は出来るんだけど、まっっったく体現できんのよ。
「ふざけてるよね?」
仕舞いにはマコトに怒られる始末だ。
「ふざけてなんていないよ。こちとら至って大真面目ッ!」
「ホントですか?それも含めて冗談?」
「いやいや、マジもマジ、大マジだ!こちとら、青魔法も緑魔法もダメだったから、今度こそは!って気合入りまくりだ!!」
威勢だけは良いが、全然ダメだ。
人類が繫栄できたのは火を使えたから……
人類の歴史に火ありだ。
そんな身近な道具とも言える火からのアプローチなら、マナを感じられるかと思ったんだけど……
何も感じない。
鈍いとかじゃない……情けなくなってくるほどの不感症……
隣でグラーシュは指先から小さな炎を出して楽しんでいる姿はいつも以上に輝いて見えた。




